2011年3月29日
黒部名水ポークのサムギョプサル(カエン)
白エビのチヂミ(カエン)
醤油にこだわるプルコギ(カエン)
コリアンキッチンカエンの外観
北海道ハスカップマッコリ(北の誉酒造)
ブンタンとマンゴーのマッコリ(菊水酒造)
富山県の韓国料理店を訪れる機会があった。日本でも人気が高まっているマッコリ(韓国式の濁り酒)の試飲イベントを開き、韓国産マッコリのほか、日本産のマッコリも集めて飲み比べた。昨年あたりから、マッコリは日本国内での生産も少しずつ増えており、いろいろな個性を楽しめるようになっている。日本の酒造会社が新商品として開発するケースや、韓国料理店などから委託を受けて生産するケース、あるいは韓国料理店が自ら酒造免許を取得するケースが該当する。
会場となった「コリアンキッチンカエン」は2004年にオープンした韓国料理店。普段は豚焼肉や鍋料理を中心に提供しているが、この日はイベントということで、富山にちなんだ特別料理を提供してくれた。富山湾の宝石と呼ばれる白エビのチヂミや、韓国風の味付けをほどこしたホタルイカの前菜など。レギュラーメニューでもあるサムギョプサル(豚バラ肉の焼肉)には富山県産の黒部名水ポークを使用し、同じく富山県産のサンチュで包んで味わう。富山の食材と韓国料理がしっかりと調和していた。
また、その一方で、見た目ではわからないが、実は富山流という料理もあった。薄切りの牛肉に甘い醤油ダレで下味をつけ、山型の鉄板で焼くプルコギ。韓国料理店では定番の料理だが、「コリアンキッチンカエン」では地元産の醤油にこだわるという。「富山の人は醤油が味の決め手になるんです。富山でも西と東で違いはありますが、東側は全体的に濃い目の味付けが好まれますね。このプルコギも韓国の方が食べたら塩辛いとおっしゃいます」と社長の矢郷美穂子さん。食材だけでなく、味付けも富山流なのだ。
こうした地元の食文化と韓国料理の融合は各地で見られるようになった。もっとも有名な例としては、B級グルメの祭典「B−1グランプリ」で知名度をあげた各務原キムチ(地元産のニンジンと、姉妹都市である韓国の春川市産松の実を使用)の例がある。個人的な体験では、広島に行った際に、地元産の牡蠣が入ったスンドゥブチゲ(柔らかい豆腐鍋)を食べたのが印象的だ。
冒頭で紹介した日本産のマッコリにも同様の傾向が見られる。北海道札幌市のマッコリバー「Chandan(チャンダン)」を経営する権寧洙(クォン・ニョンス)さんは、北海道産のハスカップを使用したマッコリを考案。小樽市にある北の誉酒造の協力を得て、昨年12月からの発売にこぎつけた。また、高知県安芸市の菊水酒造でも、地元産のブンタンを使ったマッコリを昨年11月から販売している。こちらは同社の女性スタッフが開発を行う「女性による女性のためのお酒づくりプロジェクト」の一環として開発されたもの。ほかに、プレーン味、マンゴー味のマッコリも扱っている。
韓流以降、韓国の食文化はそれ以前と比べてはるかに身近なものになった。韓国には「身土不二(シントブリ)」という言葉がよく語られるが、これは自分の身体と、自らが住む環境は同じものだという考え方。転じて、地元でとれた食材がもっとも自分の身体に合うと考えられる。郷土食材を使った韓国料理は、韓国における食への姿勢とも合致している。
●郷土食材とキムチ
郷土食材を使った韓国料理として、もっともポピュラーな試みはキムチへのアレンジではないかと思う。東京の韓国料理店では小松菜のキムチをよく見かけるが、これは韓国ではまず見ない日本オリジナルのキムチ。小松菜は江戸時代に東京都江戸川区小松川付近で品種改良され、現在も東京近郊での栽培が多い地場野菜だ。同様にカッキムチ(カラシナのキムチ)を作る代用として、高菜(カラシナの変種)が用いられることも多い。
●店舗データ(地図)
店名:コリアンキッチンカエン
住所:富山市内幸町3−1エイゼン第1ビル2階
電話:076−433−0650
店名:マッコリBar Chandan(チャンダン)
住所:北海道札幌市南4条西5−10第4藤井ビル6階
電話:011−242−1269
社名:菊水酒造株式会社
住所:高知県安芸市本町4−6−25
電話:0887−35−3501
コリアンフードコラムニスト。1976年生まれ。東京学芸大学アジア研究学科卒業。1999年より1年3カ月間韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年に韓国料理をテーマにしたメールマガジン「コリアうめーや!!」を創刊。同名のホームページ(http://www.koparis.com/~hatta/)も開設し、雑誌、新聞などでも執筆活動も開始する。著書に『八田式「イキのいい韓国語あります。」』、『3日で終わる文字ドリル 目からウロコのハングル練習帳』、『一週間で「読めて!書けて!話せる!」ハングルドリル』(いずれも学研)がある。
日々、食べている韓国料理を日記形式で紹介するブログ「韓食日記」も運営中(http://koriume.blog43.fc2.com/)。 ※執筆者の新著が出ました。「魅力探求!韓国料理」(小学館)。