2011年10月31日
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何年か前に大阪の韓国料理店でテールスープ(牛の尾肉を煮込んだスープ)を頼んだところ、具にタマネギやゼンマイが入っていて驚いたことがある。韓国で食べるテールスープ(コリコムタン)の場合、牛テールのほかは大根と刻んだ長ネギが入る程度。野菜、山菜を入れて具だくさんに作るのは珍しい。その店独自のアレンジかとも思ったが、その後、大阪の別の店でも類似のテールスープに出会い、きちんと理由があることを知った。
大阪市生野区の韓国居酒屋「どゃ」を営む金秋子さんによれば、上記のテールスープは済州島(チェジュド)にルーツがあるという。済州島は朝鮮半島の南に浮かぶ島のことで、周辺の離島とともに済州特別自治道という行政区を構成している。島だけあって独自の文化が発達しており、他地域とは異なる個性的な郷土料理も多い。大阪には済州島出身の在日コリアンが多く住んでいるため、そんな郷土料理のいくつかが伝わって一部の韓国料理店でも提供されるようになった。テールスープもそのひとつであるという。
金秋子さんのご両親もやはり済州特別自治道の出身。母から習ったという済州島風テールスープの作り方を教えて頂いた。
「済州島のテールスープにはワラビが入ります。うちの店では済州島産の乾燥ワラビを取り寄せて使っています。乾燥ワラビはいったん水で戻した後、5〜6回煮ることでアクを抜き、小麦粉、醤油、塩、コショウを加えて丁寧に揉み込みます。このときにワラビの繊維がほどけて柔らかくなるんです。小麦粉が入るというのも特徴のひとつで、全体的にとろみのついた仕上がりになります。これらを4〜5時間かけて煮込んだ牛テールのスープと合わせて、もう1度煮立てたら出来上がりです」
金秋子さんの話によれば、ワラビを使うことと、小麦粉でとろみをつけることが大きな特徴だそうだ。ゼンマイで代用する方法もあるが、その場合はワラビのように柔らかな食感にならないという。確かに済州島といえば韓国でも有名なワラビの名産地であり、ワラビが旬を迎える春の長雨を「コサリチャンマ(ワラビ梅雨)」と呼び表すほど。食べ方もナムル(和え物)にするほか、炒め物やスープ料理と幅広く利用されている。テールスープにワラビを入れるという調理法は済州島ならではといえよう。
「どゃ」ではこの済州島風テールスープを常時メニューに載せており、ほかにもいろいろな済州島料理を提供している。スエと呼ばれる済州島式の腸詰め(標準語ではスンデ、済州島では春雨やもち米を入れず、豚の血液に牛スジ、小麦粉などを加えて作る)や、カオリフェ(エイの刺身と生野菜の和え物、エイを発酵させずに食べるのが済州島式)、ムッサラダ(済州島の特産品であるそばのでんぷんを固め、生野菜と和えたもの)など。近年人気のマッコリ(韓国式の濁り酒)も、済州島産をわざわざ取り寄せるほどのこだわりようだ。ソウルをはじめとした他地域とはまた異なる、「済州島ならではの食文化を知って欲しい」と金秋子さんは語る。
●済州島のワラビ料理
済州島で食べられている郷土料理のひとつにコサリユッケジャンがある。料理名をそのまま解釈すれば、「コサリ(ワラビ)」を入れた「ユッケジャン(牛肉の辛いスープ)」だが、実際にはワラビと豚肉を煮込んだスープを指す。下煮をしたワラビと豚肉をよく揉み込んで柔らかくし、そば粉を加えてとろみを出すのが特徴。味付けは醤油をベースとして辛口にはしない。テールスープと共通する部分も多い調理法だ。
●店舗データ(地図)
店名:どゃ
住所:大阪府大阪市生野区勝山南2−8−7
電話:06−7890−9100
http://doya-tejikarubi.com/
コリアンフードコラムニスト。1976年生まれ。東京学芸大学アジア研究学科卒業。1999年より1年3カ月間韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年に韓国料理をテーマにしたメールマガジン「コリアうめーや!!」を創刊。同名のホームページ(http://www.koparis.com/~hatta/)も開設し、雑誌、新聞などでも執筆活動も開始する。著書に『八田式「イキのいい韓国語あります。」』、『3日で終わる文字ドリル 目からウロコのハングル練習帳』、『一週間で「読めて!書けて!話せる!」ハングルドリル』(いずれも学研)がある。
日々、食べている韓国料理を日記形式で紹介するブログ「韓食日記」も運営中(http://koriume.blog43.fc2.com/)。 ※執筆者の新著が出ました。「魅力探求!韓国料理」(小学館)。