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日本でマッコリを造る理由

2012年2月24日

  • 筆者 八田靖史

写真木川工房で造られる「とんいマッコリ」(木川工房) ※写真をクリックすると拡大します 写真銘柄の「とんい」とは韓国語で甕を指す(木川工房) ※写真をクリックすると拡大します 写真杜氏の金南斗さん。手造りにこだわる(木川工房) ※写真をクリックすると拡大します 写真白さと発泡感から名付けられた「うさぎのダンス」(吉久保酒造) ※写真をクリックすると拡大します 写真マッコリの状態を確かめる吉久保博之さん(吉久保酒造) ※写真をクリックすると拡大します 写真大きなタンクでは日本酒「一品」を醸造(吉久保酒造) ※写真をクリックすると拡大します

 マッコリという単語の認知度が高まるにつれて、日本国内での生産も少しずつ増えている。本場である韓国からの輸入も増えているが、その中で国産にこだわる意味はどこにあるのだろうか。ブームに乗ってとの側面もあるかもしれないが、酒造で話を聞く限り、決してそれだけではないようだ。国産マッコリの生産現場を訪ね、話を聞いてみた。

 現在、日本で流通している国産マッコリを見ると、製造元を大きくふたつに分類することができる。ひとつはマッコリのために酒造免許を取得したケースで、これは2007年に東京の韓国料理店が初めてその道を開いた。もうひとつは既存の酒造会社がマッコリ造りに参入するケースで、こちらは同じ米を原料とする日本酒の酒造に多い。筆者の把握している限りでも、両者を合わせて30以上の酒造で国産のマッコリが造られている。

 前者の例として訪れたのは千葉県富里市にある「木川工房」。2011年6月に酒造免許を取得し、伝統製法にこだわってマッコリ造りを始めた。韓国で評価の高い高敞(コチャン)地方の甕器(オンギ)と呼ばれる甕を用い、杜氏の金南斗(キム・ナムドゥ)さんが母から教わった技術でマッコリを醸造する。「日本に来て、本当のマッコリが伝わっていないと感じました。私の母は群山(クンサン)という地域で、1970年代までマッコリを造っており、地元では名人と呼ばれていました。母から習った技術をそのままに、本物のマッコリを伝えたいと考えています」と金南斗さん。ただし、甕と麹は韓国産を使っているが、主原料となる米は地元、千葉県産の多古米を使用する。「よい材料を使うのも母の教え」との理由からだそうだ。

 後者の例として訪れたのは茨城県水戸市にある「吉久保酒造」。1790年創業という歴史のある日本酒の酒造で、マッコリの開発は2005年にスタートした。きっかけとなったのは同時期に自社の日本酒を韓国に輸出し始めたこと。このとき韓国を訪問した専務の吉久保博之さんが、本場の生マッコリに出会って一目惚れした。以後、苦労を重ねながらも試作を繰り返し、2010年から販売を始めている。「日本酒のユーザーは比較的年配の方が多く、もっと若い方、特に女性に支持される商品を造りたいとの思いから開発を進めました。マッコリは米を原料としつつ、アルコール度数が6%前後と飲みやすいのが持ち味です。これを日本酒の入門編として、5年後、10年後に日本酒へ戻ってきてもらいたいとの気持ちがあります」と吉久保さん。昨年には「水戸の梅まつり」にちなんで「梅マッコリ」を開発。今月からは花見シーズンの期間限定で「桜まっこり」の販売も始めた。

 酒造ごとにきっかけはさまざまだが、それぞれ思いを込めて自社のマッコリを世に送り出している。また、その過程で少しずつ、日本的な要素を含みつつあるのは面白い。地元の食材や特産品と結びついたり、花見のような日本文化と絡めたり。こうした流れから国産のマッコリを「和まっこり」と呼ぶ向きも出てきた。日本に地に馴染み始めたマッコリが、今後どのような展開を見せていくかも楽しみのひとつだ。

●国産マッコリの魅力

 国内でマッコリを造るメリットのひとつに鮮度の問題がある。韓国で一般的に飲まれているマッコリは、火入れをしない「生マッコリ」と呼ばれるもので、発酵が止まっていないため賞味期限は冷蔵状態で10〜30日程度と短い。また賞味期限内であっても、発酵が進めば酸味が生じて味が変わる(ただし本場ではその酸味を好む人も少なくない)。国内生産は生マッコリをフレッシュな状態で消費者に届けるための地の利でもある。

●店舗データ地図

社名:木川工房
住所:千葉県富里市日吉台3-24-2
電話:0476-85-8708
http://makkoli.biz/

社名:吉久保酒造
住所:茨城県水戸市本町3-9-5
電話:029-224-4111
http://www.ippin.co.jp/

プロフィール

八田靖史(はった・やすし)

コリアンフードコラムニスト。1976年生まれ。東京学芸大学アジア研究学科卒業。1999年より1年3カ月間韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年に韓国料理をテーマにしたメールマガジン「コリアうめーや!!」を創刊。同名のホームページ(http://www.koparis.com/~hatta/)も開設し、雑誌、新聞などでも執筆活動も開始する。著書に『八田式「イキのいい韓国語あります。」』『3日で終わる文字ドリル 目からウロコのハングル練習帳』『一週間で「読めて!書けて!話せる!」ハングルドリル』(いずれも学研)がある。

日々、食べている韓国料理を日記形式で紹介するブログ「韓食日記」も運営中(http://koriume.blog43.fc2.com/)。 ※執筆者の新著が出ました。「魅力探求!韓国料理」(小学館)。

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