今でこそ日本で韓国映画が、韓国で日本映画があたりまえのように上映されていますが、90年代中頃まで日本映画はソウルの日本文化院などの公共施設で、一部の日本通(主にお年寄り)のために細々と上映されていたに過ぎませんでした。
私も日本に留学する少し前、文化院に足を運び日本映画に触れました。そのとき、いちばん最初に観た映画が「男はつらいよ」でした。当時私はまだ20代前半でしたので、ハラボジ(おじいちゃん)ばかりの鑑賞室で映画を観ることがかなり辛く、ハングル字幕がなく細かいニュアンスが伝わらなかったこともあり、「もっと若い人向けの作品をやればいいのに」などと思ったものでした。それでも、ああいった下町人情喜劇は韓国人の琴線にもふれるので、それなりに楽しく観たと記憶しています。確か北朝鮮の金日成・金正日親子も「男はつらいよ」の大ファンでしたね。
それから約10年が経ち、東京のCDショップで「男はつらいよ」のDVDを見つけ、懐かしくて何本か買ってしまいました。あらためてこの映画を観ると、以前とはずいぶん印象が違っていました。私自身がある程度年齢を重ねたせいでしょうか(笑)、笑えるところだけではなく、しみじみと味わうところ、ほろっとするところが多く、こんなに繊細な作品だったのかと驚かされました。それ以来すっかり寅さんファンになり、出張のとき浅草の名画座に出かけたり、シリーズ48作をすべて買い揃えるまでに至ったのです。
そこで今回は、映画「男はつらいよ」の韓国版リメイクを夢想してみたいと思います。
旅暮らしの露天商がふらっと故郷に戻ってきては騒動(片思い)を巻き起こすという物語の骨格は、韓国でもそのまま通用します。それどころか、日本以上に受け入れられやすいといっていいでしょう。「男はつらいよ」シリーズの後半は、日本の社会背景と大きくズレているという指摘があったようですが、西洋的近代化のスタートが日本よりずっ遅かった韓国には、柴又的風景がまだたくさん残っていますからね。
まずは寅さんこと車寅次郎のキャスティングについて考えてみましょう。リメイクの成否はこれにかかっていると言っていいでしょう。知名度があり、人間くさい演技に定評のある俳優(寅さん役をイメージしやすい作品名)を挙げて見ますと──。
アン・ソンギ(鯨とり、トゥー・カップス)
キム・ミョンゴン(風の丘を越えて)
チェ・ミンシク(パイラン)
ハン・ソッキュ(ナンバー・スリー)
ソル・ギョング(オアシス、光復節特赦)
ユ・オソン(友へ)
ソン・ガンホ(反則王、JSA、殺人の追憶、孝子洞理髪師)
「シルミド」の演技しか見ていない人にはピンとこないかもしれませんが、人間の弱さを演じるならアン・ソンギ。無条件で見たいですが、難を言えばやや顔が整っていることでしょうか? キム・ミョンゴンも寅さんの演技は守備範囲、パンソリという放浪芸の名手なので、露天商役にはぴったりなのですが、少々知的過ぎる顔立ちが「?」。チェ・ミンシクの寅さんも「あり」ですね。ふられ役がすごくハマりそう。名優ハン・ソッキュの寅さん役も楽しみですが、印象がスクエア過ぎるでしょうか? ヤクザ役の多いソル・ギョングとユ・オソンのダメ男ぶりも見ものですが、二人とも目つきが鋭いのが「?」
前ふりはこれくらいにしておきましょう。実は私の中の韓国版寅さんは、すでにソン・ガンホで決まっています。舞台出身で、ふだんは口数が少ないが、芝居に入ると別人になるというあたりは生前の渥美清さんとそっくり。「反則王」での三枚目ぶり、「JSA」や「孝子洞理髪師」で見せた人情肌、「殺人の追憶」の単純さと純朴さは、寅さん役に打ってつけです。私は渥美清さんの寅さんを見るたびに、いまだ発揮する機会に恵まれない「母性本能」を(笑)大いに刺激されるのですが、その意味でもソン・ガンホは合格点に達していると思います。
想像力を大いにかきたてる「男はつらいよ」韓国版構想。次の機会には、寅次郎の妹役さくらをはじめとするレギュラー陣のキャスティングと、物語の舞台設定(韓国の柴又探し)について考えてみたいと思います。
「男はつらいよ」韓国リメイクが現実のものとなったら、是が非でも企画チームに加わりたいと思っている鄭銀淑でした。
(04/07/01)
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