現代の日本はデザインを消費する国である。日本は優秀なデザイナーを沢山輩出してきた国であるにも関わらず、日本の美しいデザインの寿命は非常に短い。かつてBE-1という車があったが、大人気を博したにも関わらず、ホンの少しの生産台数で姿を消してしまった。深澤直人デザインの携帯INFOBARは大変に売れた優れたデザインであったが、瞬く間に姿を消してしまった。優れたデザイナーを起用した柴田文江のデザイン家電は、なぜかヨドバシカメラのような量販店には出荷せず、一部のデパートやデザインショップにしか見つからない。私は良いデザインをプレミアムではなく、日本中の全ての人々に送り届けたい。日本人は本来デザインがわかる人種である。アイフォンが瞬く間にNTTドコモから膨大な客を奪っていったのは、デザインが良いからである。たぶん無印良品はこの点を上手く付いた、数少ない国内の成功例であろう。

アルネ・ヤコブセンにより1955年にデザインされた、セブンチェアという椅子がある。この椅子は、54年が経った今でも現代建築の中に登場している横綱である。最先端のデザインの中においても見劣りしないどころか、未だにこの椅子に対抗できるデザインは少ない。このデザインの強みは、日常性である。人の体に合った曲線と適度の弾力性。積み重ねるのが容易な形状と、誰でも持ち上げられる軽さ。注意深く監理されたベニヤ板の温もり。見てくれだけの形態は何処にも無い。全てが人の生活のために設計された、究極の美学である。デザインは特別の日のための物ではない。

大量生産技術無しに、現代人は生きることができない。アーツ・アンド・クラフツの唱えるように、全てを職人の技術に頼ることは不可能である。それでも、アーツ・アンド・クラフツの日常のためのデザインという精神は今でも有効である。むしろ大量生産時代だからこそ、よりデザインが誰にでも行き渡るはずである。丁寧にデザインされた製品は、長く大切に使われ人の生活を豊かにする。


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