「となりのトトロ」のサツキとメイの家は懐かしい。2階に上がると真っ黒くろすけがいる。よろい戸を開けるとひろがる緑。日のあたる縁側。風呂もよく見てみると色々と面白い。湯船が二つあって、たぶん一つは熱い湯を入れておいて、大きい方に足すのだろう。宮崎駿が描くのはあたりまえにあった懐かしい日常である。温泉に行くのであれば、古い風情のある温泉に泊まりたいと誰もが思う。不思議な話である。古い宿は隙間だらけで、風が吹くとガタピシいう。床だって冷たい。それでもなぜ古い方が良いのか。私に言わせれば答えは一つ。今の住宅には趣がないのである。趣は職人の創意工夫から生まれる。創意工夫から生まれた物は一つ一つが違う。例えば同じ型から大量生産された茶碗には趣が無いが、一つ一つ手作りされた茶碗には趣がある。昔の家は出来不出来はあるにせよ全て創意工夫無しには作られていない。今この職人の創意工夫が危機に瀕している。

今、大工さんの作る木のサッシが消えつつある。10年前であれば簡単に出来た木サッシを作る大工さんが、殆ど姿を消してしまった。理由は大工さんの作る木のサッシにはJISマークが付いていないからである。もちろん保証書も付いていない。残念ながら今の世の中は保証書が付いていなければ誰も信用しない。ところで、果たして保証書が付いていればそれでよいのであろうか。保証書とは、問題が起きた時に誰が責任をとるかということを書き記した文書である。その保障する筈の会社がなくなれば、保証書は単なる紙切れとなる。建築の寿命は大多数の企業より遥かに長い。保証書は、決してその製品そのものが良いということを説明する文章ではない。住宅を作るとき、木のサッシが良いですか、アルミサッシが良いですかと聞くと、殆どの人が木が良いと答える。それにも関わらず世の中にはアルミサッシが多い。このことは有機野菜に起きていることと似ている。無農薬の有機野菜と農薬と化学肥料を使った野菜のどちらが良いかと聞けば、殆どの人が無農薬の有機野菜が良いと答える。それにも関わらず世の中では、スーパーには農薬と化学肥料を使った野菜が並ぶ。職人が創意工夫を凝らして作る品物には不都合が多い。これは無農薬の有機野菜には不都合が多いことと同じである。無農薬の有機野菜は曲がっていたり、少々虫がかじった跡も残っていたりする。その不都合な部分を不良品として毛嫌いするのが現代である。しかしその不都合を許容しなければ、本当に美味しい野菜は手に入らない。今多くの人がそのことに気がつきつつある。同様に住宅に関しても職人の不都合を許容して、その不都合を補って余りある長所に気がついて欲しい。木のサッシは狂うかもしれないが、職人が数年調整にくれば、その後は狂うことは無い。ちゃんとメンテナンスをすれば100年だって持つ。アルミサッシのように、冬の寒い日でも木の枠は結露したりしない。

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