中学校講師 北川久美子(岡山県 61)
子どもに万葉集の歌を紹介する「ナカニシ先生の万葉こども塾」でおなじみの奈良県立万葉文化館名誉館長の中西進先生が行う出前授業の記事を先日読んだ。9年前の4月、中西先生に出張授業を申し込み、中学2年の生徒40人が柿本人麻呂の長歌を教えていただいたことを懐かしく思い出した。
赴任2年目だった私は、生徒に思いを伝えることの難しさを感じていた。先生は74歳とは思えないほどエネルギッシュで、教え方の引き出しの多さに舌を巻いた。難しい言葉や専門用語を使わず、生徒と会話をしながらの授業。荒れて授業が成立しにくい状態だった生徒らが難しい長歌をしっかりと理解した。「どのくらい歌を知っていますか」と聞かれた先生が「何も知りません」とおっしゃり、生徒は驚いていた。万葉集は奥深く、知れば知るほど、これまで知らなかったことにも気付くという意味だった。中西先生に教えてもらった生徒は幸せだった。