<連載> デジタルReライフの勧め

安価な優れものが続々登場 今どきのオーディオライフ

たくきよしみつ「デジタルReライフの勧め」(8)

2018.11.07

 文筆家のたくきよしみつさんが主に60代からのデジタルライフを勧める連載。今回からは、オーディオ、写真、動画撮影といった楽しい趣味の世界にご案内します。

 8回目の今回は、オーディオ趣味をいかに安く、合理的に充実させるかというお話をしましょう。

 私たちが若い頃には、音をアナログ信号として記録したレコード盤や磁気テープなどを再生していました。

 しかし、今、私たちが毎日耳にしている音楽は、ほぼすべて「デジタル録音」されたデジタル信号を再生した音です。CDであれ、ハードディスクであれ、メモリーカードであれ、記録されているのは0と1の羅列である数値(デジタル信号)ですから、ノイズも入りにくいですし、低音から高音までエネルギーを減衰させることなく再生できます。データは短時間でコピーできますし、コピー時にエラーが生じない限りは、アナログ信号が記録されたレコード盤や磁気テープのように音質が劣化することもありません。

 さらには、デジタル化によって私たちは音楽を「安く」楽しめるようになりました。

 アナログ時代を懐かしみ、レコードやカセットテープに回帰するのもいいですが、今となってはとてもお金がかかる趣味になっています。老後資金に不安を抱える庶民には、かなり厳しいでしょう。

 ここは素直に、デジタル時代の恩恵を受けようではありませんか。

お金をかけるべきは「アナログ変換」

 デジタルオーディオを最も簡単に再生するシステムは、(1)スマートフォン(スマホ)などで再生した音楽の信号をBluetooth(無線規格のひとつ)で飛ばし、(2)その電波を受信して増幅するアンプを内蔵したスピーカーで音を出す、という方法です。

 これですと道具は送り手側(スマホなど)と受け手側(Bluetooth機能付きアンプ内蔵スピーカー)の二つしかいりません。Bluetoothを受信して再生できるアンプ内蔵スピーカーは1組数千円から売られています。とにかく安く、気軽に音楽を楽しみたいという人にはこの方法がベストでしょう。スピーカーを部屋ごとに用意しておけば、居間でも寝室でも仕事部屋でも、同じ音源から音楽を再生できます。

 しかし、これでは「オーディオ趣味」というにはちょっと味気ないですよね。特にマニアではなくても、「デジタルは音がキツい」「安っぽいプラスチック製品ばかりで楽しくない」と感じる人も多いかと思います。

 そこで私が提案するのは、かつての高級オーディオシステムにも負けない音質を安価に楽しめる「高品位ミニマムオーディオ」環境作りです。

たくき連載(8)
筆者が愛用している「ミニマムオーディオシステム」(たくきよしみつ撮影)

 必要なのは、(1)パソコン(古くてもOK)(2)DAコンバーター(DAC、1万円前後のものでOK)(3)小型デジタルアンプ(数千円)(4)スピーカー(好みでなんでも)……の四つです。

 (1)のパソコンは、音楽のデータファイルを保存し、再生する部分を担当します。古くなって使わなくなったノートPCなどを音楽再生専用にリユースするのも賢い方法です。

 (2)のDACというのは聞き慣れない代物かもしれませんが、デジタル信号(D)をアナログ信号(A)に変換(Convert)するパーツのことです。DACの品質によって再生音質は大きく変わります。

 スマホやパソコンには最初からDACが内蔵されています。スマホのヘッドホン端子にヘッドホンをつないで音を聴いたり、パソコンのLINE出力端子からアンプ内蔵スピーカーにつないで再生したりする場合、内蔵DACがデジタル信号をアナログ信号に変換してくれているのです。

 しかし、スマホやパソコン内蔵のDACは「オマケ機能」のようなもので、品質がよいとはいえません。変換されたアナログ信号の質が悪ければ、その後いくら高級なアンプやスピーカー、ヘッドホンをつないでも、それ以上いい音にはなりません。音質にこだわるなら、DAC部分は高品位な製品を別に用意したいものです。

 単独のDAC製品というのは極めて少ないので、「ヘッドホンアンプ」という名称で売られている製品を外部DACとして利用する方法でもかまいません。この場合、ヘッドホンアンプにUSB入力端子とLINE出力端子(多くの場合、L、R個別のRCA端子=ピンジャック)がついていることを確認してください。価格は1万円前後から十数万円の超高級品までありますが、1万円前後の製品でもスマホやパソコン内蔵のDACよりは高品位です。

 通常、パソコンとDACはUSBケーブルでつなぎます。パソコン内蔵のDACは通さずに、デジタル信号のままとりだす形なので、パソコンの性能は音質にはほとんど関係なくなります。古いパソコンでもOKというのは、そういう理由からです。

 マイク入力なども備えた外部オーディオインターフェースという製品にもDAC機能はありますが、同じ価格ならDAC機能のみの製品のほうが高品質だと考えられます。マイクアンプを内蔵させた分、DAC部分のコストを削っていることになるからです。

アンプは小型デジタルで決まり

 デジタル信号を高品位なアナログ信号に変換できた後は、それをアンプで増幅し、スピーカーから出すという流れです。ここはオーディオ趣味の中でもいちばんおいしい、花形役者が活躍する部分ですね。

 アンプは、かつては数百万円する高級真空管アンプとか、重さが10キロを超えるような製品などがもてはやされました。でも現代は、それらを凌駕(りょうが)する音を出す数千円の小型デジタルアンプが存在します。

 1998年、インド出身のDr. Adya S. Tripathiという天才技術者が、それまでの常識を覆す方法のアンプを開発し、発表しました。デジタル理論を応用して、小指の先ほどのICチップで極めてシンプルに音声信号を増幅させる技術を実現させたのです。

 この方式を採用した小型アンプは通常「デジタルアンプ」と呼ばれていますが、入力したアナログ信号を増幅させ、より高い出力で送り出すという働きは、従来のアナログ式アンプと同じです。

 初期に製品化された「TA2020」というICチップは、わずか3ドルで販売されました。これを採用した新方式のアンプが、数百万円クラスの高級アンプとの目隠し試聴テストで勝利するといった伝説も生まれました。実際、ソニー、東芝、シャープ、サムスンといった名だたる電機メーカーが、ラジカセやミニコンポ、パソコン、テレビなどに採用し、Adya博士の発明はあっという間に世界に広まりました。オーディオ趣味には、こうした「伝説」も重要かもしれませんね。

 この方式の小型アンプ(ほとんどは中国製)はAmazon.comなどで数千円で売られています。安い、小さい、高音質、電気を食わない……と、いいことばかり。もう、アンプはこれでいいんじゃないでしょうか。

 いろいろな製品が出ていますが、できれば、ついているのはボリュームつまみだけというような、超シンプル構成のモデルを選びましょう。DACの選定と同様、余計なパーツがついていないほうが、必要不可欠なパーツに金をかけているはずだからです。

スピーカーは自作も楽し

 最後にスピーカーですが、これは昔も今もまったく変わらない「100%アナログ製品」です。スピーカーはアンプ以上に音の個性がありますし、見た目も重要でしょうから、ご自分の趣味に合わせて好きに選んでください。

 必ずしも高いものがいい音だとは限りません。どんな音を「いい音」と感じるかは人それぞれですが、1個数百円で売られているスピーカーユニットを組み込んだ自作スピーカーが、数十万円の高級ブランドスピーカーより「いい音」で鳴ることだってあり得ます。

 私が今、メインのデスクトップパソコンにつないでいるスピーカーは、手作り。チボリオーディオという、高級ラジオなどを手がける米国のマニアックなメーカーが、中国工場に作らせているスピーカーユニット(1個2100円×2で購入)を使い、市販のミニコンポの中古スピーカーの箱(1000円で購入)に組み込んだものです。スピーカーユニットがむき出しだと、ネコののぼるくんに引っかかれるのが怖いので、後からメッシュグリルのカバー(2個で795円)を取り付けました。

 このスピーカーの長所は、小口径のフルレンジ(低域から高域まで一つのユニットで再生する)スピーカーゆえの素直さと、透明感です。中高年はどうしても聴力が落ちてきて超高域が聞こえませんから、シンプルな構成の小型スピーカーのほうが、長時間聴いていても疲れず、ほっとします。

 どうせ作るなら、迫力があり、抜けのよい音が楽しめるバックロードホーン型(スピーカーユニットの後ろから出た音を、箱の中に作った折れ曲がったトンネルを通して前面に出す方式)はいかがでしょう。自作バックロードホーンスピーカーと聞くと、古くからのオーディオファンは、故・長岡鉄男さんの名前を思い出すのではないでしょうか。私も若いときにいくつか作りました。

 自作といっても、スピーカーボックスは裁断済みの板がキットの形でいろいろ売られていますし、そこにユニットをはめ込むだけですから、どんな日曜大工よりも簡単です。作る過程も趣味として楽しめます。

 こんな風に、デジタルの恩恵は目いっぱい享受した上で、アナログ部分をじっくり楽しむのが、合理的で大人っぽいオーディオ趣味だと考えますが、いかがでしょうか。

 デジタルを縦横に駆使して、執筆や作曲など多彩な表現活動を展開しているたくきよしみつさんは「デジタルReライフ」を推奨しています。それは、長年親しんだアナログ文化の本質を見失うことなく、デジタル技術を賢く使うことで、ライフスタイルを整えてゆく営みです。インターネットを通じていかに人とつながり、あなたらしい表現を発信していくか。この連載では、そのノウハウをご紹介します。

◇ 

たくき・よしみつ(鐸木 能光)

 1955年、福島生まれ。91年、原子力政策の闇をテーマにした小説「マリアの父親」で第4回小説すばる新人賞受賞。住んでいた福島県川内(かわうち)村で2011年、福島第一原発の原発事故に被災。その体験を元に「裸のフクシマ」(講談社)、「3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ」(岩波ジュニア文庫)を執筆。近著に「医者には絶対書けない幸せな死に方」(講談社+α新書)。作曲などの音楽活動、デジタル文化論、狛犬(こまいぬ)の研究などを幅広く手がけている。

公式サイト https://takuki.com/

  • この連載について / デジタルReライフの勧め

    アナログ世代こそが、デジタルを賢く使えるはず。60代の文筆家がデジタルツールを活用した「デジタルReライフ」のノウハウを伝授。長年親しんだアナログ文化の本質を見失わず、インターネットを通じて人とつながり、発信するコツを紹介します。

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