<連載> デジタルReライフの勧め

ネットが先生 楽器初心者でも気軽に挑戦できるんです

たくきよしみつ「デジタルReライフの勧め」(12)

2018.12.05

 文筆家のたくきよしみつさんが主に60代からのデジタルライフを勧める連載。その12回目(最終回)は、趣味の世界をデジタルで広げる実践編の第4弾。テーマは楽器演奏です。

 「楽器演奏? それってデジタルとは関係ないんじゃないの?」と言われそうですが、デジタル時代だからこそ、楽器演奏のようなアナログな趣味も、昔よりずっとやりやすくなっているのです。それを、私自身の体験をもとに説明していきたいと思います。

弾けなくても買えば楽しいデジタル楽器

 私が小学校就学前まで育った家は粗末な木造長屋でした。風呂はもちろん、トイレさえありません。冬の寒い日は、外の共同トイレに行くのが辛かったのを覚えています。

 母は教育熱心で、私に「絶対音感」をつけさせようとしていたのですが、トイレのない長屋住まいでは、ピアノなど夢のまた夢でした。当時から、子どもにピアノを習わせる親はいましたが、家にピアノがあるというのはお金持ちの象徴であり、普通の家庭では考えられないことでした。

 それに比べ、今はいい音が出るデジタルキーボードが数千円からあります。子どもに音楽教育を施すことはずっと楽になったはずですが、日本の子どもをとりまく音楽教育環境は、むしろ昔より貧相になった気がしています。楽器は安くなっても、親の心や生活に余裕がなくなっているのでしょうか。

 デジタル楽器は別に子どものためのものではありません。時間にゆとりができたリタイア世代が、今からデジタルキーボードを買って遊ぶのも悪くありません。

 まったく弾けなくても、自動演奏機能や、自動伴奏機能などがついている機種なら、それらを試すだけでもかなり遊べます。

 自動伴奏機能というのは、例えばC(ド)の鍵盤を押しただけでCメジャー(ドミソ)の和音をリズム付きで勝手に演奏してくれるというものです。リズムはロックやバラード、ラテン、ワルツなどから選べるので、指1本でもカッコいい伴奏ができてしまいます。それを録音(記録)する機能もついている機種なら、速い曲の伴奏を指1本や2本でものすごくゆっくりのテンポで弾いて記録し、それを速いテンポで再生させ、歌の伴奏にするといったこともできます。

 難しく考えず、楽器というよりも一種の玩具だと思って楽しめばいいのです。

55歳で始めたデジタル楽器「EWI」

 私は、未経験の楽器に挑戦しては、数日で諦めた経験が過去に何度もある根性なしです。

 大学生のときはナベサダ(渡辺貞夫さん)のサックスに憧れ、質屋で中古のアルトサックスを買ったものの、数日で諦めて転売してしまいました。

 40代のときにはチェロの音色に憧れ、ヤマハのサイレントチェロという胴体のない楽器を買いましたが、これも数日で諦めて売ってしまいました。こういう挫折の経験は、多くの人が持っていると思います。

 根性なしの私ですが、55歳のときに初めて手にしたEWI(イーウィ)というデジタル楽器はなんとかものになりました。

 EWIは、息を吹き込んで音量や強弱を変化させる吹奏楽器型シンセサイザーです。

たくきよしみつ連載12回目
EWI(ウィンドシンセサイザー)を演奏する筆者

 シンセサイザーなので、吹奏楽器類だけでなく、バイオリンやチェロのような弦楽器的な音も出せます。この楽器を知って、私の音楽人生は一気に豊かになりました。

 運指は小学校でやらされたリコーダーと基本的に同じなので、数日でコツをつかめました。すっかり気に入って、購入数週間後には ewifan.comというEWIを紹介するサイトまで作ってしまったほどです。「軟弱なインチキ楽器」と思う人もいるかもしれませんが、何も演奏できないよりはできたほうがいいに決まっています。

 今はこのEWIで「デジタル・ワビサビ」という、デジタルだけど渋くてメロディアスな音楽を作ることに挑戦しています。百聞は一聴にしかずですので、興味があるかたは私のサイトをのぞいてみてください。デジタル楽器に対する印象が変わるかもしれません。

ネットを音楽教室にする

 デジタルとはまったく縁のない完全なアナログ楽器を楽しむのにも、ネットやデジタルツールが役に立ちます。

 私の父は今90歳。要介護3で、介護施設のお世話になっていますが、その施設の施設長から「入居している老人や、楽器に触ったことのない介護スタッフでも楽しめるような楽器教室をやってほしい」と頼まれ、今年から月1回、ウクレレを教えに行っています。

 教えるといっても、相手は認知症の老人や、忙しくて楽器練習などやっている暇のない介護スタッフですから、ほとんど進歩はありません。

「生まれて初めて楽器というものに触った。こんなに楽しいなんて!」と、笑顔で言ってくれるおばあちゃんもいますが、認知症なので、翌月にはすっかり忘れていて、また「生まれて初めて触った!」と同じことを言います。でもまあ、一人でも、一瞬でも、楽しく過ごしてもらえればいいかと、続けています。

 実は、私はギター歴なら長いのですが、ウクレレには興味が持てず、63歳になるまで触ったこともありませんでした。しかし、この介護施設でウクレレを教えているうちに、中高年が気楽に始められる楽器として、ウクレレはうってつけではないかと思うようになりました。

 小さい。軽い。安い。あまり大きな音は出ないので、周囲の迷惑にもなりにくい。簡単なコードをいくつか覚えれば、いろんな曲の伴奏がすぐにできるようになる……とまあ、敷居の低い楽器なのですね。

 教え始めた当初は生徒の楽器を借りていたのですが、次第にウクレレが楽しくなり、自分用のウクレレも買ってしまいました。5000円しない安物ですが、色やデザインがおしゃれで、単純に「物」として気に入っています。たいして弾きもしないのにウクレレをコレクションして楽しんでいる人がいますが、その気持ちも、なんとなく分かるようになりました。

 ともあれ、ウクレレは初体験でしたので、最初は調弦やコードポジションなどをネットで調べることから始めました。

 すると、多くの人がウクレレのレッスン動画をYouTubeなどに公開しているのを知り、驚きました。これならお金を出してウクレレ教室に通うこともないでしょう。しかも、ネットなら自分に合った先生を見つけられます。

 弾きたい曲のコードなども、ネットで検索すればすぐに分かります。介護施設のおばあちゃんからは「俺は河原の枯れすすきをやって」などと言われ、困ったのですが、検索すると『船頭小唄』という曲だと分かりましたので、翌月にはウクレレの伴奏で歌ってあげました。

 ハワイアンの代表曲『アロハオエ』なども、演奏動画やレッスン動画がいっぱい見つかります。それらをタブレットで再生したり、コード譜を表示させたりしながら練習すれば、楽譜集を買う必要もありません。

 そんなことをしているうちに、自分もネット上でウクレレ教室を開いてみようと思い立ち、やってみました。こちらです。

デジタルReライフのすすめ

 じじばばになるまで楽器に触ったことがないというかたには、ウクレレは最適な趣味になりえます。

 たとえうまく弾けなくても、ウクレレに触ってポロポロ音を出しているだけでも癒やされ、寿命が延びるかもしれませんよ。猫の頭をなでて癒やされるようなものです。ネコと違って、ウクレレは餌代はかかりませんし、トイレの始末も必要ありません。数千円で立派なものが買えますから、気軽に始めてみてはいかがでしょうか。

 今回でこの連載シリーズは終了です。みなさんの楽しみを広げるお手伝いができたら幸いです。ご愛読ありがとうございました。

 デジタルを縦横に駆使して、執筆や作曲など多彩な表現活動を展開しているたくきよしみつさんは「デジタルReライフ」を推奨しています。それは、長年親しんだアナログ文化の本質を見失うことなく、デジタル技術を賢く使うことで、ライフスタイルを整えてゆく営みです。インターネットを通じていかに人とつながり、あなたらしい表現を発信していくか。この連載では、そのノウハウをご紹介します。

◇ 

たくき・よしみつ(鐸木 能光)

 1955年、福島生まれ。91年、原子力政策の闇をテーマにした小説「マリアの父親」で第4回小説すばる新人賞受賞。住んでいた福島県川内(かわうち)村で2011年、福島第一原発の原発事故に被災。その体験を元に「裸のフクシマ」(講談社)、「3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ」(岩波ジュニア文庫)を執筆。近著に「医者には絶対書けない幸せな死に方」(講談社+α新書)。作曲などの音楽活動、デジタル文化論、狛犬(こまいぬ)の研究などを幅広く手がけている。

公式サイト https://takuki.com/

  • この連載について / デジタルReライフの勧め

    アナログ世代こそが、デジタルを賢く使えるはず。60代の文筆家がデジタルツールを活用した「デジタルReライフ」のノウハウを伝授。長年親しんだアナログ文化の本質を見失わず、インターネットを通じて人とつながり、発信するコツを紹介します。

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