
ビフィズス菌が減りにくい? 百寿者の腸
慶大の百寿総合研究センターで私は、百寿者の腸内細菌も研究しています。その結果、百寿者の腸内細菌は、私たちとは異なる点が多いことがわかってきました。違うから長生きなのか、長生きしたから違うのかは、まだ分かっていません。
一般的に腸内細菌は、高齢になると年齢と共にビフィズス菌が減り、大腸菌が増えます。でも、百寿者の腸内細菌のパターンは、60歳ぐらいの時のパターンを維持できているのです。なぜビフィズス菌が減らないのか、その理由はまだ分かりませんが、百寿者の腸管内では炎症が起きにくい傾向があり、炎症が起こると減りやすい菌が生き残っているからではないかと考えています。
車は新車で買っても、使ううちに傷付いて劣化していきます。それは、人の体も同じです。例えるなら炎症とは、ついた傷を修復しようとするときに起こる変化です。腸内に炎症が多いということは、それだけ腸内が傷付きやすい環境にあるということです。百寿者に炎症が少ないということは、腸内が傷付きにくい生活をしているということでしょう。
腸内が傷付く最大の原因はストレスです。ストレスは、腸管の炎症を促進します。睡眠不足や食生活の乱れ、人間関係の悪化などは、全てストレスになります。ストレスが少ない方が、腸内細菌も豊かに育ちます。
日本人の腸内細菌は洋食に不慣れ?
日本人の食生活は戦後大きく変化し、肉類や乳製品が主体の欧米型になりました。日本人に糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病が増えたのは、その影響です。
今、ラオスの人たちは1日に3合ぐらいのお米を食べています。日本人も、かつてはそうでした。お米を長期的に食べている人に多い腸内細菌に「プレボテラ菌」があります。欧米人にはあまりいないのですが、アジア人では20~30%もいます。日本人では、欧米型の食事の影響でかなり減ってきましたが、それでもまだ持っている人は結構います。日本に稲作が伝わったのは、3千年以上前の縄文時代後期とされていますが、それからずっとお米を食べてきたことで、日本人の腸内にはプレボテラ菌が定着してきました。
お米を食べてきた歴史に比べれば、日本人が欧米型の食事をするようになったのは、まだごく最近のことと言えます。ですから、私たちの腸内細菌は、欧米型の食生活にはまだ慣れていないのです。
日本人は、それほど太っていなくても糖尿病になりやすいのですが、欧米人では太っていても健康な人がたくさんいます。その違いは、長い米食の歴史の中で定着した腸内細菌の遺伝子の違いが関係しているかもしれません。腸内細菌の人種差や民族差は、今後の研究課題です。
ご飯を中心に、多様な食生活を
百寿者の食生活を見ると、菜食主義者という訳ではなく、肉もしっかり食べています。彼らは総じて、食欲がしっかりあり、食に対する興味を失っていません。いい加減な食事をしていると、食のバラエティーがどんどん狭まり、腸内細菌も老化していきます。「一汁一菜では物足りない、もっといろんなものを食べたい」と思えることが、大事なのではないでしょうか。
幸福寿命を延ばすには、自分がわくわくするような食事をするのがいい。その意味で、食を誰かと共にすることは重要でしょう。「孤食」はダメです。
ヨーグルトを食べて、ビフィズス菌や乳酸菌をとるのも良いことです。あくまで仮説ですが、ヨーグルトを食べて自分の腸内細菌と似た菌が腸管内に入って行くと、免疫が揺り動かされ、ワクチン効果のような働きで自分の腸内細菌が元気になるのではないかと、私は考えています。
ヨーグルトと同じ発酵食という意味では、塩分の問題さえクリアされるなら漬物やみそ汁も良いと思います。まだ食糧難だった時代に、ご飯とみそ汁と漬物を食べていたことが、最低限の健康レベルの維持につながり、現在の日本人の長寿にもつながっています。
その意味で、和食を見直すのは良いですね。ご飯があれば何でも食べられる日本人は、ご飯をハブにして様々なおかずを食べますが、それに比べて外国人は食のバラエティーが少ない。食のバラエティーを確保することは、腸内細菌叢を豊かにし、幸福寿命を延ばす上で有効だと思います。(談)
◇
伊藤裕(いとう・ひろし)
京都大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科博士課程修了。ハーバード大学医学部、スタンフォード大学医学部にて博士研究員、京都大学大学院医学研究科助教授を経て現職。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。日本高血圧学会理事長もつとめる。高峰譲吉賞、井村臨床研究賞など受賞多数。近著に「幸福寿命 ホルモンと腸内環境が導く100年人生」(朝日新聞出版)「「超・長寿」の秘密ー110歳まで生きるには何が必要か」(祥伝社新書)など多数。
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この連載について / 著者が語る健康腸寿
近年ますます注目を集める「腸内フローラ」。肌荒れ、アレルギーから肥満や心にまで影響を与えるとされ、関連書籍もたくさん出版されています。腸にまつわる様々な話を著者にききました。
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