食生活などの生活指導を治療にとり入れ、うつ病患者の腸内細菌を調べる研究も行っている功刀浩さん(国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第三部部長)に、うつ病と生活習慣との関連について伺いました。

うつ病は生活習慣病の1つ
うつ病の治療は、食生活をはじめとした生活指導が重要だと思っています。うつ病の治療は、「休息」「環境調整(ストレスや発症の誘因となったきっかけをとり除く)」「心理療法(認知行動療法など)」「抗うつ薬などの生物学的治療(重症の場合は通電療法を実施)」の四つが柱になりますが、私は「食生活などの生活指導」を加えた5本柱で治療しています。
21世紀に入ったころからうつ病と生活習慣の関連について盛んに研究されるようになり、うつ病も生活習慣病の一つであるという考え方が広まってきました。食事に関してはバランスのとれた食事をしているほうが、うつ病になりにくいという報告が多くあります。バランスのいい食事とは、例えば野菜、果物、大豆製品、きのこ類、緑茶などを多く摂取する食事です。
現代日本では、食の問題が三つあります。一つはエネルギーの過剰摂取による肥満の問題、二つ目が製品化された食品が増えたことによる栄養不足、三つ目が極端なダイエットによるエネルギー・栄養不足です。製品化された食品の場合、エネルギーを摂取することはできますが、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素は不足しやすいのです。こうした食の問題から、さまざまな生活習慣病が発症すると考えられますが、うつ病もその一つです。
また、車社会の発展による運動不足、夜型生活による睡眠不足も、うつ病の発症に関わります。うつ病はストレスがきっかけとなって発症しますが、バランスのとれた食事をとって適度に運動し、夜間に十分な睡眠をとれていれば、たとえストレスがあっても発症しないのではないでしょうか。
鉄や葉酸などの不足でうつ病に!?
栄養素に関してはうつ病の予防につながるとされているものが、いくつか報告されています。その中で特に現代人が不足しやすいのが「鉄」「葉酸」「ビタミンD」「亜鉛」です。私はこれらの栄養素に着目し、うつ病の患者さんには定期的に血液検査をして各栄養素の数値をチェックしています。そして不足している場合は、補充する治療を行います。鉄はドーパミンという神経伝達物質をつくる酵素が働くときに必要です。ドーパミンは、興味や快感に関わる神経伝達物質で、ドーパミンが不足するとうつ病を発症し易くなります。葉物野菜やレバーに多く含まれる葉酸もドーパミンやセロトニンなど神経伝達物質の合成に必要な栄養素です。抗うつ薬には神経伝達物質を増やす作用がありますが、こうした栄養素が不足していると、抗うつ薬の効きも悪くなってしまうと考えられます。
医師、特に精神科の医師は栄養学について詳しく学ぶ機会がほとんどありませんでした。栄養学的知識がないままでは食事指導ができません。そこで私は独学で栄養学を学び「NR・サプリメントアドバイザー(⽇本臨床栄養協会認定)」の資格も取得し、管理栄養士さんの協力も得てうつ病治療に積極的に食事指導をとり入れています。
生活習慣を改善すれば、認知症の予防にもなる
うつ病治療の一つに「休息」がありますが、これは心の休息であって、体の休息ではありません。もちろん激しい運動をする必要はありませんが、少しずつ生活に運動をとり入れることが大切です。まずは5分のウオーキングから。それを1週間続けられたら、次の週は10分というように少しずつでかまわないのです。
私が診てきたうつ病患者さんの中でも、生活習慣を改善できた人ほど、再発が少ないことを実感しています。いくら抗うつ薬などによる治療でうつ症状が改善したとしても、生活習慣を改善しなければ、再発する可能性が高くなるのです。
うつ病は「そのままの生活を続けていたら危ない」という危険信号。生活習慣の改善は、簡単なことではないですし、薬のように効果がすぐに出るものではありません。けれども生活習慣を変えることは、ほかの生活習慣病や認知症の予防にもつながるのです。
うつ病になったことを生活習慣や腸内環境を変えるいい機会だと捉えて、これまでの生活を見直してほしいと思います。(談)
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この連載について / 腸サイエンスの時代
腸、とくに大腸にすむ数百種類、百兆個におよぶ細菌たちがつくる「腸内フローラ」。その状態が、心や体の健康、美容などに大きく関わっていることが最近わかってきました。21世紀は腸の時代ともいわれる今、各分野の最新研究を紹介します。
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