人生100年時代を迎え、老後の不安を解消するために、資産の寿命を延ばしていくことが、これからますます大事になっていきます。こうした中で、定年退職以降も働くという意思を持つシニアが増えつつあります。では、定年退職後をどのように生きていくのが理想的なのでしょうか。50代である今からやるべきこと、老後のお金の使い方、そして、おひとり様になってからのことを整理してみました。

定年退職後を意識して、50代から実践していただきたいことは三つあります。一つ目は、生涯収支が黒字になるのか、赤字になるのか、「お金の見える化をする」。二つ目は、できるだけ「長く働く」方法を考える。三つ目は「社会保障制度を知る」です。
貯蓄150万円でも不安ゼロの理由
私事で恐縮ですが、私の定年退職時の貯蓄は150万円しかありませんでした。普通なら不安に思うかもしれませんが、自分は将来に対して楽観的でした。
というのも、この三つを実行に移したからです。これから受け取る企業年金や公的年金はいくらくらいあるのか、自分が死んだ場合、妻が受け取れる遺族年金はいくらなのか、退職金と合わせて今後の収入を一覧表にしました。また、退職の2年前から家計簿をつけ、ライフイベントも盛り込んだ生活費の見積書も作りました。それをセットにして妻に見せたところ、妻も安心してくれたのです。その上で、2012年に独立開業。以来、資産運用やライフプランニングに関する講演や研修を行ったり、お金に関する本を執筆したりしていますが、これからも長く働くつもりでいます。
「大江さんだから長く働けるんだよ」と言われることもあります。それは半分正しいけれども、半分は違っていると思います。私は自分のキャリアを生かして独立開業しました。自分ならではの選択で、これ以外の働き方は不可能です。ですので、皆様方もご自身の経歴やスキル、趣味などを生かした、自分らしい仕事を見つけて長く働いていただきたいと思います。
投資は本当に必要か?
こんな形で、50代の皆様方もやるべき三つのことを実践すれば、老後のお金の不安はかなり軽減されるはずです。もし、この三つをやってみた上で、資金的に余裕があって、リスクも許容できるなら、投資、運用をしましょう……という人がいるかもしれません。国も「貯蓄から投資へ」を主張し続けていますが、私はその考えに対して中立です。元本割れする可能性のある投資なんてダメだとも、老後の金融資産を増やすために投資は必要ですとも言いません。
そもそも、私は投資を第一に考える必要はないし、できるだけ持っている金融資産は取り崩さない、ということを資産長寿術の基本スタンスとしています。
というのも、退職金をもらった元サラリーマンのお金のあり方について、三つの理想パターンがあると考えているからです。まず、日常生活費は公的年金で賄う。60歳で退職した元会社員と専業主婦のモデル世帯では、公的年金の支給額が月22万円程度という試算がありますが、この範囲内で生活できるよう、支出をコントロールします。
次に、おいしいものを食べたり、遊びに行ったりする楽しみのためのお金や、趣味のお金は働いて稼ぐ。
そして、会社員時代にためたお金や退職金はできるだけ取り崩すのを先送りする。病気、ケガをしたとき、要介護状態になったとき、あるいは老人ホームなどへ入居するときなど、大きなお金が必要になったときのために取っておきます。
このようなお金の付き合い方をしていれば、老後資金をつくるために投資や運用を第一に考える必要はないのです。
おひとり様のための工夫も必要
老後資金の長寿術で、もう一つ考えておいていただきたいのは、夫婦のどちらかが先立ってしまったときのこと。一般的にいえば、女性は男性よりも長生きするので、妻がおひとり様になったときの資金プランも、しっかり考えておきましょう。
私が提案したいのは、二つ。第一に、妻も厚生年金をもらえる働き方をする。厚生年金に加入すると保険料負担が増えて手取りが減ってしまう「106万円の壁(一部の企業の場合は130万円)」がありますが、そこにこだわらず、自分が受け取れる年金額を増やした方が、長い目で見ればメリットは大きいということです。1億総活躍社会といわれる今、自分らしく輝くためにもどんどん壁を突き抜けて、将来の収入を増やした方がお得です。
第二に、年金の繰り下げ需給の方法を工夫する。前回、「WPP」の話をしました。Wは長く働く、2つのPは私的年金と公的年金のことで、生きている限り受け取れる公的年金は、受給を繰り下げて増額し、最終手段として使うと申し上げました。65歳から受け取る老齢基礎年金を1年繰り下げると、その増額率は8.4%にもなります。70歳まで受け取りを待てば、42%も年金が増えるのです。リスクゼロで、これほどお金が増える金融商品は、今の日本に存在しません。年金の繰り下げ受給は、効率的な資産運用方法ともいえるわけです。
ただし、これを誰かれ構わずやろうということではありません。例えば夫の年金は通常通り65歳から受給し、妻の分だけ繰り下げて受取額を増やすという発想があってもよいと思います。
人生100年時代のマネー処方箋
老後の三大不安は、お金、健康、孤独といわれています。おひとり様になると、よりこの不安は強くなる傾向があります。しかし、長く働くことでお金の不安は軽減されます。働けば、頭も体も使うので、健康を維持することも可能です。また、社会とつながるため孤独感も薄れます。
長く働くこと、私的年金と公的年金を上手に使い、貯蓄の取り崩しを先送りにする。これこそが私の考える「人生100年時代のお金の長寿術」です。
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