<連載> 住まい探し 生き方探し

「おひとり」の終の新築、なじみの土地に小さくつくりかえ

住まい探し 生き方探し(2)/(作り手編)新築を担当した建築士の村上あさひさん

2020.02.28

 築年数の古いファミリータイプの戸建て住宅に、老夫婦もしくは年配の方がおひとりで居住する場合、「空間が広すぎてスペースが余る」「急勾配の階段やつまづきやすい段差が多く危険」「住宅強度に不安を感じる」など、さまざまな悩みが生まれてきます。こうした住宅への「住まいにくさ」を抱えつつも、同じ場所に住み続けたいと思ったとき、どのような選択肢があるでしょうか?

 今回は、同じ土地に住宅を建て替えることを選択された川瀬さんの邸宅を紹介します。12年前に夫が突然亡くなり、それまで家族で住んでいた築40年の戸建住宅は「1人で住むには広すぎる」と感じたのがきっかけだったそうです。コンパクトでありながらも、将来の暮らしを見据えた必要な機能が全て揃っており、趣味も思う存分楽しめる安全な住まい。そんな「おひとりさまの終(つい)の新築」を提案された建築士の村上あさひさんにお話を伺います。

連載:住まい選び 人生選び(1)/川瀬邸

快適に暮らせる「小さな家」を提案

 川瀬さんの住宅は、延べ床面積124平方メートルのロフト付きの平屋。もともと住んでいた2階建ての戸建て住宅(築45年)を取り壊し、容積を小さくして新築しました。79平方メートルの1階部分に、リビング、キッチン、ダイニング、寝室、お風呂、洗面所、トイレ、収納など、生活に必要な機能をコンパクトに配置し、階段を上ったロフト部分に多目的に利用できる空間(現在は川瀬さんが趣味で作った洋服や小物を保管している)を配置するという風に、機能的に分類されているのが特徴です。

 新築にした理由は、もともとの住宅に耐震補強を含んだリノベーションを施す費用と新築の費用にあまり差がなかったことが1つです。また将来は娘さん夫婦が住み継ぐという話もあり、それなら川瀬さんと娘さん夫婦の要望を取り入れた住宅を新築しようと決まりました。

連載・住まい探し 生き方探し 川瀬さん宅の間取り
川瀬さん宅の間取り。1階には生活に必要な機能を、2階には多目的に利用できる空間を配置している

 川瀬さん宅の設計では、3つのことを実現しました。

 1つめは、長く安全に暮らせる空間です。川瀬さんの住宅では、生活に必要な機能を全て1階に集約したことにより、階段の上り下りの動作を含まずに生活を完結できるようにしています。つまり、身体機能が低下しても、自力で生活を続けやすい住まいなのです。

 また、将来介護が必要になったり寝たきりになったりした場合を考え、生活の大半を過ごす寝室やリビングは太陽の光が適度に差し込む南側の大窓の近くに。介助者の方に心地よく過ごしてもらえるように、日当たりの良い和室を寝室の隣に。という風に、これから先の具体的な生活場面まで掘り下げたプランニングもしていきました。

 さらにバリアフリーの観点からは、「つまずきやすい小さな段差を無くす」「歩行の支えとなる手すりを設置する」「車椅子生活を想定して廊下の幅を広めにとる」「全てのドアを開けやすい引き戸にする」など、細やかな工夫も施しています。

連載:住まい選び 人生選び(1)/川瀬邸
プライベートのダイニングキッチン。外から柔らかい光が差し込む、吹き抜けが開放的な空間

住宅は小さく、楽しみは大きく

 2つめは、趣味の空間です。川瀬さんの趣味の1つは、ガーデニングや家庭菜園。住宅をコンパクトに縮小したことによって生まれた敷地の余白にお庭を拡張させたことで、川瀬さんは草花の手入れに熱が入り、趣味をより一層楽しむようになりました。今ではお庭に地域の方を招く「オープンガーデン」というイベントに参加するのが毎年の楽しみになっているようです。

連載:住まい選び 人生選び(1)/川瀬邸
部屋から眺めたお庭。春には色とりどりの花が育つ

 また、住宅内にも川瀬さんの趣味の空間が詰まっています。設置したのは、川瀬さんが人を招くための“セカンドリビング”と“土間のギャラリー”。これらは、友人とお庭を眺めながら趣味の洋服やアクセサリーづくりを楽しんだり、お茶会をしたりと、ゆっくりと時間が流れる生活を望まれていた川瀬さんの思いから生まれたスペースです。住宅の南側全面に大きな掃き出し窓を設けたことで、セカンドリビングはやわらかい自然光が差し込み、色とりどりの草花が眺められる気持ちの良い空間になりました。

 このような間取りの再編成は、リノベーションでもある程度は可能です。しかし木造住宅の場合は住宅の強度が柱や壁の位置に左右されるので、ある程度制限された中で行なわざるを得ません。つまり、新築だからこそ住まい手の思いを最大限に生かした間取りが実現できたのです。

連載:住まい選び 人生選び(1)/川瀬邸
木をふんだんに使った川瀬さんの住宅。写真はセカンドリビングからギャラリー、ロフトを眺めたところ

優しい素材と環境に囲まれた生活

 3つめは、娘さんからの要望でもある「環境に優しい住宅」です。近年は「低炭素住宅」などと呼ばれ、環境にも人間の身体にも配慮した住まいとして注目が高まりつつあります。

 少しの冷暖房で室内の温度が均一に保たれる構造のため、1年中快適に過ごすことができ、さらに高齢者に起こりがちなヒートショック現象(急激な温度の変化によって血圧が乱高下したり脈拍が変動すること。高齢者の場合、失神や心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などを引き起こし、身体へ悪影響を及ぼすこともある。)の予防にもつながります。

 無垢(むく)の木材をふんだんに使用した温かみのある川瀬さん宅では、夏でも冬でもエアコン1台で快適に過ごすことができます。

 コンパクトでありながらも、将来の暮らしを見据えた必要な機能が全て揃っており、趣味も思う存分楽しめる安全な住まい。それを実現したのが川瀬さんの住宅です。

連載:住まい選び 人生選び(1)/川瀬邸
住宅の設計を担当した村上さん(右)と、将来住宅を住み継ぐ予定の川瀬さんの娘さん

基本情報

●提供サービス:住宅設計
●設計・施工者、事業者: 村上あさひ(一級建築士事務所MUK)
●築年数:7年(建物竣工年:2012年)
●延べ床面積:124m²(平屋(一部ロフト付き))
●工事費用(設計料込み):約2,400万円
●住まいのこだわりポイント
〈趣味・価値観を生かした点〉
・気軽に友人が集まり、趣味を楽しむ空間
住宅の容積を減らし、お庭を拡張。
頻繁に友人を招き、ちょっとした立ち話や、洋服・小物づくり、お茶会などを楽しめる
ギャラリーとセカンドリビングを設置。
〈機能性〉
・身体機能が低下しても自力で生活しやすい空間
1階部分に生活に必要な機能を配置し、階段の上り下りの動作を含まずに生活を完結できる間取り、不必要な段差の解消、手すりの設置、車椅子も通れる廊下の幅の設定、引き戸のドアを設置。
 環境への配慮
少しの冷暖房で室内の温度が均一に保たれるストレスの少ない住環境を設計。

  • この連載について / 住まい探し 生き方探し

    退職したとき、子どもが巣立ったとき、パートナーが旅立ったとき、生涯独身を決意したとき、サポートが必要になったとき……。さまざまな場面で住まい方とともに、自分の生き方を振り返るタイミングが訪れます。人生後半を前向きに生きるためのヒントとなる住まい方を紹介します。

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