高齢化に伴って増加しているパーキンソン病。脳の神経細胞の一部の働きが低下することで、体をうまくコントロールできなくなる病気です。薬物治療で症状を抑えるのが治療の基本ですが、現在のところ根本的に治す方法はありません。どのような人が発症するのか、原因は明らかになっていませんが、近年は腸内細菌の関与を示唆する研究結果が多く報告されています。パーキンソン病患者の診察をする一方、病気の発症と腸内細菌の関わりを研究している平山正昭さん(名古屋大学神経内科准教授)によると、患者の腸内細菌にはある特徴があるそうです。
患者の腸内で増える菌、減る菌
腸とパーキンソン病発症の関連についての研究結果が数多く報告されるようになり、腸内細菌の解析が簡単になってきたため、私も2011年ごろからパーキンソン病の人の腸内細菌について研究を始めました。それまでの研究報告から考えると、パーキンソン病の人の腸内細菌は善玉菌が少なくなっているのではないかと予想していたのですが、私たちのグループの研究では結果は、必ずしもそうではありませんでした。パーキンソン病の人は乳酸菌が増えていたのです。ただし、これはパーキンソン病の治療薬である「COMT阻害薬」の影響である可能性があります。病気によるものか、薬によるものなのかは、これから解析が必要です。

また、私たちの研究ではパーキンソン病の人の腸内は、「フィーカリバクテリウム」などの菌が減少する一方、「アッカーマンシア」という菌が増えていることもわかりました。
特に症状が重くなるほど、この傾向が強くなり、もともとアッカーマンシアが少なかった人もパーキンソン病が重症化するにつれて出てきます。フィーカリバクテリウムは、大腸の粘膜細胞のエネルギー源となったり、腸管を守ったりする短鎖脂肪酸の一種・酪酸をつくる菌ですが、アッカーマンシアは飢餓状態になると、腸の粘膜を食べてしまうことが知られている菌です。
「腸もれ」が起こっている?!
ここからはあくまで私の仮説ですが、アッカーマンシアが増えて腸の粘膜を食べられると、若いうちは修復することができますが、短鎖脂肪酸も少なくなっていると修復できずに腸の粘膜が薄くなります。すると腸内の悪い物質が粘膜でバリアーされずに直接腸の神経叢(神経の集まり)や血管の中にもれでてしまう、いわゆる「腸もれ」のような状態になる。こうした異常な状態で病気を発症させる異常タンパク質「αシヌクレイン」ができやすくなります。
それらが神経や血液を介して、脳に到達してパーキンソン病を発症させるのではないかと考えています。ただし、アッカーマンシアは、体にとっていい働きもするという報告もあります。腸内はさまざまな菌同士が共存しながら生息しています。特定の菌のよしあしではなく、菌同士のネットワークを考えることが必要なのだと思います。
便秘があると薬も効きにくい
実際にパーキンソン病の患者さんの多くは、重い便秘に悩まされています。便通が1週間に1回という人もいて、ひどい人は腸閉塞(へいそく)になり救急車で運ばれることもあります。
実は重い便秘は、パーキンソン病の薬物治療の効果を下げてしまいます。便秘がある人は腸の動きも悪いので薬が腸まで届かず、胃にとどまります。胃ではほとんど吸収されないので、薬が効かないのです。よくパーキンソン病の患者さんは、「昨日は効いたけど今日は効かなかった」というように、日によって薬の効きめにばらつきがあることを訴えますが、それは便秘も関係している可能性があると考えられます。

つまり、便秘を改善することは、パーキンソン病の治療効果を上げるためにも大切なことなのです。診療現場でも酸化マグネシウムの便秘薬を処方するほか、患者さんにはよく体を動かすようにアドバイスしています。パーキンソン病の患者さんは抑うつ傾向がある人が多く、引きこもりがちになります。動かないと便秘を悪化させてしまうのです。
腸内細菌はあくまでパーキンソン病発症に関連する一つの要素です。遺伝子や残留農薬との関連も指摘されています。パーキンソン病の現在の治療は、症状を抑えることはできますが、進行を止めることはできません。今後もパーキンソン病と腸内細菌の研究に取り組むことで、病気の原因の解明や、病気の進行の抑制につながるのではないかと期待しています。(談)
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