
早期退職は人生の大きな選択の一つ。その決断に至る事情はさまざまです。
早期退職をきっかけに、キャリアアップのための新たな挑戦を試みる人、環境を変えることで現状を打破しようと考える人。いずれにせよ、早期退職を人生のよい転機にしたいという願いは共通しています。ただ、それが本当に正しい選択肢なのかという不安もあります。
そこで今回は、早期退職で失敗しないために、確認しておくべきことや準備しておくべきことをご紹介します。
<目次>
早期退職とは?
「早期退職」とは、会社が定める定年退職の期限より前に自らの判断で退職することで、それによって支払われる退職金が優遇される制度のことです。一般的には「早期優遇退職制度」を指す言葉として使われています。経営不振などを理由に、従業員の人件費削減や組織の人員構成を整えることを目的として、早期退職者を募集する場合もあります。
早期退職の対象となる年齢
早期退職の対象となりやすい年齢は40~50代です。近年では、業績が好調な企業であっても、早期退職者の募集を行う企業が増えているようです。バブル期に大量入社した社員による年齢の逆ピラミッドの社員構造を解消するためといわれています。
早期退職でもらえる退職金
早期退職は、会社都合による退職制度のため、もらえる退職金は、一般的な金額よりも割り増しになる傾向があります。
厚生労働省の行った「就労条件総合調査」(2018年版)によると、早期退職優遇制度で受け取る退職金の平均額は、2,326万円(45歳以上かつ勤続20年以上)となっており、定年まで働いて得られる退職金(1,983万円)を超える金額が、早期退職時点で得られるものとなっています。
2017年には三越伊勢丹ホールディングスが、早期退職者の退職金加算額を最大で5,000万円に設定したとの報道が話題を呼んだこともありますが、労働条件の良い大企業ほど退職金加算額も高額となる傾向があります。
早期退職の現状
早期優遇退職制度は、運用する企業によって形が違います。企業によっては「選択定年制」といった形で採用されていることもあります。また、会社の経営状態悪化などの理由で退職者を募る臨時の早期退職者募集が行われることもあり、この場合、退職希望者が予定人数に満たない場合は「整理解雇」などの処置がとられることもあります。加えて、所属企業に籍を置いたまま再出発を目指す「役職定年」という形もあります。
それぞれの意味や運用方法について詳しく見ていきましょう。
選択定年制
「選択定年制」とは、社員が45歳、50歳、55歳などの区切りのよい年齢に達すると、早期退職をするか継続して働くかを自分の意思で選べる制度です。2013年4月の「改正高年齢者雇用安定法」の施行により、雇用者側は社員全員を65歳まで雇用することを義務付けられましたが、そのメリットとデメリットのバランスをとるべく設けられた、労働者側の意思で定年のタイミングを決められるという意味合いの制度になっています。
会社の定めるいくつかの定年の該当年齢に達した段階で退職を選択すると、退職金の優遇措置が受けられるのが一般的です。ただし、選択定年制による退職は、あくまでも自己都合の退職であるため、失業手当を受給するには、離職後3カ月の失業期間が必要になります。
業績悪化が理由の臨時の早期退職者募集
人員削減によって会社の業績回復を図ったり、会社が目指す組織体制に急きょ見直したりするために、特定のタイミングで早期退職者を募集することがあります。この制度では、原則として常時実施されている通常の早期退職者募集と同様以上の退職金の優遇を受けることができる一方、希望人数が業績回復の設定ラインに届かない場合など、強固な退職勧奨など解雇に近い形の処置がとられる場合もあります。
実質的に会社から早期退職に応募するように迫られた場合などは、会社都合の退職となるため、行政の認定により、失業手当は、退職後すぐに受給を開始することができます。
役職定年
「役職定年」とは、会社が定めた時期に部長や課長などの役職者がその任を解かれ、一般職などに転じることを指します。多くの企業が、本来の定年時期より手前の55歳付近に適用年齢を定めています。役職定年は実際に企業から離職する「退職」とは異なりますが、企業と従業員の関係を年齢を基準にリセットするという意味で、早期退職と関連性の深い制度といえます。
役職定年を迎えると、その後の給与は下がり、役職の付かない一般社員と同格になりますが、所属企業に残り、一定の安定した給与を得ることはできます。ただ、役職定年によって仕事へのモチベーションを維持できなかったり、役職者時代との給与の差があまりに大きかったりするために、結局は退職を選ぶというケースもあります。このため役職定年を迎えるのと同時に、早期退職を選ぶことができる企業も少なくありません。
早期退職の決断前に知っておくべきメリットとデメリット
早期退職には次のメリットとデメリットがあります。
早期退職のメリットとは
- ・退職金が多くなり転職支援が受けられるなど会社のバックアップがある
- ・自己の能力やキャリアを生かした転職や起業など、新たなキャリアのチャンスになる
- ・趣味などやりたいことにチャレンジできる
早期退職のメリットとして、退職金が優遇され、転職活動を専門家に支援してもらえるなど、退職する会社のバックアップを受けられることが挙げられます。退職金を元に起業することも可能です。
また、住宅ローンを退職金で完済して返済計画から自由になったり、子育て卒業後のライフプランをゼロベースで考え直したりと、仕事だけではない、新たな生活や挑戦の起点とすることもできます。明確な目的や将来設計があり、より幅広い人生の選択を求める人にとって、早期退職は有効な手段になります。
早期退職のデメリットとは
- ・定期的な収入がなくなる
- ・無職期間が長引くおそれがある
- ・年金の受給額が減る
早期退職のデメリットは、主に収入に関することです。
退職後は定期収入がなくなるため、再就職が決まったり起業した事業が軌道に乗ったりするまでは、退職金と貯金を切り崩しながらの生活を強いられる可能性があります。
多くの場合、早期退職者は新しい職場を探すことになりますが、無職の期間が長くなるほど再就職が難しくなる傾向があります。
前職では管理職として活躍した実績があっても、すぐに就職先が見つかるとは限りません。また、社会全体では人手不足であるものの、求人環境は職種により全く異なります。再就職先がなかなか見つからず、結局希望以下のポストや収入額を受け入れることになるケースもあります。
また、無職の期間や個人事業主の期間が長びくと、将来の厚生年金の受給額も減少してしまう影響も念頭に置いておく必要もあります。
早期退職後の成功と失敗
退職金の優遇などを受けたうえで早期退職をしても、それが必ずプラスに働くかといえば、そうとも限りません。新たなキャリアが軌道に乗り、キャリアアップや資産を増やすことに成功する方もいれば、逆に負債を抱えたり転職を繰り返すなどキャリアが迷走したりしてしまう方もいます。そのため早期退職には計画的な決断が必要です。成功、失敗、それぞれのケースについて見ていきましょう。
早期退職後の成功例
- ・納得できる転職ができ、新たな職場で期待されながら働く
- ・退職金を財源に、新たな生計パターンで生活費を削減
- ・本来やりたかったこと・キャリアに挑戦し、軌道に乗せた
成功のポイントは、早期退職後に仕事上の充実が得られるか、そして収入・支出のバランスを保てるかの2点です。既に余裕を持って老後を過ごせる資金があれば別ですが、実際には、継続して働く必要がある人がほとんどでしょう。先の選択肢を増やすために、退職前から会社以外の情報や人と触れ、新たな生活の準備を進めておくことが大切です。退職後の次のステージで自分自身がしたいこと、そしてその現実を知り、自分が出来ることを理解した上で、現実的な準備をすることにより、早期退職は成功しやすくなるといえるでしょう。
早期退職後の失敗例
- ・長期間転職ができない、転職を繰り返す
- ・収入が減り、生活費がなくなり貯金を切り崩してしまった
- ・退職をきっかけに、仕事や生活への意欲を失ってしまう
早期退職後の最大の懸念は、退職後の生活が混乱することです。転職が決まらず生活資金にひっ迫したり、転職後の給与に合わせた生活がスタート出来なければ、退職の決断を大いに後悔することになります。また転職先での失敗を恐れ、転職先を決めきれず、無職期間が長くなることで、働く意欲自体を失ってしまったり、自信や家族との信頼関係を失ってしまうなど、悪循環に陥らないための注意も必要です。
早期退職する前に確認しておきたい四つのポイント
早期退職の失敗をさけるため、決断前に、これから紹介する四つのポイントを確認してみてください。
1.貯金が十分にあるかを確認する
早期退職をする前に、確認しておく必要があるのは自身の貯金額です。固定収入がなくなることを踏まえ、その後の生活費を確保できるかを計算しておきましょう。
公益財団法人生命保険文化センターが実施した「生活保障に関する調査」(2019年度版)によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられている最低日常生活費は、平均で22.1万円。また、経済的にゆとりのある老後生活を送るための費用を考えると、さらに14万円の上乗せが必要だという結果も掲載されています。単純計算で月額36.1万円が理想の老後資金と設定した場合、その水準を満たす備え、あるいは収入見込みのないままに早期退職を決断することは、その後の人生の大きなリスクとなり得ることも念頭に置いておくべきです。
2.家族の賛同を得ているかを確認する
早期退職後のトラブルを回避するためにも、家族に早期退職を決断し、新たなキャリアに挑戦することをしっかり説明し、理解を得ておくことが重要です。相談もなく独断で早期退職してしまう方は少なくありません。たとえそれによって本人や家族が多くの利益を得たとしても、信頼関係が崩れたり、わだかまりが残ったりするケースがあります。
家族の理解には時間が必要です。時に、自身にも早期退職を欠産しなければならない時代であることを、常日頃から話しておくことこそが重要です。
3.会社以外の相談相手をもつ
早期退職し、新たなキャリアを歩むのに、多様な相談相手が身近にいることは重要なことです。私的な友人や、取引先など社外のビジネスパートナーとの交友はもちろん、すでに転職した職場の元同僚との付き合いは、特に再就職時の重要なきっかけになることが多いものでもあります。
4.再就職に苦労する人が多いと知っておく
現状では、早期退職をした後の再就職は、それほど簡単ではないと考えておきましょう。前職で管理職に就いていた働き盛りの40代だったとしても楽観できません。当然のことではありますが、たとえ実績を持ったビジネスパーソンであったとしても、転職先にポストの需要がなければ、就職することができないのです。
また、好条件で新しい就職先が決まったとしても、再就職先の社風になじめず短期間で離職してしまった人もいます。再就職を前提とした早期退職なのであれば、転職活動の準備は入念に行っておくべきですし、異なるいくつかのプランを用意しておいた方がいいでしょう。
最近の企業の早期退職に関する動き・傾向
近年の早期退職に関する動きを見てみると、2019年には国内の上場企業を含む大企業で多くの従業員が早期退職をしたことで話題になりました。企業が早期退職者を募集するようになった背景には、時代の動向が大きく関係しています。ここでは、早期退職が始まった理由や話題になった企業についてご紹介します。
早期退職者の募集が始まった背景
- ・組織の新陳代謝を進めるため
- ・2020年問題
- ・人件費の削減
終身雇用制度は安定的な雇用を生み出す一方で、管理職の交代が少なくなり、組織の硬直化につながることがあります。このような状況を改善するために、管理職であるミドルシニア層に早期退職してもらい、組織内の新陳代謝を活性化させることが狙いの一つになっています。
また、2020年問題とも呼ばれている「バブル世代となる50代への給与が企業の資金を圧迫させている問題」も、早期退職制度の広まりを後押しする理由として挙げられます。いまだに年功序列が多い日本企業の給与体系においては、その金額が働き盛りの若い世代よりも、より定年に近いミドルシニア層の方が高くなるという傾向があります。これを踏まえ、人件費の削減を目的として早期退職を行うという企業が増えている傾向もあります。
2019年に早期退職で話題になった企業
- ・富士通で2850人が早期退職
- ・コカ・コーラ販社が希望退職に950人
- ・ファミリーマートが希望退職800人
東京商工リサーチが発表したデータによると、2019年の早期退職の対象人数は、1万342人となり、6年ぶりに1万人を突破。募集を実施した上場企業は27社に達しました。
2020年問題を解決するため、大企業はさらに早期退職を促進していくことが予測されます。富士通では、2019年に2850人もの従業員が早期退職しました。人員削減によって1年間で200億円ほどの人件費が削減できるとされていますが、退職金の割り増しなどのために461億円ほど費用が必要になったといわれています。コカ・コーラでは700人ほどの希望退職人数を募集したところ、応募は950人にも上りました。特別退職加算金が退職金に加えて支給されるため、高額な退職金を得られることが応募人数を集めた背景でした。離職者のなかでも再就職を希望する人には、支援をするなど手厚い保証も受けられることが話題となりました。全国に店舗展開しているファミリーマートでは、組織をスリムにするために800人の早期退職者を募集し店舗数も削減していく動きをみせています。
早期退職に失敗しないために情報を集めよう
最も避けたいのは、上乗せされた退職金の額や求人倍率などの楽観的な情報に踊らされ、明確な目的や十分な貯金がないまま安易に早期退職を決断してしまうことです。優遇された退職金を起業や投資の資金にしようとする人も多いのですが、誰もが確実に現状以上の境遇を手に入れ、成功できるわけではありません。期待通りのポジションや報酬が得られないリスクは当然ありますし、結果として退職金を使い切ってしまい、仕方なく悪条件を承知で再就職をせざるを得ない人もいるのです。
早期退職で失敗しないためには、まずは成功例や失敗例について、経緯の詳細に至るまで知っておくこと。それを踏まえ、必要な生活費と収入を算出し、その後の人生がマイナス収支に陥らないことを確信した上で決断をすることが大切です。
活用の方法によって大きな可能性を秘めた制度である早期退職が、自身と家族にとって満足のいくものになるよう、後悔のない選択をしましょう。
(取材・文 山口 尚孝)
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