高齢者の9割は自宅に住み、要介護認定者でも在宅が8割を超える。そこで朝日新聞Reライフプロジェクトは、専門家に2人の読者宅を訪問してもらい、「長く住み続けるために、どこを改善・改修すればいいか」を診断してもらいました。「診断」を委託したのは、介護・医療コンサルティング会社「メディヴァ」の理学療法士・三浦貴子さん。問題箇所についての診断結果と解決案を解説します。

団地特有の改善点、いつまで住めるか見極めを
《ケース1:読者会議メンバー・和田有紀さんの自宅》
和田さんは、駅から徒歩5分の公団集合住宅に住んでいる60代の女性です。10年前にバリアフリーの大改修を施されたそうですが、80歳まで自宅に住み続けるためにはどんな改善をしたらいいか知りたいとのことでした。住宅診断をした結果、早めに対応する必要がある箇所がいくつか見つかりました。
年齢:60代
居住人数:ご本人1人暮らし
介護認定:なし
立地:郊外、駅から徒歩5分
建物:公団の集合住宅の1階(エレベーターなし)
周辺環境:駅にスーパーなど、ショッピングモールあり
住宅状況:10年前にリフォーム済み(トイレ・浴室・居間の段差解消など)
改善ポイント1:浴室の段差


脱衣所から浴室に入る部分に、外側12cm、内側6〜8cmの段差があります。今は問題がなくても、将来足腰が弱くなったときに出入りが困難になるでしょう。解決策は、浴室内にお風呂用のすのこを設置したり、入り口付近に簡易手すりを導入したりすることです。すのこの設置により地面から浴槽までの高さが軽減され、浴槽をまたぎやすくなります。他にも、バスボードやシャワーチェアーを導入したりすることで、長く安全に入浴できる環境を整えられます。
改善ポイント2:温熱環境


住宅内の温熱環境も改善すべきポイントです。和田さんのご自宅は古い公団ということもあり脱衣所が寒く、ヒートショックの危険性が考えられます。解決策は、暖房器具を設置し脱衣所と浴室の温度差を小さくすることです。濡れた身体に風を当てないような輻射式の暖房器具が適切です。
その他のポイント:共有部分特有の課題

和田さんは公団の1階にお住まいです。しかし1階といえど、玄関にたどり着くまでに集合住宅の敷地内の階段と、建物のエントランスから玄関までの階段を数段ずつ上がる必要があります。将来自力での歩行が困難になった場合は、かなり生活に支障が出るでしょう。共用部分は変更ができないケースがほとんどであるだけに、いつまで住み続けられるかを前もって考えておく必要があります。
「あきらめていた段差、対策があると分かった」と和田さん

診断後、和田さんは「将来に備え、50代前半で考えつく限りのリフォームをしたつもりだったが、まだまだ見落としがあることがわかった。浴室は段差を解消できる『すのこ』などの器具があることを知り、希望が持てた」。そのうえで「脱衣所の寒さは自覚していたが、やはり早急な対応が必要、と判定されたので、ヒートショック対策として小型ヒーターや温度計を設置したい。今回の診断で、家の中は改修できても構造的に狭く歩行器や車いすを使った生活ができないことがわかった。長く元気に歩き回れるよう、これからも筋トレは続け、健康の維持を心がけたい」と話した。
石油ストーブ、カーペット、出入り口の段差…戸建ては危険がいっぱい
《ケース2:読者会議メンバー・小川裕子さんの実家(お母様の自宅)》
小川さんのお母様は、駅から徒歩15分の築30年の戸建住宅に住まわれている80代の女性です。お母様は家事や外出をかなり積極的にされていて、お元気で自立した生活を送られている印象でした。また室内をフラットにしていたりとバリアフリーの意識も高いのですが、いくつか改善点が見つかりました。
年齢:80代
居住人数:ご本人様1人暮らし
介護認定:なし
立地:郊外、駅から徒歩15分
建物:戸建住宅(築30年)
周辺環境:徒歩圏内にスーパーや趣味活動の場所あり
住宅状況:浴室はユニットバスタイプに変更
改善ポイント1:温熱環境

お母様は、お部屋の暖房に石油ストーブを使用されていました。しかし、石油ストーブはタンクを入れ替える手間や火災・一酸化炭素中毒の危険性を考えるとリスクが高いため、出来るだけ安全な暖房器具の選択を優先すべきです。解決策は、温水ルームヒーターやファンコンベクタ、エアコンの使用や、高断熱サッシや二重窓の設置することです。エアコン導入時乾燥が気になる場合は、加湿器を使用したり洗濯物の部屋干しをしたりすると良いでしょう。
改善ポイント2:生活動線

お母様は毎週、庭に面したサッシ窓から外に出てゴミを捨てに行くそうです。しかし、窓のすぐ外には20cmの段差があり、形も大きさもふぞろいなコンクリートブロックが階段状に並んでいるだけです。これはきわめて危険だと思いました。現在のブロックを撤去し、手すり付きステップを導入する、正面玄関から回る導線に変更するなど、安全な動線確保が必要です。
改善ポイント3:適正照度

お母様は、ご自宅での「作業のしにくさ」や「階段での転倒」を気にされていました。ご自宅でパソコンや縫製作業をする部屋と階段の照度を計測したところ、必要な明るさに達していない(適正照度の基準値よりも低い)ことがわかりました。とくに階段部分が暗いと転倒に繋がってしまうので、より明るいLEDへの変更や足元灯の導入により、きちんと足元を確認できるよう改善が必要です。
危険箇所も暗い照明も「直すほどとは思っていなかった」と小川さん

診断を受けた小川裕子さんは「庭に下りる場所のブロックがガタガタで嫌だなとは思いながらも、直さないと危ないという認識はなかった。パソコンを使う時の照明の暗さもしかり。普段から不便さや危うさを感じていながら、こんなものかなとそのままにしていた」と話す。「母も私も客観的に家の実態を見つめ直すことができた。温水ルームヒーターなど便利で快適な器具があることを知り、利用してみたいと思う半面、導入に伴う出費や工事の負担を思うと、二の足を踏む部分もある。今後、母の体調を加味しながら何を優先すべきか考えていきたい」
「無理なく住み続けられるか」がポイント
温熱環境の整備や段差の解消、生活動線の改善、適正照度の維持などが、住宅内で改善すべきポイントとして挙げられました。
今回のお二人だけでなくさまざまな方に言えることですが、「まだできるから大丈夫」と日常生活の中でつい無理をしてしまっている場面がしばしば見受けられます。これは日本人特有の気質なのかもしれません。人が物に合わせる状況が続いて、事故につながるパターンが比較的多いのではないかと感じています。
たとえば、高齢になって徐々に浴室や脱衣所の気温差に適応できなくなると、ヒートショックの症状を引き起こしますし、階段などの段差で無理をして転倒してしまい、いきなり重介護状態になってしまうパターンもあります。
60代の方であれば、お子様が巣立たれたとき、もしくは住宅が老朽化してリフォームが必要なときなどに、住環境を見直すタイミングがやってきます。そのときに「本当に住みやすい家になっているか」「無理をして使っていないか」という点を一度気にしていただきたいと思います。
ご自身で判断が難しい場合もあるかと思いますので、「脱衣所が寒いんじゃないか」と周りから声をかけてあげることも大切ですね。
また、住宅内を改善する一方で、外部環境や住居全体を見渡したときに、「いつまで自分が自宅で住み続けられるのか」を考えることも重要なポイントになってきます。たとえば足腰が弱ってきて「駅までが遠い」とか「階段が多くてしんどい」と感じるようになった場合に、杖までなら生活できる、車椅子になれば生活できないといったように、自分でリミットを決めておくと次の住まいについても早めに検討できます。
生活環境を変えるのは、後になればなるほどリスクになってきます。さまざまな制約がありますが、できることとできないことの見極めを早い段階で行なうことで、より選択肢が広がっていくのではないでしょうか。
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