健康寿命を延ばすキーワード「フレイル」とは

フレイル対策「きほんのき」1

2020.03.27

 年をとると、誰にも「老い」は訪れます。最新の研究では、介護が必要になる前の「ちょっとした衰え」に早く気づき、その時期をどう過ごしているのかが、健康寿命を延ばす鍵になることが分かってきました。老年医学が専門の東京大学教授・飯島勝矢さんに、介護のお世話にならずに長生きするためのキーワード「フレイル」について聞きました。

飯島勝矢さん
東大高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢さん

Q:最近、「フレイル」という言葉を聞きますが、どんな意味ですか?

飯島:年をとって心身の活力が衰え、弱々しくなった状態のことです。健康と、介護が必要な状態の中間に位置づけられます。語源は、英語で「虚弱」を意味する「frailty(フレイリティ)」。「虚弱」と聞くとマイナスイメージを持たれがちなので、明るく前向きな気持ちで予防意識を高めてもらうために名付けました。

Q:いつから使われるようになったの?

飯島:高齢者の診療を専門にする医師たちでつくる「日本老年医学会」が、2014年からこの呼び方を使い始めました。

Q:具体的に、「フレイル」の特徴を教えてください。

飯島:特徴は三つあります。まず、健康と介護が必要な時期の「中間」の時期であること。年を取ると、誰でも「ちょっとした衰え」が出てきます。これを私は「老いの坂道」と呼んでいます。日常生活にはそれほど困らない時期ですが、元気に暮らしている人でも、5年前、10年前の自分と比べると「やっぱり避けられないものはあるよね」という衰えのサインを感じることがあるでしょう。このサインを見逃さないことが大事です。

老いの坂道
年をとるにつれて、こころや身体が徐々に衰えていく様子を表しています。ちょっとした衰えに早く気づき、適切な対処を行うことが大切です。 (出典:東京大学高齢社会総合研究機構・飯島研究室のサイト「フレイルを知ろう」)

 第2の特徴は、「老いの坂道」は下るだけではなく、頑張れば戻ることもできる「可逆性」があることです。フレイル予防は、他人任せではなく、自分次第で取り組めます。第3の特徴は、「多面的」だということ。「ひざが痛い」というような体の衰えを想像しがちですが、人づきあいがおっくうになる心理面、経済的に困ったり孤食になったりする社会的な要因も絡んできます。

Q:体の衰えだけでなく、心理面や社会的な「フレイル」も?

飯島:はい。体の衰え、心の衰え、社会的な衰えが絡み合いながら、負の連鎖をしながら「老いの坂道」を少しずつ下っていきます。ただ、すとんと落ちる人もいれば、本人の努力次第で、なだらかに下る人、病気をしたけれどリハビリを頑張って回復する人など、十人十色です。ですから、「フレイル」の時期に早く気づき、どう過ごすのかが重要になってきます。

Q:どうすれば「フレイル」を予防できますか?

飯島:フレイル予防は、「運動」「食と栄養」「社会参加」を三位一体で自分の日常生活に取り入れ、続けていくことが大切です。その中で、「メタボ予防」から「フレイル予防」へのギアチェンジができるかが、ターニングポイントになってきます。中年期は太らないように運動とカロリーを控える気持ちが必要ですが、フレイル予防に取り組みには、むしろカロリーは積極的に取らないといけません。

フレイル予防3本柱
フレイル予防は「栄養・運動・社会参加」が3本柱(出典:東京大学高齢社会総合研究機構の飯島研究室「フレイルを知ろう」)

Q:何歳くらいから変えたらいいのですか?

飯島:年齢で決めることではなく、どのような病気を持っているかも考慮しながら、徐々にカロリーの取り方を変えていくといいです。でも、なかなか自分の健康状態や生活習慣は分かりにくいもの。フレイルの兆候を知るためのチェックリスト「イレブンチェック」で、自分の「立ち位置」を確認してみてください。

Q:運動が苦手な人もいます。

飯島:高齢者の大規模健康調査では、運動、文化活動、ボランティア・地域活動のいずれもしていない人は、全てやっている人に比べてフレイルのリスクは16倍もありました。ただ、運動をする習慣がない人でも、文化活動とボランティア・地域活動をすれば予防につながることも分かりました。運動だけすればいいのではなく、何をどう続けていくかが重要になってきます。

フレイル予防には「人とのつながり」が重要
(吉澤裕世、田中友規、飯島勝矢. 2019年 日本公衆衛生雑誌)

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  • 飯島勝矢
  • 飯島 勝矢(いいじま・かつや)

    東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター教授

    1990年、東京慈恵会医科大学卒業。専門は老年医学、老年学。特に、健康長寿実現に向けた超高齢社会のまちづくり、地域包括ケアシステム構築、フレイル予防研究などを進める。内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員、厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」構成員などを務める。

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