定年後の再就職のために50代から知っておくべき現実と働き方

人生100年時代を生きるキーワード・再就職

2020.03.25
定年後再就職イメージ

 定年を迎えるにあたり「65歳の年金受給開始までどう過ごすべきか」「再就職と再雇用どちらが良いのか」「再就職は難しいのでは…」など、さまざまな不安や迷いを抱えている人は多いのではないでしょうか。
 漠然とした不安や迷いを解消するには、定年後の現状や準備の方法など、詳しい情報を知ることが大切です。

 この記事では、

  • ・定年後の求人倍率や給与などの現状
  • ・再就職と再雇用のメリット・デメリット
  • ・再就職に向けた準備

 などを説明します。定年後の働き方に迷っている方は、参考にしてください。

<目次>

定年後の再就職。~定年前に知っておきたい求人率と年収の現実〜

 定年後の雇用に関する以下の現状について、それぞれ公的な統計データをもとにまとめました。

  • ・求人倍率
  • ・雇用形態の割合
  • ・平均給与
  • ・職種

定年後の求人倍率

 まずは定年後の求人倍率。求人倍率とは、求職者1人に対し何件の求人があるかを示しています。1.0倍以上なら、1人当たり1件以上求人があるということ。逆に1.0倍以下だと、1人当たりの求人数は1件を割っていることになります。

 厚生労働省が調査した「一般職業紹介状況」の統計データをもとに、60歳以上の有効求人倍率の推移をグラフにしました。

 厚生労働省「一般職業紹介状況」
参考:厚生労働省「一般職業紹介状況」
使用データ:一般職業紹介状況「新規求人倍率(求人数均等配分方式)」の60歳以降

 グラフを見ると、60~64歳の求人倍率は10年前に比べて2倍以上になっています。2018年には1.0倍を超えました。2019年もほぼ1.0倍をキープしています。定年後の求人倍率は年々増加傾向にあり、仕事を見つけやすくなっているといえます。

定年後の雇用形態の割合

 増加傾向にある定年後の求人倍率ですが、どのような雇用形態が多いのでしょうか。政府による「年齢別雇用形態」の統計をもとに「60歳~64歳」「65歳以上」の労働者の雇用形態の割合をグラフにしました。

 定年後の雇用形態で最も多かったのは正規雇用。65歳以上からは正規雇用が15%減り、その分パート・アルバイトが増えています。これは、再雇用制度を利用している人の影響も考えられます。

定年後の平均給与

 気になるのは定年後の給与についてのデータです。特に年金受給開始までの60歳~64歳の平均給与を知っておくことは、定年後の資金計画を考える上で重要になります。国税庁による「民間給与実態統計調査」の結果をもとに、60歳以上の年間平均給与額をグラフにしました。

 60~64歳の年間平均給与額は、2010年代はずっと350万円~400万円を推移しています。年金受給が始まる65歳以上になると平均給与額がダウン。大体50万円~100万円ほど下がっていることがわかります。

定年後の職種

 定年後も働き続けている人は、どんな職種に就いているのでしょうか。政府による「職種別従業員」の統計データをもとに「60歳~64歳」「65歳以上」の結果をグラフにしました。

 グラフの結果から定年後の労働者の主な職種はこのようになります。

  • ・事務職
  • ・専門職・技術職
  • ・工場での生産工程の仕事
  • ・サービス業
  • ・販売業
  • ・運搬業
  • ・清掃業

定年後の「再就職」のメリットとデメリット

 定年後の仕事を考えたときに、まず大きな分かれ道となるのが「再就職」と「再雇用」。
それぞれについてメリット・デメリットを紹介していきます。

 まずは再就職について。60歳の定年を機に退職し、新しい職場へ就職する「再就職」にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

定年後の「再就職」のメリットとは

 定年後の再就職のメリットは以下の三つが挙げられます。

  • ・「高年齢再就職給付金」を受けられる
  • ・65歳以上も働き続けられる
  • ・スキルや人脈によって仕事内容を選択できる

条件を満たせば「高年齢再就職給付金」を受けられる

 高年齢再就職給付金とは、再就職後の給与が定年前よりダウンした人に支給されます。給付額は最大で賃金の15%。給付期間は最大で2年間です。給付を受けるには条件があります。主な条件はこちら。

  • ・60歳以上65歳未満で再就職をした一般被保険者であること
  • ・1年以上継続して雇用されることが確実な職業に就いたこと
  • ・再就職前に雇用保険の受給し、受給期間内に再就職し、支給日数が100日以上残っている
  • ・直前の離職時に、被雇用保険者期間が通算5年以上あること
  • ・再就職後の賃金が定年退職前の賃金の75%未満の人

 一つ注意点として、雇用保険を受給せず定年退職後すぐに再就職した人は対象外です。定年後に再就職を考えている人は、高年齢再就職給付金について詳しく調べておくことをおすすめします。

65歳以上も働き続けられる

 再就職では、65歳以上も働き続けられる仕事を探すことができます。「再雇用」では、64歳までは確実に働けても、65歳以上の雇用は保証されていません。その点、再就職は60歳のうちにずっと長く働ける良い職場を見つけることが可能です。

スキルや人脈によって仕事内容も選べる

 今まで培った経験や仕事以外でのスキル、人脈によって、異なるところではありますが、再就職は、自分で仕事内容を選べることもメリットのひとつです。趣味を生かした仕事がしたかった。パソコンスキルを生かした仕事がしたい。など「いつか自分のやりたいことに挑戦したい!」と思っていた人は、定年後の再就職は絶好のチャンスになるかもしれません。

定年後の「再就職」のデメリットとは

 一方で、定年後の再就職のデメリットには、スキルや人脈が無いと職種が限定される、給与が最低賃金になる可能性もあることが挙げられます。

スキルや人脈がないと職種が限られる

 定年までにスキルや人脈など再就職に向けて準備しておかないと、職種が限られてしまいます。例えば、パソコンスキルや専門知識、技術がないと事務職、専門職などに就くことは難しいでしょう。

スキルがないと低賃金の仕事になる可能性が高い

 スキルがないと職種が限定されるだけではなく、低賃金での雇用になる可能性があります。定年前と比較して収入が大きくダウンしてしまうこともあり、そうなると65歳の年金受給までの生活が心配です。

定年後に「再雇用」されるメリットとデメリット

 再雇用とは、定年後も同じ職場で働き続けることです。2013年の「高年齢者雇用安定法」の改定により、企業側は希望者全員を再雇用するよう義務付けられました。そのため再雇用で働く人は年々増え続けています。

 では、この再雇用のメリットとデメリットについて解説します。

定年後の「再雇用」のメリットとは

 定年後の再雇用のメリットは、以下の三つが挙げられます。

  • ・「高年齢雇用継続給付金」を受けられる
  • ・慣れた職場環境で働ける
  • ・厚生年金の受給額が増える

給与の減額率によって「高年齢雇用継続給付金」を受けられる

 高年齢雇用継続給付金とは、再雇用によって定年前よりダウンした給与を補てんするための給付金です。受給額は最大で賃金の15%。受給期間は、再雇用期間中の最大5年間。先ほど「再就職のメリット」でご紹介した「高年齢再就職給付金」は受給期間が2年間。つまり、再雇用の方が受給期間は3年間長いことになります。

 高年齢雇用継続給付金を受けるには条件があり、主なものとして以下があります。

  • ・60歳以上65歳未満であること
  • ・60歳以降の賃金が「60歳時点での賃金」の75%未満に低下したこと
  • ・被雇用保険期間が通算5年以上あること

 再雇用を希望する人は、さらに詳しい情報を調べておくことをおすすめします。

慣れた職場環境で働ける

 再雇用なら、なじみのある職場環境で働き続けられます。再就職では、新しい職場がどんな環境なのか実際に働いてみないとわかりません。その点、再雇用は人間関係も構築されていて安心できます。また、会社と良好な関係性を築けていれば、労働条件について融通が利くこともあります。

65歳からもらえる厚生年金の受給額が増える

 再雇用により、厚生年金の加入期間が60歳以降も延長されます。それにより、65歳以降の厚生年金の受給額が増加。さらに、企業の健康保険組合に加入できれば、病気やケガをしたときにも医療費や手当金が支給されます。

定年後の「再雇用」のデメリットとは

 定年後の再雇用のデメリットには、以下の三つが挙げられます。

  • ・給与の大幅ダウン
  • ・定年前との仕事内容のギャップ
  • ・65歳以上の雇用の保証がない

給与の大幅ダウン

 再雇用後は、給与の大幅ダウンが想定されます。高年齢雇用継続給付金を受けたとしても、定年前より給与が下がることは避けられないでしょう。

定年前との仕事内容のギャップを感じる

 再雇用では、定年前と同じポジションで働けるわけではありません。第一線でバリバリ働いていた人でも、再雇用後は補助的なポジションに異動することも考えられます。人によっては、仕事へのモチベーションをキープするのが大変かもしれません。

65歳以上の雇用の保証がない

 再雇用は65歳までの仕事は安泰ですが、65歳以降の雇用については保証がありません。ずっと働き続けたい人は、65歳で新たな再就職先を探すこととなります。

どっちがおすすめ?定年後の再就職と再雇用

 再就職と再雇用のメリット・デメリットをそれぞれ説明してきました。「結局、どっちがおすすめなの?」と聞きたい人も多いかと思います。その答えは人により、それぞれ異なります。ここでは、メリット・デメリットからわかった「再就職がおすすめの人」と「再雇用がおすすめの人」をそれぞれ説明します。

再就職がおすすめの人

 再就職がおすすめなのは、このような人です。

  • ・70歳80歳になっても働き続けたい人
  • ・新しい分野に挑戦したい人
  • ・再雇用の条件が希望に合わなかった人

 65歳以降もずっと働き続けたいと考えている人は、再就職の方がおすすめです。理由は、再雇用では65歳以降の雇用の保証がないためです。再就職の方が、早い段階で65歳以降も働ける職場を確保できます。

 また、再雇用では自分で仕事内容を決められないのに対し、再就職では自分で仕事内容を決められます。新しい分野への挑戦も可能です。

 もし、給与面や配属先など再雇用条件が合わないと感じた人は、再就職の道を選んだ方がより自分に合った仕事が見つかる可能性も出てきます。

再雇用がおすすめの人

 一方、再雇用がおすすめなのはこのような人です。

  • ・定年から年金受給までの間を確実に働きたい人
  • ・現在の職場で良い人間関係を築けている人

 再雇用の最大のメリットといえるのは、65歳までの仕事が保証されていること。定年後から年金受給までは確実に働けます。もし、65歳以降はあまり働く気がなければ、再雇用の方がメリットは多いです。

 また、会社の人間関係が良好であれば無理に環境を変えないという選択もあります。職場で大きなストレスの要因となるのは人間関係です。新たな職場で、一から人間関係を築くより、安心できる職場に残った方がリスクは低いといえます。

50代からはじめよう、定年後の再就職に向けた準備

 「定年後は再就職する!」と決めたら、50代のうちから早め早めに準備をすることをおすすめします。時間をかけて段階的に準備した方が、より希望に合った再就職先に就ける可能性が高いためです。再就職に向けた準備には大まかに3段階あります。

  • 1.自分の経験からスキルやキャリアを見直す
  • 2.見直した経験から、定年後に目指す職種を明確化
  • 3.その職種に就くために必要なスキルや資格を定年前までに身に付ける

スキル・キャリアの見直し

 再就職先を考える前に、まずどんな仕事に就きたいのかを明確にしておきます。明確にするには材料が必要です。その材料となるのは長年培ってきた「仕事の経験」です。まずは、これまでの経験を細かく洗い出してみましょう。

  • ・どんな職種に携わってきたのか
  • ・どんな成功や失敗があったのか
  • ・どんな資格を持っているのか
  • ・経験から身に付けたスキル
  • ・どんな仕事が楽しかったか
  • ・どんな仕事が苦手だったか
  • ・「安定」「やりがい」など自分は何を大切にしたいのか

 これらを細かく書き出すなどして、整理します。自分でも忘れていた経験や、挑戦したいことなど、新発見があるかもしれません。まずは、時間をかけて自分自身を分析してみることが重要です。

定年後に目指す職種を明確化

 洗い出した自分のスキル・キャリアから、自分の特性や希望に合った職種を考えます。しかし、世の中にはさまざまな職種があり、いきなり具体的に考えるのは難しいかもしれません。そこで、まずは大きく二つの分野で考えます。

  • ・これまでの経験を生かした分野か
  • ・これまでとは違う新しい分野か

 どちらか決めることで、職種は絞れます。分野を絞ったうえで、どんな職種なら「定年後でも求人があるのか」、「定年後も長く働けるのか」を分析し、再就職先の職種を明確にしていきます。

資格・スキルを身に付けておく

 再就職したい職種を明確にしたら、どんなスキルや資格が必要かを考えます。そして、定年までに身に付けられるよう計画・実践していきます。

 新しい分野へ挑戦する人は、50代のうちに資格取得するとよいでしょう。特に難関な資格は再就職に有利に働きます。

(難関資格の例)

  • ・経理系なら「税理士」や「簿記1級」
  • ・不動産関係なら「宅地見物取引主任者」
  • ・飲食分野なら「調理師」
  • ・法律関係なら「行政書士」
  • ・物流系なら「フォークリフト運転免許」
  • ・技術系であれば「第二種電気工事士」

 特に、資格が必須の仕事は、新しい分野に挑戦する人には有効です。

 また、どんな分野においても重要になるのが「ポータブルスキル」です。ポータブルスキルとは、どの業種、職種、時代においても必要なスキルのこと。専門性の高い技術や資格とは異なります。

(ポータブルスキルの例)

  • ・協調性
  • ・コミュニケーション能力
  • ・柔軟性
  • ・マネジメント能力

 専門的技術や資格があっても、ポータブルスキルが低いことは致命傷となります。50代のうちに自身の「ポータブルスキル」を見直し、向上させておくよう努めることが大切です。

定年後の再就職先の探し方

 実際に定年後の再就職先を探す方法には

  • ・ハローワークで探す
  • ・人材派遣会社に登録する
  • ・シニア向け求人サイトから探す
  • ・知人から紹介してもらう

 などがあります。四つの探し方について詳しく紹介します。

ハローワーク

 ハローワークの正式名称は公共職業安定所。厚生労働省が管轄する職業紹介事業です。ハローワークでできることは、以下のとおりです。

  • ・求人検索
  • ・相談員へ再就職先の相談
  • ・無料の就職支援セミナーへの参加
  • ・職業訓練の受講
  • ・雇用保険受給の手続き

 雇用保険を受給しながら無料で受講できる職業訓練はハローワークならでは。「ビル管理」「介護」「パソコン」などシニア世代でも生かせる資格を取得できるコースも多いです。募集は年に数回で人数も限られるため、早めにチェックしておくとよいでしょう。

人材紹介会社

 高齢化が進んでいることもあり、民間のシニア向け人材紹介会社も存在します。人材紹介会社に登録するメリットとしては以下の項目があげられます。

  • ・専門の担当者に再就職先についての相談ができる
  • ・希望条件が市場需要とマッチングすれば、仕事を紹介してくれる
  • ・応募から面接までのサポートを受けられる
  • ・人材紹介会社によっては、就職後のサポートも受けられる

 求職者側には無料のサービスが多いので相性が良さそうな紹介会社をみつけて登録しておくのもよいかもしれません。

シニア向け求人サイト

 雇用条件・地域・希望職種など細かく絞って検索できる民間の求人検索サイトには、シニア向けのものも多くあります。
ハローワークや人材紹介会社と併用して、自分で検索するのもよい手段です。より多くの求人を閲覧することで選択肢が広がります。

知人の紹介

 知人からの紹介なら、求人票だけではわからない職場の雰囲気や仕事内容の詳細などを事前に知ることができます。

定年後の再就職を失敗しないために準備しておこう

 定年後の再就職について、現状から準備・探し方まで詳しく解説してきました。定年後に少しでも希望に合った再就職先を見つけるには、以下が重要です。

  • ・自分自身の分析
  • ・早めの準備
  • ・綿密な情報収集

 50代のうちに、定年後の仕事について具体的に考えてみてはいかがでしょうか。

(取材・文 門 東花)

  • 黒田真行
  • 黒田 真行(くろだ・まさゆき)

    ルーセントドアーズ代表取締役

    日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 2019年より、中高年向けキャリア相談サービス事業「Can will」も開始。https://canwill.jp/ 1989年リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。

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