<連載> 高齢社会2.0

コーチングAIを活用し介護のスペシャリスト養成 女優・いとうまい子さんともコラボ

【テクノロジーが変える暮らし(9)エクサウィザーズ】科学的な介護で高齢者のQOL向上に挑む

2020.05.08

 AIを活用する取り組みは、介護業界にも及んでいる。ベンチャー企業のエクサウィザーズ(東京都港区)は、ITや動画解析などの先端の科学技術を活用し、超高齢社会の問題にAIを役立てようとしている。そのひとつが、スキルの高い介護従事者が作業する様子を撮影し、動きなどを解析することで、他の介護従事者が同様のテクニックをどこにいても学べるソフトの開発だ。今回は、同社代表取締役社長の石山洸さんに、介護業界への取り組みについて、話を聞いた。

エクサウィザーズ
石山さんは「さまざまなウィザード(魔法使い=専門家)がいるから新しいものが作れる」と話す(小川純撮影)

コーチングAIが動作解析、修正点を指摘

 エクサウィザーズは、介護領域でAI活用の方策を研究していた静岡大学発のベンチャー企業と、ディープラーニング(機械学習)の開発を行っている企業が合併して、2017年に設立された。両社の強みを生かそうと、見いだした答えが、介護領域にAIを活用するという事業だった。

 「一言でいうと、AIを使って科学的な介護を確立するということです」

 介護の基本動作にはいろいろな動きがあるが、ベテランと初心者では、動きや視線、声かけなどが違ってくる。

 「まず動画を撮影し、データの分析をすることで、違いがわかります。その結果、症状の改善に結びつくケアを『科学的な介護』として、AIを使って活用できるソフトを作っています」

 次のステップとして同社がいま開発しているのが、コーチングAIだ。

 「自分の技術をコーチしてほしい介護従事者が、自身の動画をスマホで撮影し、コーチングAIに送ります。そうすると、『視線はこうしましょう』などとAIが修正点を指摘します。いわばこれは『赤ペン先生』です。介護の達人のデータをAIが学習し、アドバイスすることができるのです」

 現在、コーチングAIを国内の介護施設に導入してもらいながら、新しい機能の開発をしているという。

エクサウィザーズ
スマートフォンでコーチングされた内容を確認できる

ロコモ予防ロボの開発にも着手

 関節や筋肉などの衰えが原因で、立ったり歩いたりする機能が低下する状態のことを「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」(運動器症候群)という。内閣府が発表した2019年版の高齢者白書によると、介護が必要となる原因は、「骨折・転倒」「関節疾患」「高齢による衰弱」の運動器の障害によるケースが全体の36.5%を占める。ロコモ予防が介護を必要としない「健康寿命」を延ばすためにも重要だと指摘されるなか、同社はロコモ予防ロボットの研究もしている。

 「女優のいとうまい子さんが現在、早稲田大学人間科学部の博士課程で、予防医学とロボットを掛け合わせた研究をしています。彼女と共同して、高齢者と一緒にスクワットをしてくれるロボットを開発しています」

いとうまい子さん
国際ロボット展に出店したブースで説明するいとうまい子さん

 このロボットは、1日3回、「スクワットをしよう」と声がけをし、正しい動きでスクワットができているかを、AIが分析して採点をしてくれるという機能を備えている。

 「AI×介護」をベースに、さまざまな分野への取り組みも進めているエクサウィザーズだが、実際の開発現場では悩みもあるという。

 「AIのエンジニアと、介護士・看護師・理学療法士・薬学博士・医師などといった病院の専門家とでは、働いていた場所や環境が違います。まったく別世界で仕事をしていた人たちが集まって、まずは『どういう技術が現場で役立つか』『どういう課題がAIで解決するのか』という意見交換から始めて、徐々に方向性について意見をすりあわせていきます」

 例えば、「おむつ自動交換ロボット」にしても「あったらうれしい」と考える介護者もいれば、自立支援介護を導入している施設では、トイレに行くプロセスが運動になることで自立度が高まるので、おむつをほとんど使わないほうがいいという考え方もあるという。

 そこからさらに技術開発に入っていくから、ソフトなどが完成するまでには、たくさんの対話を重ねる必要がある。

 「とはいえ、今後介護の現場にAIが導入されていくのは間違いありません」

 介護報酬はこれまで3年ごとに改定されてきた。次回の2021年度改定の審議が今年春から始まる。基本報酬の引き下げなどが予想される一方で、AIがケアプラン作成を援助したり、ロボット導入を促進したりする「科学的介護」の要素が盛り込まれるのではないかとみられている。

 「AIでQOL(生活の質)が向上できることを実証していきながら、介護する側にもされる側にもメリットになる技術を開発していきたい。施設だけではなく世の中に広く使われるサービスを作り、社会課題解決することを目指しています」

(取材・文 長谷川華/テックベンチャー総研)

  • この連載について / 高齢社会2.0

    高齢化先進国である日本。からだの衰えを補い、より豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいる。「テクノロジーが変える暮らし」をテーマに、高齢社会の課題解決に取り組んでいる企業を取材し、の最先端の動きを紹介します。

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