<連載> 住まい探し 生き方探し

定年後をどう暮らす? 祖父母からの築40年の家をリフォーム

住まい探し 生き方探し(5)建築士の娘に、夫婦が望んだのは「料理も食事もゆっくりと」(大阪市)

2020.04.10
リノベーションで実現する人生後半の住まい

 「定年退職」は、これまでの生活がガラリと変わる分岐点。多くの人にとって、定年後の人生をどう過ごすかは重要な問いではないでしょうか。新しいことに挑戦したり、家にいる時間を楽しんだりと、人によってはこれまでとは全く違う時間が流れていきます。そうした新しい生活を見据えるとき、どんな工夫をすれば良いのでしょうか。

 今回は、建築士の村上あさひさんが実家をリノベーション設計した事例です。両親の希望をくみ取り、ダイニングとキッチンにポイントを絞って実現した「人生後半の暮らしに寄り添った住まい」について、その意図や思いを聞きました。 

定年後の生活を考えたときに生まれた要望

 私がリノベーション設計を担当した両親の自宅(つまり自分の実家)は、築40年、木造2階建ての2世帯住宅です。両親の定年前の2004年にリノベーションを実施しました。

 共働きから一変、家に生活の重心が移ると、これまであまり気にしていなかった部分に、急に住みづらさを感じることがあります。両親の場合、定年後は「料理をすることも、食べることもゆったりと楽しみたい」という思いがあり、日の当たらない奥まった場所に位置しているダイニングキッチンに窮屈さを感じ始めていました。

 実家は、祖母の代から住み継いだ古い住宅のため、間取りも昔のままでした。今でこそ「LDK」という言葉が生まれ、キッチンはオープンな空間として捉えられるようになりましたが、当時は裏方の空間として位置付けられていたのです。

リノベーションで実現する人生後半の住まい
リノベーションを担当した一級建築士事務所MUKの村上あさひさん。施主である村上さんの娘

 両親からは、キッチンの窮屈さを解消したいという要望のほかに、「定年後は友人を招く家にしたい」という希望もあったため、リノベーションのポイントをダイニングとキッチンに定め、気軽に人が集まれるLDKにつくりかえることを提案しました。

暗かったダイニングキッチンを、広く明るく

 まず、狭かったダイニングキッチンを広げるために、あまり活用できていなかった洋室の壁と押し入れを取り払い一つの空間にしました。洋室は庭に面した心地よい場所だったのですが、いつの間にか物置と化していたので、断捨離をする上でも良い機会になりました。

 壁と押し入れをなくしたことで、庭に面した掃き出し窓から奥のキッチンまで外の光が入るようになり、暗かったダイニングキッチンが明るく開放的な空間に変化。13平方メートルだったダイニングキッチンは、無垢(むく)の木材をふんだんに使用した、優しく温かみのある32平方メートルのLDKへと生まれ変わりました。 

 設備や家具も全て入れ替えました。もともと壁に沿ってL字形に設置されていたキッチンは、複数の人で囲めるアイランド型に。コンパクトに収められていた小さなダイニングテーブルは大勢でテーブルを囲めるよう、大きなものに変更し、洋室があった場所へ。食器棚も、キッチンの寸法に合わせた造り付けとしました。

リノベーションで実現する人生後半の住まい
before:以前のダイニングキッチンは、暗く奥まっていた
リノベーションで実現する人生後半の住まい
after:リノベーションをしてゆったりと奥行きのあるLDKに変化
リノベーションで実現する人生後半の住まい
after:キッチンに新設した作り付けの食器棚。食器棚の上部の窓や、作業台横のスリットも新しく設置したことで、キッチン全体に明るい光が入り込むようになった

 このようにして、1階には人を招くオープンな空間が贅沢(ぜいたく)に広がりました。両親は広く明るく生まれ変わったLDKに友人を招き、一緒に料理を楽しむような機会も増え、後半の人生を歩み始めました。

 現在は父が他界し母ひとりの生活ですが、今でもこのLDKで友人と趣味を謳歌(おうか)している姿がとても印象的に映ります。

リノベーションで実現する人生後半の住まい
before / afterの図面。キッチンとリビングを中心に、1階部分にリノベーションを施した

娘だから提案できるこだわりの機能

 LDKの他にも、娘の立場から気づいたことをいくつか提案しました。多趣味な両親は、ついつい物が多くなってしまいがち。キッチンやダイニングなどの友人を招くスペースに物があふれるのを防ぐために、収納と目隠しを新たに設置しました。

 一つは、キッチンの隣の食品庫です。1.7平方メートルの小さなスペースではありますが、たっぷりと収納できるので、料理好きで買いだめをすることの多い母から重宝されています。

 また、リビングダイニングの奥にあるワークスペースには、裁縫やパソコンなどの作業途中で散らかっていても、リビング側から見たときにさりげなく隠せる壁を設置しています。

 収納の場所やポイントをあらかじめおさえておくことで、友人が遊びに来る前の片付けがとても楽なのです。

リノベーションで実現する人生後半の住まい
食品庫には物がたくさん入り、かなり重宝している
リノベーションで実現する人生後半の住まい
リビングダイニングの奥のワークスペースは、さりげなく壁で隠されている

 これからの生活を見通し、長く暮らし続けられるための住空間を再編成していく。それが、リノベーションという手法です。両親の住宅では、ダイニングキッチンにポイントを絞りリノベーションを施しましたが、一部分に手を加えるだけでも、見える風景や生活動線が一変することをぜひ知っていただければうれしいです。

基本情報

●提供サービス:住宅設計
●設計・施工者: 一級建築士事務所MUK
●築年数:40年(既存建物竣工年:1982年、リノベーション竣工年:2004年)
●リノベーション実施面積:60.60m²
●工事費用(設計料込み):9,451,776円
●住まいのこだわりポイント
〈趣味・価値観を生かした点〉
・気軽に友人が集まれる空間
・使用頻度の低い洋室をリノベーションし、広いLDK新設。
・キッチンをアイランド型に変更し、来客時の楽しみ方も広がった。
・ワークスペースの新設
・裁縫やパソコンなどの作業に使用できる空間を新設。 
〈機能性〉
・収納
  食品庫の新設 
・バリアフリー
  階段や段差部分に手すりを設置。また、将来車椅子生活になった場合を想定し、
  不必要な段差はスロープに、トイレのドアは引き戸に変更。

  • この連載について / 住まい探し 生き方探し

    退職したとき、子どもが巣立ったとき、パートナーが旅立ったとき、生涯独身を決意したとき、サポートが必要になったとき……。さまざまな場面で住まい方とともに、自分の生き方を振り返るタイミングが訪れます。人生後半を前向きに生きるためのヒントとなる住まい方を紹介します。

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