<連載> 高齢社会2.0

唾液を送るだけで疾患リスクをチェック 「お手軽口内検査」で歯周病や糖尿病を予防

【テクノロジーが変える暮らし(8)ワールドフュージョン】口内環境を「見える化」して判定

2020.05.01

 私たちの身体の中にはさまざまな細菌が常在している。最近は腸内細菌が注目されているが、見落とされがちなのが「口の中の細菌」。口の細菌が虫歯や歯周病などの口内疾患だけでなく、全身疾患のリスクに関係していることが最近の研究論文でわかってきた。
 口腔内の細菌を手軽に調べられる「COMA口内細菌検査サービス」をワールドフュージョン(東京都中央区)を始めようとしている。歯周病や虫歯だけでなく、全身疾患のリスクがわかれば予防医療につながり、医療費(厚生労働省が昨年9月に発表した2018年度の概算医療費は42.6兆円)の増大を食い止める効果も期待される。今回は、口内検査サービスの技術を開発した同社代表取締役社長・川原弘三さんに話を聞いた。

ワールドフュージョン
川原さんは「細菌データベースの構築にはAIを使っています」と話す(小川純撮影)

口内の細菌は全身の疾患に影響を及ぼす

 病気を予防するために、運動をしたり、サプリを服用したりするシニア世代は多い。だが、「口の中の健康」は見落とされがちだ。

 通常、口腔内にいる菌というと、虫歯菌や歯周病菌などは知られているが、ほかにもさまざまな菌が存在しているという。

 「実は、口腔内には、歯周病や虫歯の原因となる菌以外に、糖尿病、肺炎、がん、肥満、骨粗しょう症、動脈硬化など、全身の健康にも影響を与える菌がいることがわかっています。その数は、世界の細菌研究者が使っている『ヒューマン・オーラル・マイクロバイオーム・データベース』に登録されているだけで771種類あります」

 なぜ、口腔内の菌が全身の疾患に影響を及ぼすのだろうか。

 「それは歯茎から出血した際に、そこから、さまざまな疾患に関係する口腔内の菌が体内に入り、血液を通して全身に回るからです」

 そもそも歯周病で歯茎が出血することも良くないが、知っておきたいのは口内には全身疾患に影響を及ぼす菌があり、そうした口内の傷から簡単に体内に侵入してしまうということだ。

 「口の中にいる約700種類の菌のうち400種類の菌種についての情報を解析し、医学論文でエビデンス(裏付け)のある『疾患リスクがある細菌』である35菌種を特定しました。その結果、唾液から疾患にかかるリスクを判定できるようになりました」

論文や情報を集めてデータベース化

 川原さんは、大学卒業後に医療機器メーカーに就職。その後、機器メーカーの技術に依存せず、ITをベースにしたものづくりをしたいと、1996年にワールドフュージョンを設立。大手化学会社などから細菌検査を受託するかたわら、毎日アップされる医学論文や、世界中の研究者が情報交換するゲノム情報、薬剤情報をインターネットを通じて集めてデータベース化した。いまはこのデータを医療分野や化粧品分野の研究・開発者に提供するという、バイオテクノロジーにITとAIをかけあわせたサービスを行っている。

 人に常在する菌を調べ、それを抑える物質を探している途中で、川原さんは口腔内の菌に注目をしたという。そして会社設立以来、過去20年のデータを蓄積し、口腔内の菌に対する関連疾患を調べることで、COMA検査の技術を完成させた。

 最新の研究で、口内細菌が生活習慣病などさまざまな病気に関連することはわかってきた。だが、口腔内の検査は自分で手軽にできず、歯医者で調べてもらうしかなかった。さらに、調べられる菌の種類も数種類に限定されている。

 「健康を気遣うようになるシニア世代の方々に、手軽で安く検査を提供したいと思い、唾液だけで検査できるキットを開発しました。現在、歯科医でテスト販売を始めたところですが、近く個人向け販売を始めたいと思っています。そうすれば、シニア世代の方がご自分で気軽に検査できるようになります」

 付属キットに唾液を入れて、郵送で送るだけ。3週間後に、疾患リスクを判定したレポートが手元に送られてくる。

ワールドフュージョン
COMA検査のキット。唾液を流し込んで郵送すれば、3週間後には分析・判定結果が届く

口内環境は自分で改善できる

 「口内細菌は、細菌バランスが大事です。自分の口内環境を知れば、歯科医での歯のクリーニングやご自身の歯磨きを正しくすることで改善できます」

 検査の結果をもとに、自分で歯のケアをすれば、虫歯や歯周病はもちろんのこと、全身疾患のリスクも減らせる可能性が高まるというわけだ。現在、川原さんの会社では、口内細菌のバランスをよりよくする歯磨き粉も開発している。

 医療費を減らすために、いま予防医療に注目が集まるなか、川原さんはこう話す。

 「菌のように目に見えないものを『見える化』することで、だれもが簡単に自分の健康状態を知ることができます。医者でない限り、病気の治療はできませんが、病気のリスクを下げることは自分自身でできます。口の中の健康に気を払う人がひとりでも増えていけば、国の大課題となっている医療費増加を食い止めることもできると思っています」

(取材・文 長谷川華/テックベンチャー総研)

  • この連載について / 高齢社会2.0

    高齢化先進国である日本。からだの衰えを補い、より豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいる。「テクノロジーが変える暮らし」をテーマに、高齢社会の課題解決に取り組んでいる企業を取材し、の最先端の動きを紹介します。

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