<連載> 高齢社会2.0

ベッドから分離する車いす 介護現場の声を生かした新発想

【テクノロジーが変える暮らし(2)Panasonic】介護する側も、される側もラクに

2020.04.03

 パナソニックが「介護の役に立てるロボットを開発していこう」と介護ロボット開発をスタートさせたのは、いまから15年前の2005年。「要介護者はもちろん、介助するケアスタッフの身体的負担も軽くしたい」と、リモコン操作でベッドの一部分が車いすとして分離する新発想の離床アシストロボット「リショーネ」の発表にこぎつけたのは2014年だった。開発と現場での評価を繰り返し、足かけ10年かけ、商品開発の中心を担ったロボット・リハビリ事業開発部部長の河上日出生さんに話を聞いた。

テクノロジーが変える暮らし(2)Panasonic 河上さん
河上さんは「現場の意見を反映させた結果です」と開発までの経緯を語る(撮影・小川純)

介護を受ける人の生活向上と、する人の負担の軽減

 介護の現場では、要介護者とケアスタッフともに、ベッドと車いすの移動の際の負担が課題になっていた。

 介護ロボットの開発にあたって、ふたつの目標があった。

 ひとつは介護を受ける方の生活の質の向上。寝たきりの時間が長くなると他の方とのコミュニケーションが取りにくくなるが、もっと気軽に車いすを利用することができれば、仲間や家族とともにできる時間も場所も増える。もうひとつは介護に携わるスタッフの心的、身体的な負担の軽減だ。

 「ベッドで寝ている方を持ち上げるには少なくとも2人の介助者が必要です。要介護者が骨粗鬆症や、皮膚が弱い方だったら、身体に触れるだけでけがをする可能性も考えなければなりません。力もスキルも必要な大変な作業なのです」

 車いすとベッド間の移乗支援ロボットには、介助スタッフの身体的負担を軽減する装着型があるが、2006年に河上さんが最初に開発したのは、非装着型ロボット。介助スタッフ側が機械を操り、要介護者を抱き上げて移乗する「トランスファ・アシストロボット」だった。

 しかし、実際に介護現場で試してみると次々に課題が見つかった。まず、持ち上げたときの要介護者の「安全性」の問題。次に、そう広くない要介護者の部屋に、ロボットを持ち込めるのかという「空間」の問題。そして、介助スタッフ側に機械操作への苦手意識があると「安心」して操作できないという問題……。

 介護の現場から上がったこれらの課題をクリアするため、河上さんたち開発メンバーは、原点に立ち返っての再検討を余儀なくされた。 

ヒントは現場のニーズから

 道を開いたのは、介護現場での生の声を拾える仕組みだった。家電メーカーのイメージが強いパナソニックだが、同社は介護保険制度が始まる以前の1998年から介護事業をスタートさせ、有料老人ホームや介護ショップなども展開している。現場のニーズを捉えて介護ロボットに生かして商品化。自社の施設に導入し、そこで意見を聞き、さらに次のステップへ、という過程を繰り返して、離床アシストロボット「リショーネ」は誕生した。

離床アシストロボット「リショーネ」
テクノロジーが変える暮らし(2)Panasonic
ベッドから車いすが分離するという新発想から生まれた「リショーネPlus」

 ベッドの縦半分が分離・リクライニング(写真参照)して、そのまま車いすになるという全く新しい発想の介護ロボットだった。要介護者を「持ち上げる」必要がないので、要介護者と介助スタッフ双方の負担が大きく軽減され、移乗に携わるスタッフも1人で済む。

テクノロジーが変える暮らし(2)Panasonic
分離されることで、スタッフの負担も軽減される

 「これなら安全性も高まるし、居室空間の問題もクリアできる。使い慣れているベッドと車いすなので操作のハードルも低くなると考えました。2014年のことです」

 ちょうどこの年に、開発や実証について国からの助成を受けたり、安全性規格の認証も世界初で取得したりすることができた。導入先の介護施設で「実際に施設のエレベーターに乗れるのか」「外出時に玄関先に停車した送迎車に乗れるのか」「テーブルに着いて食事はしやすいか」などの実証・評価を繰り返したという。

 その後も500人以上にヒアリングし、20171月にさらに使い勝手がよく、価格も抑えた「リショーネPlus」を発売した。

 導入された介護老人保健施設からは「車いすへの移乗のハードルが下がったため、レクリエーションへの参加機会が増えた」「日中の覚醒度が高くなり、発語も活発になった」「使い勝手がよくてもう手放せない」などの声が寄せられている。介助スタッフ側の心的・身体的な負担も大幅に減っている。

 「リショーネPlus」は介護保険対象のため、介護施設だけでなく老老介護などで苦労している家庭がレンタルして、家族を寝たきりにさせないように利用されている。

 「現在はデイサービスでのリハビリサービスを支援する『リハビリ支援AIクラウドシステム』を開発しています。タブレット内蔵のカメラで利用者を撮影するだけで、自動で身体機能を分析して、リハビリ訓練計画を提案し、評価するシステムです」

 新システムは、2020年内をめどにリリースできるよう準備が進んでいるという。

(取材・文 小出広子/テックベンチャー総研)

  • この連載について / 高齢社会2.0

    高齢化先進国である日本。からだの衰えを補い、より豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいる。「テクノロジーが変える暮らし」をテーマに、高齢社会の課題解決に取り組んでいる企業を取材し、の最先端の動きを紹介します。

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