<連載> 高齢社会2.0

ゴルフカーから生まれた高齢社会の課題解決 「超低速車」にこだわる理由

【テクノロジーが変える暮らし(3)ヤマハ発動機】技術とコストを両立させた「会話が生まれる車」

2020.04.09

 現在の自動車業界の動向を示すキーワードのなかでも、「自動運転技術」はとりわけ、利便性を飛躍的に向上させるものとして期待が寄せられている。自動車メーカー以外のさまざまな企業が「自動運転」に参入するなか、異色の視点で開発に取り組んでいるのが、ヤマハ発動機だ。同社は、「電動小型低速車」を、技術とコストのバランスのとれた次世代のモビリティーとして提案し、高齢化を含むさまざまな社会課題に対応することを目指している。同社の研究開発統括部LSM開発部グループリーダーの星野亮介さんに話を聞いた。

ヤマハ発動機
星野さんは低速モビリティーの可能性について語った(撮影・小川純)

ベースはゴルフカー開発で培った技術

 現在、ヤマハ発動機が開発に注力している「電動小型低速車」のベースとなっているのは、1996年に実用化された、電磁誘導式自動走行のゴルフカーだ。電磁誘導式自動走行車の特徴とはどんなものなのか。

 「電磁誘導とは、地中に埋設された誘導線からの磁力線を車が感知し、設定されたルートを走行する仕組みです。誘導線を地中に埋設する工事が必要ですが、ある程度、雪が積もっても走行ルートは検出できます」

 すでにアメリカの一部の地域では、カートをベースとしたモビリティーが定着しており、同社の車両は利用実績がある。また、2015年から石川県の輪島商工会議所が運用する新交通システム「WA-MO」(http://wajimacci.or.jp/ecocart/)にも同社の車両が採用され、観光客や地元民の足として市内中心部を走行している。地域の高齢者も、運転手として活躍しているという。

「ラストワンマイル」のモビリティー

 高齢社会を迎え、家から最寄り駅や病院までの移動手段をどうするかは社会の課題になっている。最近は運転免許を返納する高齢者も増えており、移動手段の確保は喫緊の課題になっている。そうした背景を踏まえ、ヤマハ発動機が目指しているのは、低コストな「ラストマイル・ソリューション」の提供だ。

 「当社の電動小型低速車両は、乗用車をベースとする車両よりも低価格です。また、時速20キロ以下の低速で走る、車両がオープンであるといった、ゴルフカーをベースとする車両ならではの特徴を生かして、駅から病院まで、あるいは駅から商業施設までといった『ラストワンマイル』の移動を補完するモビリティーとして、地域の方の生活に根差した移動手段の役割を担えればと考えています」

ヤマハ発動機
電動小型車の性能表(ヤマハ発動機提供)

 こうしたコンセプトは、高齢者や観光客の足の確保などのために国土交通省が普及を推進する、グリーンスローモビリティーの要件(時速20キロ未満で公道を走る4人乗り以上の電動パブリックモビリティー)にも合致する。

モビリティーを通じ、まちづくりにも貢献する新たな価値を提供する

 ヤマハ発動機の自動走行車両が他社の車両と一線を画すのは、「低速」へのこだわりだ。

 「私たちは、自動走行車両の開発そのものより、『低速モビリティーは社会にどんな価値を提供できるか』の追求に重きを置いています」

 自社の技術にこだわる必要はないと考えから、他社との連携にも積極的にトライしている。2019年はソニーと共同で、高精細4Kディスプレーを搭載した低速小型車両を開発した。いまも全国各地で実施している実証実験では、景色を見ながらゆっくり移動することが可能だからこそ、「乗客同士の会話が自然と誘発される」などの効果が確認されているという。

 「こうした強みを生かし、人と環境にやさしいことに加え、地域交流やまちづくりにも貢献するモビリティーとしてできることはないかと日々考え、試行錯誤を重ねています」

(取材・文 片山幸子/テックベンチャー総研)

【この連載について】
 国内のさまざまな企業が高齢社会の課題解決に取り組み出しています。
 介護ロボットや車の自動アシスト、自動調理家電、スマート家電や見守り機能、スマートフォンによる健康や資産管理など、からだの衰えを補い豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいます。日本は高齢化先進国と言われ、この分野で世界に先駆けた商品開発をすることが経済成長にもつながると期待され「エイジノミクス」などとも呼ばれています。シニア生活者に寄り添い、課題を解決していく企業の最先端の動きを紹介します。

  • この連載について / 高齢社会2.0

    高齢化先進国である日本。からだの衰えを補い、より豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいる。「テクノロジーが変える暮らし」をテーマに、高齢社会の課題解決に取り組んでいる企業を取材し、の最先端の動きを紹介します。

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