<連載> 高齢社会2.0

コミュニケーションロボと会話や体操、ゲーム 楽しみながら介護予防

【テクノロジーが変える暮らし(7)富士ソフト】高齢者の生活の質向上 認知症の早期発見にも期待

2020.04.24

 慢性的な人手不足となっている介護現場で、ロボットの活用は欠かせなくなってきた。システム開発などで知られる富士ソフト(横浜市)が開発したコミュニケーションロボットパルロは、介護現場で高齢者のQOL(生活の質)の向上と介護者の負担軽減を目的としたロボットで、日常会話やレクリエーションなど高齢者の行動をサポートする。全国の高齢者福祉施設で導入が広がり、経済産業省や厚生労働省が支援するプロジェクトの対象ロボットにもなっている。今後の展開について、同社パルロ事業部事業部長の杉本直輝さんに話を聞いた。 

最初は研究機関向けのロボットだった

 ソフトウエアの開発企業、富士ソフトは、画像処理や音声認識、移動知能など「要素技術」とよばれるITに必要な個々の技術についての研究を長年続けてきた。

 「2010年、これらの要素技術を複合させて、何か新しい価値を生み出したいと考え、技術を集約させたロボットがパルロです」

富士ソフト・コミュニケーションロボットパルロ
テーブルの上に置いて、人より高い目線にならないなど、大きさも重要な研究テーマだという(富士ソフト提供)

 当初は、画像処理、音声認識、人感センサーの研究用ロボットとして利用されると想定していたため、工業系の高校や大学などの研究機関向けに販売していた。

 「しかし、さまざまな立場の人にロボットを見せて回ると、高齢者の方にとても喜んでいただけるのがわかりました。そこで、高齢者の方が喜ぶ機能を搭載できないかと調査を始めました」

レクリエーション機能で、介護施設のスタッフの負担を軽減

 パルロにはもともと、「100人以上の顔と名前を覚える」「覚えた人に対して名前で呼びかける」「天気やニュースなど日常会話をする」などのコミュニケーション機能が搭載されていた。杉本さんたちは、高齢者向けのロボットにするために、介護現場でスタッフのフォローをできるようにと、レクリエーション機能も搭載させ、2012年に介護施設向けに販売した。

富士ソフト・コミュニケーションロボットパルロ
パルロは体操などレクリエーション機能が豊富(富士ソフト提供)

 発売以来、機能を追加し続け、現在は歌を歌ったりダンスをしたり、ゲームやクイズを出したりできるほか、落語や朗読などもできるようになった。10種類以上の介護予防効果の高い健康体操もできる。

 「高齢者は、なるべく手足を動かしたほうがいいということで、効果的な動きを反映した健康体操の振り付けを考えました。歌は演歌、童謡、昔のアニメの曲、美空ひばりさんらの歌謡曲が、100曲以上入っていて、曲目は毎月更新しています」

最も苦労したのは「言葉遣い」

 パルロを開発するうえで最も苦労したのは、呼びかける際の「言葉遣い」だったという。

 「パルロはご高齢の方とお話をするので、最初は敬語や丁寧語を使っていたのですが、それでは全然親近感が湧きません。かといって、友だちのようにフランクすぎると、『偉そうに』と反感を覚える人もいました」

 そこで、何度も実証実験をして、敬語を織り交ぜながら、フランクになりすぎない言葉遣いにたどり着いたという。

 また、音声認識や顔の検出技術が完璧ではないため、高齢者が話しかけてきた言葉をうまく聞き取れなかったり、話しかけてきた人を正確に認識できなかったりすることもたまにある。そうした場合にどう対処するかも課題だった。

 「パルロに内蔵されたAIが相手の反応にあわせて応答文を作って回答するのですが、その一言が高齢者の方を傷つけてしまう可能性もあります。そんなときに、高齢者の方が『私の話し方が悪いから理解してもらえなかったんだ』とマイナスに思わないよう、パルロのほうが『僕の性能が悪くてすみません』と応答するようにするなど、試行錯誤を繰り返しました」

認知症の早期発見につながる可能性も

 実際に介護施設や高齢者の入居施設でパルロを利用した人たちからは、「かわいい」「話しかけてくれて孫みたい」「生活の一部なので、いなくなるとさびしい」という声が多かったという。 

 「人によってはロボットとコミュニケーションをとるのは無理というかたもいらっしゃいます。でも、面白がって積極的に楽しんでくださる入居者の方が多いですね」

 部屋にパルロがいると精神状態が安定し、スタッフの呼び出しが減ったというユーザーの声もあるという。

 「健康的な生活を維持できるような癒やしや、ペットのような楽しさを提供していきたい」

 現在、パルロは介護施設を中心に利用されているが、個人向けモデルも販売している。

富士ソフト・コミュニケーションロボットパルロ
杉本さんは「性能は向上しつつ、もう少し価格を下げたい」と話す(現在は介護施設向けモデル=67万円、個人向けモデル=34万8000円。いずれも税別)=小川純撮影

 「高齢のかたの生活の中に入って会話をすることで、普段の自然な状態を観察することができます。そのデータが蓄積されることで、将来的には認知症の早期発見に役立てていければいいと考えています。そのためにも、より話しかけたくなるような魅力的な機能を持つロボットを目指しています」

(取材・文 長谷川華/テックベンチャー総研)

  • この連載について / 高齢社会2.0

    高齢化先進国である日本。からだの衰えを補い、より豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいる。「テクノロジーが変える暮らし」をテーマに、高齢社会の課題解決に取り組んでいる企業を取材し、の最先端の動きを紹介します。

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