<連載> 人生100年時代を豊かに生きる

“古希学長”出口治明氏が語る 日本でユニコーン企業が生まれない三つの理由

本物の教養とは何か(2)

2020.04.24

 還暦でライフネット生命を開業し、古希で立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任した出口治明さんは、物事は「タテ(歴史)・ヨコ(世界)・算数(データ)」の視点で捉えることが大切だと話します。読書家として知られ、経済や歴史に造詣(ぞうけい)の深い出口さんに、平成の30年間で日本の国際競争力が落ちた理由と打開策を尋ねました。

“ユニコーン”は日本にたった3匹

 平成の30年間に、日本の国際競争力(IMD調べ)は1位から30位まで落ちています。新しい産業が生まれていないのですから、経済が停滞して当たり前です。新しい産業の代表は、グーグルやアップルなどのいわゆる「GAFA」や、その予備軍と目される評価額が10億ドル以上の未上場企業「ユニコーン」です。

 ユニコーンは世界に440匹いるのに、日本にはわずか3匹。ユニコーンが生まれる条件は何かというと、「女性」「ダイバーシティー」「高学歴」の三つです。

 まず、日本の製造業は国の宝だと僕は思っています。生産性も高いし、品質も素晴らしい。しかし、製造業のGDPに占める割合は2割を切ろうとしています。雇用では17%前後しかありません。しかもこの数字は年々低下傾向をたどっています。そういう産業にこれからの日本経済全体を引っ張れるはずがありません。

 世界がサービス産業にシフトする中で、サービス産業のユーザーの6~7割が女性なのに、日本企業の上層部は50〜60代の男性が圧倒的に多い。「日本の経済を支えている」と自負する50~60代のおじさんに、消費を支えている女性の欲しいものが分かるのか、ということです。需給のミスマッチが起こっているわけです。それなのに、世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ(男女格差)指数で、日本は153カ国中121位。これではユニコーンなど生まれるはずがありません。

出口治明さん
「日本の希望は女性の皆さんしかない」と、立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さんは語る。「平成の30年間で、4年制大学の卒業生は数百万人単位で増えた。彼女たちが社会を大きく変えてくれると期待しています」

 二つ目のキーワードは、ダイバーシティーです。昨年のラグビーワールドカップで躍進した日本代表の「ONE TEAM(ワンチーム)」が良い例です。あれが日本人だけのチームだったら、果たしてベスト8の成績を残せたでしょうか。企業も同じで、混ぜれば強くなるのです。ユニコーンなどはすべて多国籍チームで闘っています。

 最後は高学歴です。日本経済を長らく支えてきた製造業は低学歴産業です。全世界の製造業の従業員を見てみると、大卒以上は4割しかいません。製造業に求められるのは「そこそこ偏差値が高い」「素直である」「ひたすら我慢強い」「協調性が高い」「上司の言うことをよく聞く」の5要素を満たした人材です。こういう画一的な教育では、ジョブズのような個性ある人材は生まれてこない。これに対してユニコーンの幹部層にはダブルマスターやダブルドクターがごろごろいるのです。

世界とズレている“工場モデル”の社員像

 なぜ日本が低迷状態から脱却できないかというと、日本が製造業の工場モデルに過剰適応した社会だからです。大学進学率が54%強、OECD(経済協力開発機構)平均より7ポイントほど低い。その上、大学で勉強しない。悪いのは学生ではなく企業で、採用基準に成績がないからです。グローバル企業は原則、成績採用です。自分が選んだ大学で「優」をたくさん取った人は、自分が選んだ職場で頑張る蓋然(がいぜん)性が圧倒的に高いからです。その上、日本の企業は大学院生を大事にしない。「なまじ勉強した学生は使いにくい」などと言う経営者もいる。アホか、という話です。

 社会人になったら2000時間労働で、ドイツ、フランスの1400時間労働と比べると、年間200日働くとして1日3時間も違う。しかも、サービス残業が山ほどある。古い体質の企業では、午後8時、9時に仕事が終わってから「俺の歌、聞きに来るか?」と上司が飲みに連れて行くわけですから、勉強する時間がとれるはずがない。

 GAFAやユニコーンはアイデアから生まれます。人間の脳が一度に集中できるのは2時間が限界といわれています。ハリウッド映画がおよそ2時間なのはそこから来ています。つまり理想のワークスタイルは、2時間働いて少し休んで、また働く、という繰り返し。そしてせいぜい1日3〜4コマが限界です。それ以上やっても疲れるだけで生産性が上がらないし、良いアイデアも出てこない。だからグローバル企業は残業を嫌います。日本人が怠け者なのではなくて、日本の社会構造が日本人を低学歴にしているのです。

  • 出口治明
  • 出口 治明(でぐち・はるあき)

    立命館アジア太平洋大学(APU)学長

    1948年、三重県美杉村(現・津市)生まれ。京都大学法学部(専攻:憲法)を卒業。1972年、日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。2008年、ライフネット生命を開業、代表取締役社長に就任。2012年、上場。2017年末、同社を退社。2018年1月、立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任(現在に至る)。著書に『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『人類5000年史』シリーズ(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文芸春秋)など多数。

  • この連載について / 人生100年時代を豊かに生きる

    人生100年時代を豊かに生きるためには、何が必要なのでしょうか。大企業の社員から還暦でライフネット生命を創業し、古希で立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任した出口治明さんに、「本物の教養とは何か」を聞きました。

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