<連載> 人生100年時代を豊かに生きる

“古希学長”出口治明氏が語る 日本企業が定年制を廃止すべき理由

本物の教養とは何か(3)

2020.05.01

 還暦でライフネット生命を開業し、古希で立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任した出口治明さんは、「定年制はすぐ廃止すべきだ」と唱えています。その理由と、人生100年時代の働き方の課題を聞きました。

日本企業の労働慣行が時代遅れなワケ

 グローバル企業は「タテ(歴史)・ヨコ(世界)・算数(データ)」から導かれる結論に基づいて、サイエンスベースの効率の良いマネジメントを行っています。これに対して日本では、いまだに自分の経験に基づいた根拠なき精神論が横行しています。これが日本社会の「がん」だと思います。

 人生100年時代にどう働くか。政府が進める働き方改革は、細部では問題がありますが、大局的には正しい。日本の「一括採用」「終身雇用」「年功序列」「定年」はワンセットのゆがんだ労働慣行で、この四つが成り立つ前提は人口増加と高度成長です。

 世界的に見れば、新卒一括採用などあり得ません。人は足りないときに採用するのが普通で、人が余ったら首を切るのが当たり前です。例えば町のラーメン屋さんは、列ができたら人を雇う。列がなくなったらクビを切らないと生きていけません。

出口治明さん
立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さんは、定年前後の世代をこう励ます。「今日の皆さんが一番若い。明日になったら一日年を取る。迷ったらやってみること。やらなきゃ分かりません」

”窓際族”が生まれるのはなぜ?

 日本ではレイオフや解雇というと「非人間的だ」といわれますが、それこそ勘違いで、解雇をしないということは「窓際族」を作るわけです。人生が旬の時期に飼い殺しにされるわけですから、これほどひどい扱いはない。プロ野球を見れば明らかで、4番が打てなくなればすぐトレードに出して、「うちではもう4番は無理だけれど、ほかで頑張っておいで」というほうが、はるかに人間的でしょう。

 フィンランドでは、生涯に約3分の2の人が転職をします。素晴らしいのは、仕事を変える人の半分が、新たな仕事に就く前に大学で新たに学んだり、新しい資格をとったりするところです。10年くらい働いたら、辞めて、学んで、次に新しい仕事に再びチャレンジする。いつでもチャレンジできる人生、楽しいとは思いませんか。

 「年功序列」もおかしな制度です。仕事ができない上司が自分より高い給与をもらっていたら、若い人が頑張るわけがない。プロ野球は旬の若い選手がたくさん年俸をもらいます。さらに「定年」に相当する英語はありません。アメリカにも連合王国(UK・イギリス)にも定年はありません。人間には個体差があり、意欲も一人ひとり違うのだから、働きたい人はずっと働けばいいという考え方です。一方の日本では、働く意欲が十分あるのに決まった年齢を迎えたら「明日から来なくていいよ」と告げる。こんなひどい制度はないでしょう。

寝たきりにならない一番の方法

 そう考えると、今の日本はラッキーな状況下にあります。なぜかといえば、毎年の出生数が200万人を超えていた団塊世代が順次退場し、これに対して新社会人は年100万人ちょっとです。誰が考えても、構造的な労働力不足に陥ります。コロナ問題で当面は厳しいとしても、中長期的には労働市場に関しては、圧倒的な売り手市場が続くものと予測されます。
 しかも医学の進歩、栄養の向上によって、いまの75歳はひと昔前の65歳と相撲をしたら勝てるぐらいの元気がある。肉体労働でなければ、75歳ぐらいまでは十分働けるはずです。

 人生100年時代というのは決して悪い話ではありません。秦の始皇帝が最後に望んだのは不老長寿。日本で高齢化が進んでいるということは、不老長寿の社会を実現しようとしているわけで、素晴らしいことです。でも、寝たきりでは人生は楽しくないでしょう。『欧米に寝たきり老人はいない』という本がありますが、寝たきり老人がいるのは日本だけです。寝たきりにならない一番の方法は働くこと。だから、定年はすぐにも廃止すべきです。働けば寝たきりにならないで、かつ収入も入ってくるわけですから、老後資金が年金だけでは2000万円足りない、なんて話は雲散霧消します。

 定年は一部の金融機関を喜ばせるだけではないでしょうか。定年というゆがんだ制度があるから、「老後が心配でしょう?」といって怪しげな金融商品を売りつけようとする企業も出てくるわけです。制度がゆがんでいると、ゆがんだ商品が生まれます。だから、定年をやめて、働きたい人が誰でも働ける社会にすれば、ゆがんだ商品は消えていくと思います。

  • 出口治明
  • 出口 治明(でぐち・はるあき)

    立命館アジア太平洋大学(APU)学長

    1948年、三重県美杉村(現・津市)生まれ。京都大学法学部(専攻:憲法)を卒業。1972年、日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。2008年、ライフネット生命を開業、代表取締役社長に就任。2012年、上場。2017年末、同社を退社。2018年1月、立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任(現在に至る)。著書に『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『人類5000年史』シリーズ(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文芸春秋)など多数。

  • この連載について / 人生100年時代を豊かに生きる

    人生100年時代を豊かに生きるためには、何が必要なのでしょうか。大企業の社員から還暦でライフネット生命を創業し、古希で立命館アジア太平洋大学(APU)の学長に就任した出口治明さんに、「本物の教養とは何か」を聞きました。

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