<連載> 高齢社会2.0

「曲面サウンド」スピーカーで難聴の人もテレビの音をききやすく

【テクノロジーが変える暮らし(10)ミライスピーカー】蓄音機をヒントに高齢者の大音量問題を解決

2020.05.13

 加齢による聴力の衰えは40歳代から始まり、60歳代になると「きこえが悪くなった」と感じる人が急激に増え、65~74歳では3人に1人、75歳以上では約半数が難聴に悩んでいるといわれている。「楽しみにしているテレビの音もききづらい」という悩みを解決するのが、サウンドファン(東京都台東区)が独自に開発した「ミライスピーカー(R)」。高齢者や音のきこえ具合に悩んでいる方でもテレビを快適に楽しめるスピーカーのある生活とはーー。代表取締役社長の山地浩さんに話を聞いた。

ミライスピーカー
テレビの横に置いてあっても、音はきちんときこえるから不思議(サウンドファン提供)

従来と異なる「新音波」でききやすい音に

 80歳代の母親は耳が遠くて、テレビの音は大音量のまま。家族にとって大きな音は迷惑だが、仕方ないと諦めている。そこで補聴器をつけてもらうと雑音まで拾ってききづらいと苦情を言われる。かといって本人の手元に置くスピーカーにしてしまうと、今度は家族にはテレビの音がきこえない――。そんな悩みを持つ家庭は多いのではないだろうか。

 そこでテレビに「ミライスピーカー」を取り付けたところ、音量を半分にしても母親にはテレビの音がはっきりきこえて、家族も大音量に悩むことはなく、家族団らんが戻った。別の家庭では、「テレビはきこえないから見ない」と毎日うつうつとしていた親がテレビを楽しみ、表情まで明るくなった。そんな声がサウンドファンには続々と届いているという。

 いままできこえにくかった音が、なぜききやすくなるのか? それを可能にしたのが世界初の特許技術「曲面サウンド」だ。社長の山地浩さんが開発のきっかけをこう話す。

 「蓄音機の音は難聴者にもなぜかきこえやすい。それはなぜかという疑問がきっかけになって開発が始まりました。従来のスピーカーが『コーン』と呼ばれる円すい形の板を振動させて音が発せられるのに対し、ミライスピーカーは蓄音機のラッパの部分の曲がりをヒントに『弧を描くように湾曲させた板』から音を発生させます。この音が特許技術・曲面サウンドで、従来のスピーカーと異なる音波となっています」

ミライスピーカー
特許技術「曲面サウンド」は、蓄音機の技術がヒントになった(サウンドファン提供)

 山地さんは小さなオルゴールと1枚のごく普通のクリアファイルを手に「ちょっと実験してみますね」とオルゴールの音をきかせてくれた。

 湾曲にしたクリアファイルにオルゴールを寄せて鳴らすと、遠くに離れてもオルゴールの音がクリアにきこえる。距離による音の弱まりが少なく、広く遠くまで届く。しかし、湾曲したクリアファイルをまっすぐに戻すと、近くにいてもオルゴールの音はかすかにきこえるだけだ。まるで手品を見ているかのようだ。

 「湾曲させた板を使うと、音が広く、遠くまで届くという特性があります。さらに、高齢できこえにお困りの方にとっては、言葉がきき取りやすくなる特性もあります」

 日本補聴器工業会の2018年調査によると、難聴者の補聴器所有率はわずか14.4%。「わずらわしい」「装着しても元の音のきこえ方には戻らない」などが理由だという。きこえづらさを抱えたままでは、周囲との円滑なコミュニケーションが阻害され、認知症の発症にも影響するといわれているが、「耳のきこえに問題のある方がミライスピーカーを使うと、約8割の方のきこえ方が改善している」と山地さんは話す。

レンタルサービスと小型化で家庭に普及

 「ミライスピーカーは15年10月に販売を開始しました。当初から全国のさまざまな企業や団体で採用されてきました」と山地さん。一般企業、役所、老人ホーム、教育機関、教会、寺院など、大勢の人に言葉を届けたいシーンで「拡声器」として使われている。声がよくきこえるようになるため、病院や銀行などの呼び出しのアナウンスがきこえないという問題も解消している。

 NHK放送文化研究所の2015年調査によれば、70代以上のテレビ視聴時間は、「3時間以上」が17%、「4時間以上」は61%に達する。高齢者にとってテレビは社会とのつながりの窓口にもなっている。

 企業などで普及し始めたミライスピーカーだが、価格や大きさがネックとなり、一般家庭には広がらずにいた。そこで同社は18年8月から個人向けのレンタルサービスのテストマーケティングを実施。この結果を受けて19年7月、個人向けレンタルサービス(30日間無料お試し後に月額1980円・税別)をスタートさせた。

 「いまでは多くの方々にご利用いただき、単に『きこえるようになってよかった』というだけでなく、『明るく元気になって行動までいい方向に変化している』といった声もいただいています。ここ数年で製造コストも抑えられるようになり、ご家庭で使いやすい小型サイズの開発も進めています」

ミライスピーカー
山地さんは「小型化、ステレオ化の開発も進めています」と話す(小川純撮影)

 2018年のWHOの推定値によれば、世界の難聴者は約4.7億人で 日本は約550万人。2050年には世界で9億人に達するとみられている。山地さんは「今後は海外でも販売していきたい」と話す。

 防水防塵仕様にしたうえで大型化もできれば、災害時のスピーカーとしての期待も膨らむ。逆に、もっと小型化を実現すれば、さまざまな機器への搭載も可能となり、音のバリアフリーに道をひらく。シニア世代をターゲットにしたテクノロジーが幅広い社会課題の解決につながっていく時代が、いま到来しつつあるのかもしれない 。

(取材・文 小出広子/テックベンチャー総研)

  • この連載について / 高齢社会2.0

    高齢化先進国である日本。からだの衰えを補い、より豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいる。「テクノロジーが変える暮らし」をテーマに、高齢社会の課題解決に取り組んでいる企業を取材し、の最先端の動きを紹介します。

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