<連載> 高齢社会2.0

寝たきりの人も筋力アップ 「フットフィット」で健康寿命を延ばす

【テクノロジーが変える暮らし(11)MTG】EMS健康器具「シックスパッド」の開発秘話

2020.05.18

 電気の刺激によって腹筋や腕、脚などの筋肉トレーニングをサポートする「EMS」という器具をご存じですか?トレーニング機器などを販売するMTG(名古屋市)は、2015年以降、EMS器具を発売しており、「シックスパッド」と呼ばれるシリーズは、累計出荷台数が200万台を超えた。なかでも、18年に発売した「シックスパッド フットフィット」は一番人気だ。今回、このフットフィットの開発経緯についてWELLNESSブランド本部SIXPAD部長の熊崎嘉月さんに話を聞いた。

MTG「フットフィット」
使い方は素足になって乗せるだけ(MTG提供)

電気の刺激で筋肉を鍛える

 シックスパッドのすべての製品に搭載されているのが、EMSと呼ばれる電気刺激のシステム。「EMSとは、Electrical Muscle Stimulation(=骨格筋電気刺激)のことで、シックスパッドシリーズの根幹のテクノロジーになっています」と熊崎さん。もともとは、医療現場でのリハビリ用やアスリートのトレーニング用に開発された技術だった。

 「寝たきりになった人や、じん帯などを切って自分の意思で運動ができない人でも、直接筋肉に電流を流すことで、筋肉の筋繊維が弛緩収縮をし、筋肉が鍛えられる仕組みです。整骨院や整形外科の電気治療をイメージするとわかりやすいかもしれません」

 熊崎さんら開発チームがEMSに注目したのは約7年前だった。しかし、そのころの世間では「EMS=脂肪燃焼」といった広告が喧伝されていた。

 「筋肉が大きくなって代謝が上がり、結果的に脂肪を燃焼しやすい身体になるということはありますが、EMSが直接脂肪を分解するわけではありません。EMSは、あくまでも筋肉に電気の力で刺激を与えて筋肉を鍛えていくというものです」

粗悪品が出回る中で「本物」を追求

 しかし、「楽して痩せられる」というイメージが広がり続け、安全性が保証されているかわからない商品も流通したこともあって、やけどなどの健康被害が国民消費者センターに寄せられることが多かったという。

 そうした事態を受け、消費者のために安全基準をつくろうと、13年11月にEMS安全基準検討委員会が発足。MTGをはじめとする各メーカーなどでつくる業界団体「日本ホームヘルス機器協会」が15年10月、安全性に関する自主基準を定めた。

 以降、MTGの開発チームは本格的にEMS商品の開発に乗り出した。

 「使う人のためになる商品を追求するために、EMSに関する多くの論文を発表している京都大学名誉教授の森谷敏夫先生に協力をお願いしました」

MTG WELLNESSブランド本部SIXPAD部長の熊崎嘉月さん
熊崎さんは「日常の運動としてEMSを使ってほしい」と話す(小川純撮影)

秘密は効率よい「周波数」と痛くない「波形」

 シックスパッドと他社のEMS製品の大きな違いは、EMSの効果を最大限に引き出せる点だという。

 「シックスパッドは、20ヘルツという周波数を使っていますが、これは森谷先生の研究によると、1秒間に20回という電気刺激が一番効率よく筋繊維を弛緩収縮させるからです」

 多くのEMS機能付き製品は、国内外問わず、70~100ヘルツのものが多く、中には1000ヘルツのものも販売されているという。

 「周波数が低くなるにつれ、電気刺激特有のチクチクとした痛みが発生しやすいので、機器自体は痛みを取る器具を取り付けて大型になっています。弊社は試作を重ね、持ち運び可能な小型のまま、痛みを伴わない独自の波形の開発に成功し、特許も取得しています」

 シックスパッドは当初、アスリートのトレーニングという観点で商品が開発されてきたが、現在は健康寿命を延ばすことを視野に入れているという。高齢者の健康寿命が終わる原因の多くは、関節疾患からくる転倒や骨折で、要介護者になることだ。

 「EMSで日ごろから筋肉を鍛えておけば、転倒や骨折を未然に防ぐことにつながります。フットフィットは、寝たきりになった人でも、筋力トレーニングをすることが可能です」

 同社の「フットフィット」(4万480円・月払い購入も可)は、座ったまま足を乗せ、足裏からふくらはぎを刺激し、歩くために必要な筋肉を鍛えるというもの。足を乗せている時間が、歩く力のトレーニングになる。

 「膝下を中心にトレーニングできる機器は、トレーニングジムでもあまりありません」(熊崎さん)

 介護施設でテスト的に使用してもらったところ、筋肉に厚みが出るなど、さまざまな数値に改善が見られているという。今後について、熊崎さんは次のように話す。

 「私たちは、引き続き大学の研究室などとEMSの技術開発取り組み、専門医や大学病院とも連携して、少しでも健康寿命を延ばすことに役立てていけたらと考えています」

(取材・文 長谷川華/テックベンチャー総研)

  • この連載について / 高齢社会2.0

    高齢化先進国である日本。からだの衰えを補い、より豊かに暮らすため、テクノロジーを活用した商品開発が進んでいる。「テクノロジーが変える暮らし」をテーマに、高齢社会の課題解決に取り組んでいる企業を取材し、の最先端の動きを紹介します。

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