<連載> 大腸最前線

腸内細菌が変えた人生 働き方や食事にも影響

「便移植療法」を受けた片山武蔵さんに聞く(下)

2020.05.29

 弟の腸内細菌を大腸に移植する便移植療法(便移植)で健康を取り戻し、15キロ以上も減っていた体重も元に戻ったという片山武蔵さん(35)。しかし、潰瘍(かいよう)性大腸炎との闘いが、終わったわけではありません。ストレスや食事などの面から大腸に気をつかうようになり、働き方や生活習慣も一変。何よりも、人生に対する考え方がすっかり変わったと語ります。

 2015年4月に便移植の手術を受け、潰瘍性大腸炎の苦痛から解放された私は、普通の生活を取り戻しました。現在は地元の神奈川県大和市で会計事務所を開業。一時は絶望から諦めていた結婚もでき、子どもにも恵まれました。
 しかし、病気は完治したわけではありません。便移植から5年。おかげさまで、症状がない状態はずっと続いていますが、私は昔からおなかが弱いところがあり、時々調子を崩したりすることもあります。再発させないように、様々なことに気を配っています。

30代にして考えた「セカンドライフ」

 便移植を経て、一番変わったのは、自身のセカンドライフについて考えるようになったことです。30代でセカンドライフを考えるのは、早いと思われるかもしれません。でも、私にとっては、人生観が変わるほどのインパクトのある出来事だったのです。
 今の私は、弟の腸内細菌のおかげで取り戻すことができた人生を、健康に、できる限り長く生き抜くことが一番だと考えています。そのためには、これまでと同じ生き方でいいのか、ということですよね。
 以前の私は、外資系の大手会計事務所に勤め、仕事に関しては会社に指示されたことをガムシャラにこなすことだけを考えていました。そのためには残業もあたりまえだし、忙しい時期には、食事をしながら仕事をするようなこともありました。そうした生き方もありだと思いますし、かつての自分のそんな働き方を否定するつもりもありません。でも、健康を取り戻すことができた自分は、かつての生活習慣を繰り返してはだめなんだと、病気に気付かされました。

公認会計士の片山武蔵さん
便移植療法で健康を取り戻した体験を語る、公認会計士の片山武蔵さん (撮影)村上宗一郎

 今後の人生で、健康に長生きすることを考えると、生き方も、仕事も、食事も、おのずと変わってくる。例えば、上場企業に勤める友人が、役員になったとか、年収が3000万円になったと聞いた時に、「すごいな。自分もその会社に入りたいな」と考えるのではなく、すごいとは認めながらも「体に気をつけろよ」と思わずにはいられない、そんなマインドチェンジです。
 潰瘍性大腸炎には、ストレスが一番よくないと感じています。立身出世を夢見て、上場企業とかに勤めていたら、「今日は疲れたから4時で帰ります」なんてことは、あり得ないじゃないですか。だとすると、自分で事務所を立ち上げて、自分でコントロールできる範囲で仕事をするしかない。それが、自分にとってストレスなく生きる働き方だと気付いたのです。それでも、デスクワークが多い仕事には変わりありませんから、時々ジムに行って運動したり、好きなゴルフをして気分転換をしたりして、極力ストレスをためないように心がけています。

体の声に耳を傾け、良いものを取り入れる暮らし

 食事も、おのずと変わってきます。以前の私は、焼き肉、カレー、ラーメンなどを好んで食べていました。これらは今も好きですけど、最近はみそ汁、焼き魚、煮物など、和食を中心に食べるようになりました。
 体に良さそうなものは、大抵試していますよ。それで、効果を感じたものは、日々の暮らしの中に取り入れています。例えば大腸の有用菌として知られるビフィズス菌などや、腸粘膜に良いとされ魚油に含まれているオメガ3系脂肪酸などは、サプリメントで継続してとっています。これらは、あくまでも自分が試して良いと思ったもので、万人に効果があるとは思いませんけれど。要は、自分の体の声に耳を傾け、いろいろ試して自分に合うと思ったものを取り入れることだと思います。

 最後に自身の体験から、間違いないこととして言えるたったひとつのことは、便移植によって僕の人生は確実に変わったということ。名誉や出世、収入とかとは違う、健康という視点から、人生を考えることができるようになった。それは、健康で長生きするためなら腸内細菌をも味方につけるし、仕事も生活も、健康に直結するものとして考える、そんな生き方です。(談)

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  • 片山武蔵
  • 片山 武蔵(かたやま・むさし)

    公認会計士

    1984年、神奈川県生まれ。大学卒業後、外資系の会計事務所で勤務するが、潰瘍(かいよう)性大腸炎の発症により退職。回復後の2015年に「やまと総合会計事務所」を開業。妻と長男の3人家族。

  • この連載について / 大腸最前線

    大腸にすむ腸内細菌は、検査法の飛躍的な進歩などにより、私たちの健康増進に役立つさまざまな働きが明らかになってきました。腸内細菌を活用した最新の治療例や、医療現場の動向などを、分かりやすくご紹介します。

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