貯金があれば安心? それでも不安? お金では買えない定年後の居場所

作家・楠木新さんに聞く(前編)

2020.05.25

 定年を迎えると、これまでの生活が大きく変化します。老後資金に不安を抱えている人も多いでしょう。しかし、定年前後の人を数多く取材してきた作家の楠木新さんは、「老後不安の正体はお金ではない」と指摘します。老後を安心して過ごすにはどうしたらいいのか、「定年後のお金」の考え方を楠木さんに聞きました。 

作家の楠木新さん
作家の楠木新さん

頭の中だけで「30年後」に飛び、不安になる

 7年前から、定年前後のサラリーマンに話を聞き始めました。気になったのが、会社一筋で働いて定年した後、貯(た)めたお金を自分の楽しみのために使えていない人が結構いることです。「人生100年時代」だからといって、老後に備えるためのお金の増やし方や、ため方ばかりに注目が集まりすぎているように感じています。定年退職前は年金とか失業保険とか、お金の計算で頭がいっぱいの人も多いのではないでしょうか。
 90歳まで生きると仮定して、頭の中だけで「30年後」に飛んで、お金がマイナスにならないように逆算する。5年先、10年先さえ分からない時代に、30年も先のために準備しようとする発想自体が、老後不安の一つのポイントだと思うのです。

うまくお金を使うには「主体性・行動」が大切

 「お金」と「定年後の過ごし方」を分けて考えている人は、楽しそうに見えません。お金は大事ですし、定年後の生きがいを支える手段の一つですが、お金で定年後の居場所が買えるわけではありません。
 定年後の人生を充実させて、うまくお金を使うために大切なことは、「自らの主体性(好奇心)」と「行動」だというのが、取材してきた実感です。定年後も自分の興味あることに積極的に取り組むことが大切です。自分の楽しみを見つけている人は、そこにかけるお金は多額ではありません。その対象になるのは、小商い、組織で働く、趣味、地域活動・ボランティア、学び直しなど、何でもよいでしょう。自分に合ったものに取り組むのが大切です。
 多くの人にフィットするのは、「仕事=働くこと」だと思います。手持ちのお金の金額だけでなく、長く働けること自体が大きな財産です。働いて社会の役に立ち、お金がもらえることが、やりがいにもつながります。定年後は、いくつかのことを並行してやれるので、「仕事か趣味か」の二者択一ではなく、「仕事も趣味も」と考えた方が健康的です。「合わせ技一本」という考え方です。

大丈夫、あなただけじゃない

 お金を自分の裁量で、楽しみのために使えるのは75歳くらいまででしょう。主体性を生み出すのは難しいですが、人との出会いに触発される人や、リストラや合併、震災、病気などで転機を迎えた人にたくさん会ってきました。定年後に何をしたらいいか分からず、なかなか行動を起こせない人も多いです。でも大丈夫。それはあなただけではありません。
 毎日を楽しんでいる人は「いい顔」をしています。「何か」を見つけるのに決して遅すぎることはありません。子どもの頃から好きだったことをもういっぺんやってみたり、「いいな」と思う人と自分を重ね合わせてみたりすると、今後のたどる道筋が見やすくなります。言い換えれば、自分が「いい顔」になるものに取り組めばよいといえるでしょう。

※後編では、楠木さんが30年間続けている家計管理法「財産増減一括表」を解説します。

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(聞き手・見市紀世子、撮影・山本友来)

  • 楠木 新(くすのき・あらた)

    作家、神戸松蔭女子学院大学教授

    1954年神戸市生まれ。京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。 人事・労務関係をはじめ総合企画、支社長などを経験。会社勤務と並行して「働く意味」「個人と組織」をテーマに取材を続け、執筆、講演などに取り組む。 2015年3月に定年退職。現在、神戸松蔭女子学院大学教授。『定年後』『定年準備』『定年後のお金』など著書多数。

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