<連載> 腸サイエンスの時代

便秘で生産性が低下する? 大腸の不調で脳が乱れるメカニズムとは

「脳腸相関」から考える、大腸ケアとストレス対策(上)

2020.07.06

 在宅勤務がつづき、運動不足になりがちな日々、便秘に悩まされてはいませんか。慢性的な便秘は、体の不調にとどまらず、作業効率や生産性の低下など、脳の働きにも無視できない影響を及ぼすことがわかってきました。どんなメカニズムが働くのか。精神科医で杏林大学名誉教授の古賀良彦さんに聞きました。

互いに影響しあう、脳と腸の密接な関係

 長い間、私のような精神科医は、脳こそが体中の器官を支配する唯一無二の存在だと考えてきました。しかしいま、脳と腸とは、そんな上下関係ではなく、互いに影響を及ぼしあう、非常に密接な関係にあることが、明らかになってきています。「脳腸相関」と呼ばれています。

 腸の調子がおもわしくないときに、脳は実際、どんな影響をうけるのでしょうか。大腸の不調として、最も一般的なのは便秘です。そこで、便秘の人と、そうでない快便の人との間では、どんな違いがみられるかを、心理的な状態、課題の遂行力、脳の働きという、三つの観点から調べてみました。

杏林大学名誉教授・古賀良彦さん
杏林大学名誉教授で精神科医の古賀良彦さん(撮影:村上宗一郎)

快便で集中力・やる気 便秘だと眠気や疲労感

 実験に参加したのは、30~50歳代の働く女性たち。便秘の自覚があり、排便が週に3回未満の7人と、便秘の自覚症状がなく、排便が週に5回以上ある7人です。

 まず心理的な状態について、ストレスとかかわりの深い、本人の気分や、やる気の状態などが、便秘のあるなしで違いがあるかどうか、アンケートから分析しました。

 快便グループと便秘グループで比べると、快便の人たちは、集中力が高く、やる気にあふれ、さわやかな気分で、リラックス感が高い、という状態にありました。一方、便秘の人たちは、眠気が強かったり、緊張感があったり、疲れやすい、いらいらする、という状態にありました。

便秘と心理状態のグラフ
アンケートにもとづく心理状態の自己評価

 つまり、集中力やリラックス感などポジティブな項目については、快便グループのほうがスコアが高く、眠気や緊張など、ネガティブな項目は、便秘グループのほうが高い。わりとはっきりした結果がでました。

計算課題の達成度 便秘と快便で顕著な差

 次は、与えられた課題をどの程度こなせるか、作業のパフォーマンス調査です。ひとケタの数字の足し算という、ごく単純な計算を3分間、連続してやってもらい、解いた問題の数と正答数を、便秘と快便の2グループで比べてみました。

 実は、それほど顕著な差はでないだろうと予測していましたが、興味深い結果となりました。二つのグループを比べると、解いた問題の数が、快便グループのほうが、約3割も多かったのです。快便の人たちが、平均140問ほどの足し算をこなしたのに対し、便秘の人たちは平均で110問足らず、ざっと30問の差がでました。正答数も、ほぼ同様の結果でした。

計算課題の達成数と正答数
計算課題の達成数と正答数。快便グループに比べ、便秘グループの成績はかんばしくない

 ごく簡単な計算でも、集中力の乱れなどが反映され、課題達成度に開きが生じたと推察できます。ふだんの仕事や生活にあてはめて考えてみると、たとえばパソコンで入力作業を続けたとき、便秘に悩む人たちは、作業スピードが遅くなったり、ミスが多くなったりする状態にあったとでもいえるでしょうか。あるいは日常生活のなかでも、年配の方などは、周囲への注意がおろそかになり、危険な目にあったりするかもしれません。

 では、こうした作業をしているときに、脳は実際にどんな働き方をしているのでしょうか。調べてみると、便秘に悩む人たちの脳は「空回り」ともいえる状態になっていることがわかりました。(談)

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  • 古賀 良彦
  • 古賀 良彦(こが・よしひこ)

    杏林大学名誉教授・精神科医

    慶応義塾大学医学部卒業。杏林大学医学部精神神経科学教室主任教授を務め、現在は同大学名誉教授。日本催眠学会名誉理事長、日本薬物脳波学会副理事長、日本臨床神経生理学会名誉会員。専門分野は、脳機能画像によるストレス対処の研究。著書に『睡眠と脳の科学』(祥伝社新書)、『パンデミックブルーから心と体と暮らしを守る50の方法』(亜紀書房)など。

  • この連載について / 腸サイエンスの時代

    腸、とくに大腸にすむ数百種類、百兆個におよぶ細菌たちがつくる「腸内フローラ」。その状態が、心や体の健康、美容などに大きく関わっていることが最近わかってきました。21世紀は腸の時代ともいわれる今、各分野の最新研究を紹介します。

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