<連載> アートシーンの裏側

湿度、照明…古今の展示環境の違いに苦心 「古典×現代2020」展実現までの軌跡

【寄稿】国立新美術館 長屋光枝・学芸課長

2020.07.15

 古美術の名品と現代の表現を組み合わせたとき、そこから何が浮かび上がるのか――。東京・六本木にある国立新美術館で開催中の美術展「古典×現代2020―時空を超える日本のアート」は、古典と現代の作品をペアで展示し、双方の魅力を問い直そうとする展覧会です。古典と現代美術という展示環境が異なる作品を同じ空間で展示するのは難しいですが、今回はいかに実現できたのか。本展を担当した国立新美術館の長屋光枝学芸課長に寄稿いただきました。

 「古典×現代2020」展は、禅画で名高い仙厓と美術家の菅木志雄、江戸時代の花鳥画と写真家の川内倫子、全国を旅して仏像を彫った僧の円空と彫刻家の棚田康司、平安から江戸までの刀剣と美術家の鴻池朋子、日光・月光菩薩(ぼさつ)像と建築家の田根剛、浮世絵で名高い葛飾北斎と漫画家のしりあがり寿、琳派の陶工、尾形乾山とデザイナーの皆川明、江戸時代の絵師、曾我蕭白(しょうはく)と画家の横尾忠則、の計8組の作品を、独立した8つの部屋で親和的に展示しています。

「花鳥画×川内倫子」展示風景
「花鳥画×川内倫子」展示風景 撮影:上野則宏

 本展覧会のような、古いものと新しいものを一緒に並べる試みは、過去に例が無いわけではありませんが、珍しい企画と言えます。こうした展覧会の実現を難しくしている理由のひとつに、古美術と現代美術の展示環境の違いがあるでしょう。平安時代の刀剣を筆頭に、鎌倉時代の仏像、江戸時代の掛け軸や浮世絵版画、陶器など、長い時間を生き延びてきた貴重な造形物が数多く展示されています。古美術の展示環境や展示期間には、厳しい制限が課せられます。

 理由は、そうした作品が、高温や多湿、あるいは乾燥、温湿度の急激な変化、照明などに対して、たとえば現代美術と比較したとき、はるかに脆弱(ぜいじゃく)だからです。作品を安全に保つために好ましい展示環境の条件は、作品の状態、材質や技法などによって違いがあり、現代美術の展示に対する考え方と矛盾することもしばしばです。

 江戸時代の花鳥画と川内倫子さんの写真の部屋の照明を例に挙げます。花鳥画には、50ルクスまでという照度制限があります。一方でそれは、川内さんの写真とインスタレーションを効果的に展示するためには暗すぎます。そこで今回は、部屋全体の明るさを絞った上で、写真にはスポットライトを照らして明るくし、花鳥画にはスポットライトを使用しませんでした。

 正直なところ、川内さんの写真はもう少し明るく見える方がよいです。しかし、写真が明るければ明るいほど、制限を守った花鳥画はより暗く沈んで見えます。照度の条件を守り、両者の見栄えが折り合うところで照明を調整しています。

 相対湿度もまた、展示環境において重要なポイントです。掛け軸や屏風(びょうぶ)、仏像などはケースに入っていますが、ケース内は、内部に仕込まれた調湿剤によって、個々の作品に適切な湿度に保たれています。高い湿度が好ましい作品、あるいは低い湿度が求められる作品のために、個別に調整することができるのです。

「刀剣×鴻池朋子」展示風景
「刀剣×鴻池朋子」展示風景 撮影:上野則宏

 また今回の展示では、錆(さび)を防ぐために低い湿度が求められる刀剣と、それより高い湿度が望ましい皮を素材とした鴻池朋子さん作≪皮緞帳(どんちょう)≫が同じ部屋に展示されています。この作品は、皮の上にクレヨンや水彩で描いたユニークなものです。現代美術では、過去に類例がない技法や手法が使われることも多く、適切な値を図りにくいことがしばしばあります。現代美術には現代美術に特有の、環境保全の難しさもあるのです。

 国立新美術館は、近現代の美術や、同時代の先鋭的な表現を紹介する展覧会を開催してきました。古美術を専門的に扱える研究員がいないため、本展覧会の準備にあたっては、日本美術専門のゲスト・キュレーターの協力を得て準備を進めてきました。古今の異色の組み合わせが実現した背後には、さまざまな条件をクリアし、折り合いをつけていく地道な作業とともに、多くの人との協働があったのです。

8月24日まで。観覧には事前予約による日時指定券が必要となります。毎週火曜休館。

展覧会ホームページ:古典×現代2020

  • この連載について / アートシーンの裏側

    古今東西の芸術作品をインターネットでも手軽に楽しめる現代。でも作品の世界観を体感するにはやはり会場で鑑賞するのがオススメ。展覧会の見どころや、学芸員・専門家だからこそ知る裏話や楽しみ方をお伝えします。

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