<連載> 腸サイエンスの時代

便秘で脳が「空回り」、働いても結果を出せない理由とは

「脳腸相関」から考える 大腸ケアとストレス対策(中)

2020.07.13

 慢性的な便秘は、やる気や集中力をそぐだけでなく、脳がフル回転で活動しても、結果を出せない「空回り」の状態を引き起こしてしまう。便秘が脳に及ぼす影響を確かめるために、30~50歳代の働く女性14人を対象に実験をしたところ、このような「空回り」現象が起こっていることがわかりました。なぜなのか。実験を監修した杏林大学名誉教授の古賀良彦さんに聞きました。

便秘と快便、働く脳の違いを画像に

 便秘で悩む人たちは、やる気や集中力が快便の人たちほどには高まらず、簡単な足し算をしてみると、同じ時間内に解けた問題数が、快便の人より3割ほど少ない。今回の実験では、便秘の人たちは快便の人たちよりも心理的な状態がネガティブで、課題遂行の成績も悪い傾向がありました(連載・上に詳細)。

 では、この実験の際、脳はどうなっていたのか。活動の様子を調べたところ見つかったのが「空回り」した脳でした。

空回りする脳の画像
図1:課題を実行中の前頭葉の様子をとらえた光トポグラフィーの画像

 調べたのは前頭葉、脳の一番前の部分です。脳のなかで最も高次な機能を営んでいる場所とされ、計画を立てたり、記憶を呼び起こしたり、注意を集中したり、やる気をださせたりといった働きを担っています。この前頭葉が活動する様子を、光トポグラフィーという分析装置で測ってみました。

 脳細胞に酸素を運ぶヘモグロビンの量から、脳の活動を分析します。図のなかで赤くなっているのが酸素をたくさん使っているところです。一生懸命、脳が働いていることを示しています。

一生懸命働いても 結果がともなわず

 たとえば計算課題をしているとき、便秘の人の前頭葉は、快便の人よりも、はるかに赤く、精いっぱい前頭葉を働かせている様子がうかがえます。しかし、実際の計算課題の成績は、それほど脳を働かせていない快便の人のほうが上でした。同じ事をやるにしても、快便の人の脳はさらっとやってしまう。これに対し便秘の人の脳は、一生懸命やっているけれど結果がついてこない。「空回り」の状態に陥っていたわけです。

古賀良彦・杏林大学名誉教授
杏林大学名誉教授で精神科医の古賀良彦さん(撮影:村上宗一郎)

緊張感やイライラ… ストレスが背景か

 実は以前、同じように脳が「空回り」する現象が起こるのを確認したことがあります。成人女性を対象に、ハンドマッサージがもたらす影響を調べたときのことです。

 リラックスさせる目的で、ハンドマッサージの施術を受けながら記憶課題を実行する人と、施術を受けずに課題のみ実行する人とで課題の達成数を比較してみました。すると、どちらも同程度の成績であるにもかかわらず、マッサージを受けなかった人のほうが、脳の活性度が高い状態にありました。つまり、より懸命に脳が働かないと、同程度の結果が出せないという「空回り」が起きていました。

 今回の実験でも、アンケートに対し、便秘の人のほうがリラックス感が低く、緊張感やイライラが高いという傾向がでていました。脳が空回りする背景には、緊張感やイライラといったストレスと関連している可能性があると思っています。

 便秘は、よくある体調不良のひとつとして軽くみられがちなところがあります。しかし、便秘は心の不調や仕事の効率・生産性にも深くかかわり、脳の働きにも影響を及ぼしています。食の改善や運動などを通じて、積極的に改善していくことが求められています。(談)

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  • 古賀 良彦
  • 古賀 良彦(こが・よしひこ)

    杏林大学名誉教授・精神科医

    慶応義塾大学医学部卒業。杏林大学医学部精神神経科学教室主任教授を務め、現在は同大学名誉教授。日本催眠学会名誉理事長、日本薬物脳波学会副理事長、日本臨床神経生理学会名誉会員。専門分野は、脳機能画像によるストレス対処の研究。著書に『睡眠と脳の科学』(祥伝社新書)、『パンデミックブルーから心と体と暮らしを守る50の方法』(亜紀書房)など。

  • この連載について / 腸サイエンスの時代

    腸、とくに大腸にすむ数百種類、百兆個におよぶ細菌たちがつくる「腸内フローラ」。その状態が、心や体の健康、美容などに大きく関わっていることが最近わかってきました。21世紀は腸の時代ともいわれる今、各分野の最新研究を紹介します。

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