外出控えが長引くいま、東大がシニアに伝えたい健やかに過ごす知恵

東大高齢社会総合研究機構長・飯島勝矢さんに聞く

2020.07.15

 新型コロナウイルスの影響が長期化する中、高齢社会の課題を研究する東京大学高齢社会総合研究機構が、自宅での生活を健やかに過ごすポイントをまとめたパンフレットをWEB上で公開しています。「おうちえ」と名づけられたこのパンフレットを公開した狙いや、外出機会が減る中でシニアが注意すべきことについて、同機構長で未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢さんに聞きました。

自宅で健やかに過ごす工夫を図解で

Q:パンフレットのタイトルは「おうちえ」です。由来を教えてください。

 「おうち」と「ちえ」をかけて名づけました。コンセプトは、「おうち時間を楽しく健康に過ごす知恵」。48ページありますが、イラストを多くしてあるので、読みやすいはずです。
 「お・う・ち・え」というタイトルは、シニアの皆さんに意識していただきたい四つの心がけの頭文字をつなぎあわせたものでもあります。それぞれ、「おいしく食べて健康に」「うちですごす時間を豊かに」「ちいきで近くで支えあい」「えがおでゆとりの心待ち」で、項目別に生活の工夫などを紹介しています。

「おうちえ」表紙(横長)
東大高齢社会総合研究機構がつくったパンフレット「おうちえ」の表紙

Q:「お・う・ち・え」の心がけの内容は、それぞれどのようなものですか?

 「おいしく食べて健康に」はからだ編です。不規則な生活を避けて体内時計を大事にする生活習慣や、筋力を維持し免疫力を高める食事の工夫、自宅でできる簡単なトレーニングなどを紹介しています。頭の体操になるようなテストもあります。
 「うちですごす時間を豊かに」はくらし編。家族に新型コロナウイルスの感染者が出て自宅待機となった場合、隔離部屋に適した条件は玄関やトイレに近い、窓がついている場所であることなどをアドバイスしています。
 きずな編の「ちいきで近くで支え合い」では、地域や趣味などのコミュニティー活動が中止されても、手紙やコミュニケーションツールでつながりを継続することを訴えています。
 「えがおでゆとりの心待ち」では、その日にあったちょっといいことを日記に書くなど、心の健康を保つための工夫を紹介しています。

家で誰とも話さずに過ごしていると……

Q:なぜ、パンフレットをつくろうと考えたのですか?

 新型コロナウイルスの問題が起こると、多くのシニアは感染予防を意識して早くから外出を自粛していました。しかし、家で誰とも話さずに過ごしたり、食事を抜いたりする生活を続ければ、感染予防ができたとしても別の健康リスクが出てしまう。医学や看護学、心理学など学際的な学問体系で高齢社会の課題解決を目指す私たちは、危機感を覚えました。高齢者は2週間の寝たきり生活で7年分の筋肉量を失うこともわかっていて、外出自粛は大きな悪影響を与える可能性があると感じています。

東大高齢社会研究機構の飯島勝矢さん
東大高齢社会総合研究機構機構長で未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢さん

Q:どのような健康リスクが出るのですか?

 要介護の一歩手前の状態「フレイル」に進むリスクがあります。
 外出が減ると歩く量が少なくなりますし、骨を強くするビタミンDを活性化する日光にあたる機会も減る。食生活が単調になって栄養が偏ったり、運動不足から食欲が減退して、適切な栄養がとれないようになったりすることもあります。
 趣味や地域での集まりも回数が減るので、社会とのつながりも薄くなる。そうして人と話す機会が減れば、かんだり、のみ込んだりといった口の機能が衰えるオーラルフレイルにつながります。栄養をとりにくくなって全身の筋肉が衰えますし、うまくしゃべれなくなれば人と会うのがおっくうになるので、ますますフレイルが進むのです。認知機能に影響するケースもあり、こうしたドミノ倒しが起こるのを私たちは懸念しています。

老いの坂道
出典:東京大学高齢社会総合研究機構・飯島研究室のサイト「フレイルを知ろう」

「いつの間にか歩けなくなっていた」をなくしたい

Q:予防のためにできることはどんなことですか?

 「栄養・運動・社会参加」の三つの柱が大切です。
 とくに栄養面ではたんぱく質を意識してほしいと思います。1日の摂取量の目安は体重1キロにつき1グラム、できれば1.2~1.5グラムなので、体重60キロの人なら60~90グラムです。ところが、200グラムのステーキでとれるたんぱく質は35~40グラム程度。シニアは筋肉がつきにくいこともあり、多めにとるくらいでちょうどいいのです。口の筋肉を落とさないように、歯ごたえのあるものをとったり、歯磨きで口を清潔に保ったりすることも大事です。
 運動はストレス発散や脳の活性化にも効果的です。シニアの方は転倒リスクが怖いので、バランス感覚を鍛えましょう。パンフレットでは家の中でも簡単にできるトレーニングを紹介していますし、動画共有サイトなどには、自宅でできる運動を専門家が教える動画もアップされています。自分に合ったものを無理のない範囲で続けてほしいと思います。
 社会参加については、活動しにくい状況が今後も続くでしょうから、ご家族や周囲の方が声がけをしましょう。近くに住んでいるなら買い物などのついでに様子を見に行く「元気?今何やってるの?」と電話やメールをすればよいと思います。すなわち「人とのつながり」ですね。

フレイル予防3本柱
出典:東京大学高齢社会総合研究機構の飯島研究室「フレイルを知ろう」

Q:パンフレットをどのように活用してほしいですか? 

 参考文献やWEBの検索ワードなども示しているので、より詳しい情報にふれやすくなっています。文字が大きく、イラストが多いのでポスターとしても使えます。
 新型コロナウイルスの影響がすぐに収束するということはなさそうです。重症化リスクの高いシニアの皆さんにとって、感染予防はもちろん大事です。しかし、過剰な自粛生活を送れば、「いつの間にか歩けなくなっていた」ということが起きかねません。これでは元も子もない。新型コロナが落ち着いた後も、以前と同じ生活が送れるように、このパンフレットが、現在の生活を見直すきっかけになればと考えています。

  • 飯島勝矢
  • 飯島 勝矢(いいじま・かつや)

    東京大学高齢社会総合研究機構 機構長・未来ビジョン研究センター教授

    1990年、東京慈恵会医科大学卒業。専門は老年医学、老年学。特に、健康長寿実現に向けた超高齢社会のまちづくり、地域包括ケアシステム構築、フレイル予防研究などを進める。内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員、厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」構成員などを務める。

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