<連載> 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

人生で何より大切にされるべきもの それは、家族との時間

人材コンサルタント・田中和彦

2020.07.31

 クリント・イーストウッドと聞けば、どんな作品を思い浮かべますか?
 1960年代は「荒野の用心棒」や「夕陽のガンマン」(マカロニウエスタンと呼ばれるシリーズですね)、70年代は「ダーティーハリー」シリーズが大ヒット。その後は監督業にも進出し、「許されざる者」、「ミリオンダラー・ベイビー」の2作品は、アカデミー賞の作品賞と監督賞をダブル受賞しています。世界的に社会現象となった「マディソン郡の橋」は、日本でも23億円の配給収入を上げました。現在90歳にして、今もなお俳優兼監督を務めるバリバリの現役です。
 特に70歳から今に至る20年間は、ほぼ1年に1本のペースで作品を世に出しており、今も衰えを全く感じさせません。おそるべき90歳と言ってもいいでしょう。

 そんなクリント・イーストウッドの直近の主演&監督作が「運び屋」です。
 かつて園芸家として成功を収めた主人公が、現在では経済的に行き詰まり、知り合いから声を掛けられ興味本位で始めた仕事が、実は後から分かったのですが、麻薬の運び屋でした。家庭を全く顧みず、妻からも娘からも見捨てられてしまった主人公が、物語の途中で、こうつぶやくシーンがあります。「俺みたいになるんじゃないぞ。家族との時間というもっとも大事なものをないがしろにして、俺は仕事を優先した」「お金はあるのに、時間だけは買えなかった」と。

 人生の終わりに近づけば近づくほど、自分にとって何より大事なものは家族だということに気付く人は少なくありません。財産も名声も墓場までは連れていけないからです。
 福永武彦さんの小説「草の花」の中に、こういう一節があります。
 「一人の人間は、彼が灰となりちりに帰ってしまった後においても、誰かが彼の動作、彼の話しぶり、彼の癖、彼の感じかた、彼の考え、そのようなものを明らかに覚えている限り、なお生きている。そして彼を知る人々が1人ずつ死んで行くにつれて、彼の生きる幽明界は次第に狭くなり、最後の1人が死ぬと共に、彼は二度目の、決定的な死を死ぬ」
 1回目が肉体的な死だとするなら、2回目は忘却による死。つまり、人間は物理的な死を迎えても、生き残っている人たちの記憶の中ではまだ生き続けているということです。

 自分のことを誰より鮮明に覚えてくれている存在は、やはり家族をおいて他にはないと思われます。そんな家族たちの記憶の中の自分が、忌み嫌われているとしたら、これほど不幸なことはありません。
 もし何かしらの理由で、家族(配偶者や親兄弟や子供ら)と関係がこじれてしまい、疎遠になっているなら、あなたが「残された時間」の中で最も優先すべきことは、家族との関係修復なのかもしれません。そのためには余計な意地やプライドを捨て、素直に「ごめんなさい」と謝ること。そのひと言で確執などは一瞬にして解けるはずです。

 映画「運び屋」の中で主人公の娘役は、実の娘アリソン・イーストウッドが演じています。うがった見方かもしれませんが、クリント・イーストウッドは、この映画の制作を通して、父と娘との本音レベルでの会話がしたかったのかもしれません。父親として娘の相手をできなかった過去の贖罪(しょくざい)の気持ちを伝えるために……。私には、主人公のセリフがクリント・イーストウッド本人の言葉に聞こえて仕方ありませんでした。

映画「運び屋」劇中写真
映画「運び屋」に出演したクリント・イーストウッド(右)と、アリソン・イーストウッド父娘 ©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Bron Creative, and Imperative Entertainment, LLC. All rights reserved.

今回登場した映画について

  • 映画「運び屋」
    (C) 2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Bron Creative, and Imperative Entertainment, LLC. All rights reserved.
  • 「運び屋」(2018年、アメリカ)
    ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

    ブルーレイ ¥2,381+税 / DVD ¥1,429 +税
    デジタル配信中

    (C) 2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Bron Creative, and Imperative Entertainment, LLC. All rights reserved.

  • 田中和彦
  • 田中 和彦(たなか・かずひこ)

    人材コンサルタント/プロデューサー/(株)プラネットファイブ代表取締役

    1958年、大分県生まれ。一橋大社会学部卒業後、リクルートに入社。「週刊ビーイング」「就職ジャーナル」など4情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社ギャガで映画プロデューサー、キネマ旬報社・代表取締役を経て、現職。キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『「定年サバイバル時代」の働き方ルール』(朝日新聞出版社)、『50歳から男振りを上げる人』、『42歳からのルール』(明日香出版社)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

  • この連載について / 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

    映画はこれまで、実に様々な人生を描いてきました。映画の数だけ、違った人生の形があるとも言えます。人生100年時代。第二の人生を、いかに充実したものにしていくか。そんな「残された時間の歩き方」のヒントを、古今東西の映画をお手本にしながら考え、お届けする連載です。

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