<連載> 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

自身の知識や経験を次世代に継承できる働き方

人材コンサルタント・田中和彦

2020.08.14

 多くの働き手は、55歳の役職定年を迎えるあたりでその後の会社人生を見据え、揺れ動きます。これから組織の中でどんな働き方を選択すればいいのだろうか。そんな悩みに直面するのです。
 いつまでも、現場の第一線で頑張り続けたいという人もいるでしょう。でも、普通ならだんだん、体力的にしんどくなってきます。自分が現場に居座れば、結果的に若い人たちの活躍の場を奪ってしまうことも考えられます。
 ならば、いっそのこと起業するか? しかし、従業員を抱えれば、今後長期にわたって彼らの雇用を守らねばならない責任が生じます。自分にそれが果たせるのかという懸念も、浮かんでくることでしょう。
 それならば引退? いやいや、退くには早すぎます。何しろ健康に長生きする最大の秘訣(ひけつ)は、「働き続けること」だと、医者も言っているのですから。

 そんな悩みに対するヒントが、映画「マイ・インターン」の中にありました。
 妻を亡くして独り身になった70歳のベン(ロバート・デ・ニーロ)が、ファッション通販会社の若き女性オーナー、ジュールズ(アン・ハサウェイ)を助け、次々と訪れる試練を共に乗り越えてゆく物語です。

映画「マイ・インターン」より
映画の中でベンを演じるロバート・デ・ニーロ © 2015 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 社会貢献を担うシニア・インターン(「ベテラン見習い」とでも訳せばいいのでしょうか)として高齢者雇用されたベンですが、当初は邪魔者扱いされてしまいます。でも、徐々に自分の居場所を見つけ、ジュールズや周囲から必要とされていくプロセスは痛快そのものでした。
 この映画の何がヒントなのか。それはベンが、自分の持っている知識やスキル、ノウハウなど年長者ならではの知見を、若い世代に引き継いでゆく働き方が描かれている点なのです。

映画「マイ・インターン」より
若き経営者ジュールズを演じたアン・ハサウェイ(右) © 2015 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 私の尊敬する先輩Tさん(62)も、そんな働き方を選択した一人でした。
 彼は人事部門の責任者として、40人だった不動産会社を1600人の規模にまで拡大。株式公開にもつなげ、40代で執行役員を任されました。
 順風満帆なビジネス人生でしたが、リーマンショックによる業績悪化・経営危機に襲われると、なんとTさんは事業再生委員会の当事者となってしまいます。その後は人員削減などに取り組み、無事に会社の再建につなげたTさんでしたが、社員に退職を促しておいて自分だけ会社に残るわけにはいかないと、転身を決断します。
 一つの企業を急成長させた一方で、リストラにも取り組んだ自らの経験を、次世代の経営者のサポートのために使いたい。そう考えたのでした。「マイ・インターン」のベンと同じように。

 転職活動では、いくつかの会社からオファーを受けました。中には、短期間で上場を果たし、飛ぶ鳥を落とす勢いのベンチャー企業も含まれていました。Tさんは迷いました。そこで、信頼のおける知人に相談したら、こんなアドバイスをもらったのだそうです。「社長がどんな家に住み、どんな車に乗り、どんな時計をしているかを調べましたか?」と。
 改めて調べるまでもなく、起業家ブームの渦中で時代の寵児(ちょうじ)の1人だった社長の家と車のことは、すぐにわかりました。結局、Tさんは好待遇の条件にもかかわらず、その会社に丁重な断りを入れることになります。
 その後、Tさんがサポートすることにした企業の社長は、服はユニクロで、通勤は自転車という人物でした。高級外車になど、乗ろうともしません。決め手となったのは、金もうけ主義とは無縁の素晴らしい理念に共感できたからでした。

 自分の持っている知識・スキル・経験を惜しみなく渡そうとする相手が、自分と同じ価値観の持ち主であるかどうか。それは、自分らしい生き方を貫く上でとても重要な要素でしょう。たとえどんなに高額の報酬を提示されたとしても、絶対に譲ることはできない。それは、自分に残された貴重な時間を、相手に差し出すに等しいことなのですから。

今回登場した映画について

  • 映画「マイ・インターン」DVDジャケットイメージ
  • 「マイ・インターン」(2015年 アメリカ)
    ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

    ブルーレイ ¥2,381+税 / DVD ¥1,429 +税
    デジタル配信中

    ©2015 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

  • 田中和彦
  • 田中 和彦(たなか・かずひこ)

    人材コンサルタント/プロデューサー/(株)プラネットファイブ代表取締役

    1958年、大分県生まれ。一橋大社会学部卒業後、リクルートに入社。「週刊ビーイング」「就職ジャーナル」など4情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社ギャガで映画プロデューサー、キネマ旬報社・代表取締役を経て、現職。キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『「定年サバイバル時代」の働き方ルール』(朝日新聞出版社)、『50歳から男振りを上げる人』、『42歳からのルール』(明日香出版社)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

  • この連載について / 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

    映画はこれまで、実に様々な人生を描いてきました。映画の数だけ、違った人生の形があるとも言えます。人生100年時代。第二の人生を、いかに充実したものにしていくか。そんな「残された時間の歩き方」のヒントを、古今東西の映画をお手本にしながら考え、お届けする連載です。

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