<連載> 残された時間の歩き方

残される人のために 残さないことを今から考える

生前整理や老前整理の勧め

2020.09.18

 あなたの大切なものは、家族にとっても大切なものでしょうか? そうとは限りませんよね。全く価値を認めてもらえない場合すらあります。そして皮肉なことに、その事実に気付かされるのは、あなたが「残された時」だったりします。人材コンサルタントの田中和彦さんと考える「残された時間の歩き方」。今回は、あなたに「残される人」のために、やっかいごとを残さないよう、あなたに残された時を使う意義について考えます。

 連載テーマは「残された時間の歩き方」ですが、今回は「残された人」や「残されたもの」について、考えてみたいと思います。
 私の父は12年前、79歳で亡くなりました。父の遺品は、七回忌を終えたタイミングで整理したのですが、これが結構な作業でした。私の実家は田舎なので敷地が広く、母屋の隣に倉庫代わりの別棟がありました。そこに、父のものが山のように仕舞われていたのです。
 まず驚かされたのは、大きな火鉢が10個もあったこと。他に釣りざおが20本、老眼鏡は30個も出てきました。それほどの数のモノを一体いつ、どう使い分けていたのでしょうか。

 当然ながら、80歳を超えた母には、父の遺品整理などできるはずもありません。父の残したゴミ(?)の山を、ただぼうぜんと眺めていたとのことです。
 大半のものは、近くに住む姉が整理してくれたのですが、彼女の肉体的、精神的な疲れは、想像に難くありません。最初は、処分するかどうか一つひとつ確認していたのだそうですが、途中できりがないとあきらめ、一気に廃棄処分を決めたとのことでした。

 「生前整理」なる言葉があります。生きている間に、自分自身の身の回りの整理をしておこうというものです。父のように、残された母や子供たちに遺品整理で迷惑をかけないためにも、必要な考え方でしょう。
 最近は、「老前整理」という言葉も語られ始めました。老いて気力も体力もなくなってくると、いざ整理しようにも体が動きませんし、どう処分すべきかの判断力も鈍ってきます。ならば、50~60代の元気なうちに、できるだけ身軽になっておこうというものです。
 早くから手当をしておかないと、財産のある方なら、相続で争いごとを生む種になります。これからは少子化で、一体誰が一族の墓を守ってゆくのかという問題も出てきます。こうしたことは「老前」にこそ、考えておきたいテーマだといえます。

シニア夫婦 片付けイメージ

 もしも今、自分がこの世から消えてしまったら……。最悪の事態を想定し、残された家族らに「残されるもの」を最小限にするのです。今のうちに何を整理しておくべきなのか、考えておくことをお勧めします。
 いざ考えると、自分にとっては大切なものであっても、残された人にとっては、大半が何の価値もないものだということに気づきます。もちろん、それらを今すぐ処分することはありません。本当に「残すべきもの」と、「処分してよいもの」とを明確に分けておく。つまり、整理しておくだけでもよいのです。残された人は、何も考えずに処分だけすればいいのですから。本当に大変なのは処分ではなく、整理の方なのです。

 極論すれば、残された人に残すべきものなど、何もないのかもしれません。ただ、思い出が絡むようなものは、判断に困ります。
 父は、旅行とカメラを趣味にしていたので、アルバムが60冊ほども残されました。そのアルバムも、表紙に刺繡(ししゅう)などが施されたような、大きく、厚くて重く、かさばるタイプのものでした。大きめの段ボール箱につめたら、9箱も必要でした。
 家族の思い出が詰まったアルバムは、さすがに簡単には処分できません。父と母が長年かけて記録してきたもので、そこには兄や姉と私の、さらにはそれぞれの家族の記録も含まれています。

 結局どうしたかというと、専門の業者にお願いして全てをスキャニング、アルバムのページ全体と個々の写真とを、デジタルデータ化してもらいました。それなりの金額はかかりましたが、やるなら今のうちだと思ったのです。
 業者から、段ボール9箱と共に戻って来たのは、コンビニで買えば1個千円もしない、容量32GB(ギガバイト)のUSBメモリーが三つ。アルバム60冊分の写真データがそれらに全て入ってしまうのです。私は、兄や姉の家族にもコピーして渡しました。
 アルバム自体はまだ処分していません。いずれ、しかるべきタイミングで、廃棄する時はくるでしょう。孫たちの代には、USBメモリーのデータさえ残せば済むのですから。

  • 田中和彦
  • 田中 和彦(たなか・かずひこ)

    人材コンサルタント/プロデューサー/(株)プラネットファイブ代表取締役

    1958年、大分県生まれ。一橋大社会学部卒業後、リクルートに入社。「週刊ビーイング」「就職ジャーナル」など4情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社ギャガで映画プロデューサー、キネマ旬報社・代表取締役を経て、現職。キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『「定年サバイバル時代」の働き方ルール』(朝日新聞出版社)、『50歳から男振りを上げる人』、『42歳からのルール』(明日香出版社)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

  • この連載について / 残された時間の歩き方

     流れ続ける時の中で、漫然と過ごした週末は、振り返っても記憶にとどまってくれません。忘れ去られた時は、無かったも同じ。なんとなくやり過ごすのではなく、いかに有意義で濃密な記憶で、今後の人生を彩るべきか。そんな「残された時間の歩き方」のヒントを、様々な切り口からお届けします。

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