<連載> 今日から始める“ 腸” 寿生活Q&A

そもそも腸活って、なにを目指すの? どうなれば成功?

消化器病専門医・松井輝明さんに聞く「腸活・大腸ケア」(5)大腸劣化と向き合う

2020.09.14

 腸にやさしい。大腸を活発に――。食事の工夫から運動やマッサージまで、様々な「腸活」がブームです。しかし、腸活って、そもそも何が目標なのでしょう。どうなれば成功といえるのか。消化器病専門医で帝京平成大学教授の松井輝明さんに聞きました。

食事イメージ

大腸本来の機能を取り戻そう

――「腸活という言葉はよく耳にしますが、どんなことが腸活なのかよくわかりません」(50代前半・女性)、「どのようなことが腸活にあたるのか。どうなったら成功といえる?」(50代後半・女性)。そんな質問が寄せられています。

 ひと言でいえば、本来大腸が持っている機能を発揮できるようにする。あるいは、いまの状態が本調子でないならば、本来の機能を取り戻す。そのための活動ということでしょう。

 たとえば便秘をしない、おならや便がくさくない、おなかが張ってしまわない、といったことです。そのためには、あるべき腸内環境を整えることが必要で、それが結果として、全身の健康状態の向上や、体質の改善にもつながります。

――望ましい腸内環境とはどんなものですか。

 腸内細菌の多様性が維持され、勢力バランスが崩れていないことが大切です。

 もともと大腸には、ビフィズス菌のように「善玉菌(有用菌)」といわれるものから、腐敗菌のウェルシュ菌のような「悪玉菌」まで、様々な細菌が生息しています。具体的な菌種は一人ひとりで異なりますが、ひとりのおなかのなかに、約1千種、数十兆~100兆個の細菌がいるといわれています。

 お花畑(フローラ)をもじって「腸内フローラ(腸内細菌叢)」と呼ばれるこの細菌群、かつては善玉菌と悪玉菌と、どちらにも分類されない日和見菌で、「2:1:7」のバランスがよいなどといわれていました。

 しかし、最近は、極端なバランスの崩れがなければ、悪玉菌も含め、より多くの細菌がいるほうが望ましいといわれています。研究が進むにつれ、悪玉菌とされた菌が役に立つ場合があったり、善玉菌と思われた菌が身体に良いの? と疑問視されたり、病気のひとの腸内フローラが、健康な人に比べ菌種が少ないと指摘されたりしているためです。腸内細菌も「ダイバーシティー(多様性)」が大切、というわけです。

「短鎖脂肪酸」の多面的な働き

 もうひとつ、注目を集めているのは、一部の菌が出す「短鎖脂肪酸」という物質です。酢酸、酪酸、プロピオン酸などの総称で、細菌が食物繊維を発酵させる過程で産出します。たとえばビフィズス菌は、酢酸を作り出します。

――それがなぜ、注目されるのですか。

 この物質が、体内で、様々な働きをすることがわかってきたためです。たとえば大腸が蠕動(ぜんどう)運動をするときのエネルギー源になります。大腸の動きが活発になり、便秘を予防したり、腸管が水分やミネラルを吸収する働きを高めたりします。

 大腸の免疫力を高め、病原菌からからだを守る働きもしています。大腸の腸管はムチンという粘液で保護されていて、病原菌や毒素の侵入を防いでいますが、短鎖脂肪酸はこの粘液をつくるのにかかわっています。

 また、食べすぎや運動不足で余ったエネルギー(カロリー)が脂肪細胞に蓄積されるのを抑える働きもしていました。肥満を防ぎ、糖尿病など生活習慣病の予防につながるとみられています。

――しかし、たとえば酢酸ってお酢ですよね。飲めばいいのでは?

 お酢を飲んだら、大部分は、胃酸や胆汁・消化酵素の影響で酢酸の形では吸収しません。腸内細菌が食物繊維を発酵させ、酢酸など短鎖脂肪酸をつくり、その形のまま吸収されて全身に運ばれるので意味があるのです。人間と細菌との絶妙な共存関係です。

「大腸劣化」を食い止める

ビフィズス菌グラフ

――大腸の役割は、食べ物ののこりかすから水分を取り除くだけ、と思っていました。

 短鎖脂肪酸にしろ、腸内フローラにしろ、その役割、大腸が果たしている機能が詳しくわかってきたのは、この10年ほどのことです。それこそ日進月歩で新しい腸内細菌の検査法の発見がつづいていて、大腸の果たす役割は再認識されてきています。それが近年の腸活ブームにもつながっています。

 一方で、日本人の大腸は劣化が進んでいるのではないかと心配しています。たとえば善玉菌のビフィズス菌は、年をとると腸内で減少していくことが知られています。高齢化が進めば、日本人全体でみた場合、その腸内環境はおのずと悪化することになる。

 さらに食の欧米化などが進んだことで、肉食が多くなり、穀物からの食物繊維の摂取が少なくなっています。腸内環境を整えるには、こうしたことを念頭におきながら、なにをどう食べたらいいのか、考えていくことが大切です。

 Reライフ読者会議メンバーから募集した「腸活・大腸ケア」や「便通」に関する疑問に、消化器病専門医の松井輝明さんが答えます。次回は「腸活に効く食べ物、食べ方とは? 食物繊維の上手な取り方は?」を取り上げます。

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  • 松井輝明
  • 松井 輝明(まつい・てるあき)

    帝京平成大学教授・医学博士

    日本大学医学部卒業。医学博士。日本大学板橋病院消化器外来医長、日本大学医学部准教授を経て現在、帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 健康科学研究科 健康栄養学専攻長 教授。日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、消化器一般、機能性食品の臨床応用を専門に研究。著書に「大腸活のすすめ~腸は自分で変えられる」(朝日新聞出版)など。

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