<連載> 大腸最前線

「長寿の島々」百寿者の腸内フローラが示す長寿の秘密

平均年齢98.3歳、奄美群島・44人の腸内細菌から見えた三つの特徴

2020.09.25

 鹿児島・奄美群島は、100歳以上のセンテナリアン(百寿者)が多く暮らす「長寿の島々」として知られています。その長寿の秘密は、どこにあるのでしょうか。日々の暮らしや食生活とも深くかかわる腸内環境を調べることで、その秘密を探る試みが進んでいます。意外な特徴もみえてきました。

奄美大島

 「長寿の島々」として名高い奄美群島は、日本の歴代最高齢者に泉重千代さんや本郷かまとさん、田島ナビさんらが名を連ね、センテナリアン(百寿者)の割合はいま、人口比で全国平均の2.6倍になる。

 それぞれの島や地域に根ざしたシマ唄にシマ踊り、戦後復興のなかで広がった黒糖焼酎、土地や海の産物を生かした多彩な発酵食・・・。薩摩(鹿児島)とも琉球(沖縄)とも異なる独自の文化や食生活のなかで育まれた、その長寿の秘密を、島に暮らす人々の腸内環境から解き明かせないか。そんな研究が岡山大学の森田英利教授らの手で始まったのは、2017年のことだ。

ビフィズス菌、全国長寿者の平均値より多く

 地域医療をになう徳洲会グループの各病院などと共同で、奄美大島、徳之島、喜界島に暮らす長寿者の協力を得た。95歳から108歳まで、平均年齢98.3歳の計44人から自然排泄(はいせつ)後の糞便(ふんべん)の提供をうけ、腸内フローラ(腸内細菌叢)を分析した。

 長寿の島の百寿者の腸内フローラは、日本の平均的な長寿者と比べ、どんな違いをもっているのか。日本全体を対象とした長寿者の腸内細菌データと比較してみると、それぞれ異なる特徴をもつ三つの細菌群が多いことがわかった。

 ひとつは、ビフィズス菌として知られる「ビフィドバクテリウム属」の細菌だ。

 便通をよくする整腸作用などが知られ、離乳期前の赤ちゃんの場合、腸内細菌の9割以上がビフィズス菌で占められている。日本人にとっては、成人後も大腸にすむ善玉菌(有用菌)の代表格だが、一般的に高齢期になると徐々にその数が減り、大腸の老化が進んでしまう。

 しかし、奄美の長寿者の腸内では、その落ち込みが日本の平均的な長寿者よりも少なかった。とくに百寿者(100~108歳)の腸内フローラには平均すると全体の約3%のビフィズス菌がいて、その比率は日本全体の高齢者(70~89歳)や長寿者(90~105歳)の2~4倍ほどに達していた。

アスリートに多い細菌、日本人には珍しい古細菌も

 二つ目は「アッカーマンシア属」の細菌で、国際大会に出場したりプロとして活躍したりするアスリートの大腸で多くみられる。激しい運動で筋肉や内臓がダメージをうけても、すばやく回復できる抗炎症作用があるとされる。「イタリアの長寿研究でも、長寿者に多い菌としてあげられていたことのある菌です」と森田教授。「その一方で、健康なひとと比べると、たとえば糖尿病やメタボリック症候群の人の腸内では、この細菌が非常に少ないともいわれています」

 そして三つ目は「メタノブレビバクター属」の古細菌(アーキア)だ。肥満抑制の作用があるとされ、欧米人ではよく見かける微生物だが、日本人の腸内からは検出限界以下で、ほとんどみつかっていなかった。「世界の人々の腸内フローラを大きく三つのタイプに分けた分類では、欧米人タイプに多くいる微生物とされ、逆に日本人のタイプでは、ほとんどみかけない。古細菌が日本人の腸内フローラにいるとは考えていなかったですね」と森田教授は振り返る。

奄美・百寿者の腸内フローラ

 日本人ならではのビフィズス菌と、日本人には縁遠いとみられていた古細菌と、高齢者というよりもアスリートに多いとされている細菌と。一見したところ、まるで脈絡のないように思える三つの微生物だが、森田教授は「長寿のため、よい腸内フローラという観点からすると、どれも理にかなっている」という。

炎症や肥満の抑制作用 老化を防ぐ共通項か

 表面的な違いとはうらはらに、三つの菌には、じつは大きな共通点がある。いずれの菌も体の炎症や肥満を抑える作用をあわせもち、老化防止に寄与しそうなことが近年の研究でわかってきた。たとえばビフィズス菌とアッカーマンシア属の細菌は、酢酸や酪酸などの「短鎖脂肪酸」を産生する点が共通し、余分なエネルギー(カロリー)の脂肪細胞への蓄積を抑制する働きがある。

 日本人では検出されることがまれなメタノブレビバクター属の古細菌も、腸内フローラを分析するDNAシーケンサーの計測限界だったと考えれば、不思議ではないという。普通は、ほんのわずかしか生息していなくても、奄美特有の食文化のなかに、この古細菌が好物とする食材があれば、腸内での居場所を広げることができるからだ。

 「万事くよくよしないがよい」「腹八分めか七分がよい」「自分の足で散歩にでよう」・・・。かつて泉重千代さんは「長寿十訓」にこんな教えをしたためた。「こうした先人の教えに通じるメカニズムが、自然の摂理として奄美の人の腸内フローラには組み込まれていた。そう言えるのかもしれません」と森田教授。

 これまで経験則として伝承されてきた先人の知恵はいま、科学技術の進歩とともに、具体的な証拠、「エビデンス」付きの物語として描きだされるようになってきた。奄美群島の長寿研究は、そんな物語の1ページでもある。

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    • 森田英利
    • 森田 英利(もりた・ひでとし)

      岡山大学大学院教授

      1991年岡山大大学院自然科学研究科博士課程修了。米国ミネソタ州立大 Food Science and Nutrition学部博士研究員、麻布大獣医学部教授を経て、2015年より岡山大大学院環境生命科学研究科教授。

    • この連載について / 大腸最前線

      大腸にすむ腸内細菌は、検査法の飛躍的な進歩などにより、私たちの健康増進に役立つさまざまな働きが明らかになってきました。腸内細菌を活用した最新の治療例や、医療現場の動向などを、分かりやすくご紹介します。

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