<連載> 大腸最前線

「腹八分目」を実現させる「良い腸内フローラ」のメカニズム

長寿島の百寿者調査 岡山大・森田英利教授に聞く(上)

2020.10.02

 「長寿の島々」奄美群島の百寿者の腸内環境を分析し、その長寿の秘密を解き明かす。岡山大学の森田英利教授らの研究で、奄美の長寿者がもつ独特な腸内フローラの様子がわかってきました(参照記事へ)。日本の平均値との違いが、なぜ長寿に結びつくのか。分析にあたった森田さんに聞きました。

奄美・徳之島

特筆すべきビフィズス菌の減りの少なさ

―― 奄美群島の長寿者の腸内フローラを分析し、新たに気づいたこと、再確認した点はなんですか。

 ひとつは、やはりビフィズス菌が多いんだということですね。日本人の良い腸内フローラを特徴づけるのはビフィズス菌ですが、腸内フローラの年齢による変化をまとめた光岡知足先生の論文にあるように、高齢者になると一般的にはビフィズス菌は減っていきます。それが奄美の長寿者の場合、全国の長寿者の平均と比べても、減り方が少なかった。特筆すべきことだと思います。

―― 長寿とのかかわりで考えたとき、ビフィズス菌の効果をどうみたらいいでしょうか。

 まずは整腸効果でしょうか。つまり便通が良くなる。排便量を多くしたり、排便回数を増やしたりしてくれるわけです。年をとると、だれもが便秘がちになります。非常に苦しいとなると、毎日、浣腸(かんちょう)するようにもなるそうです。それ自体がストレスだと思います。齢を重ねても腸内にビフィズス菌が多く残れば、こうした便秘体質への変化を抑える効果が期待できます。

 ビフィズス菌の整腸効果というと、研究者の間でも一般の人の間でも、よく知られ過ぎていて「古い」とみなされがちです。しかし、古いというのは、逆にいえば昔から肯定されてきた、良いことなんです。きちんと重視すべきポイントだと思います。

ビフィズス菌の変化

短鎖脂肪酸が、脂肪細胞にふたをする

―― 近年の研究では、ビフィズス菌が、大腸のなかで短鎖脂肪酸を作り出すことに注目が集まっています。奄美の長寿者の腸内フローラに多くいたアッカーマンシア属の菌も短鎖脂肪酸を作り出すという共通点があります。

 つまり、大腸に届いた食物繊維をエサにして、ビフィズス菌は酢酸を、アッカーマンシアは酪酸をつくります。どちらも短鎖脂肪酸の一種です。この短鎖脂肪酸には、体内に吸収された脂肪の蓄積を抑制する作用があるといわれています。

 体内に取り込まれたけれど、余ってしまったエネルギー(カロリー)が、脂肪細胞に吸収・蓄積されるのを防ぐ仕組みといえるでしょうか。模式的にいうと、脂肪細胞には、血管内を流れる脂肪を吸収するための穴(通り道)が開いているわけですが、そこに短鎖脂肪酸がふたをしてしまう。ふたをされると、血中の脂肪が入っていけない。肥満を防止してくれるというわけです。

――「腹八分目に医者いらず」ともいいますが、それを体が実践している感じでしょうか。

 先人の知恵というか、昔の人はうまいこと、言い得ていますよね。意識的に食事をとる量を減らせば、体に良いんだと。ただ、食べてしまった後に、食べすぎたと後悔しても遅いですよね。そういうときに、脂肪吸収抑制とかエネルギー吸収抑制を体の中で腸内フローラがしてくれれば、それはありがたいし、実際、自然の摂理というか、そういう仕掛けが長寿者の腸内フローラにはあるわけです。

大腸でつくるから特別な価値がある

 「良い腸内フローラ」とか、腸内フローラが「良い効果がある」というとき、その「良い」とはなにか。ひとつは、やはり、過剰なエネルギーの吸収を抑えてくれることだといえるのではないか。年をとるとどんどん体重が減ってしまって、健康を害する場合があるという、老化による低体重の悪い側面も指摘されますが、年をとっても必要以上に太らないことの有用性を感じます。

―― 短鎖脂肪酸、たとえば酢酸が肥満を予防してくれるなら、お酢をたくさん飲もうかと思ってしまいます。口から飲んでも同様の効果は期待できますか。

 短鎖脂肪酸は、実はエネルギー源にもなる。消化管上部で吸収された短鎖脂肪酸の多くは、おそらくエネルギー源として使われています。つまり、体に吸収されてエネルギー源に代謝されてしまうのです。さきほど説明した短鎖脂肪酸の機能は、あくまで短鎖脂肪酸という物質のまま、血管内で機能した場合のことです。分解され、形がかわると、その短鎖脂肪酸としての機能はしないと思います。

 ですから肥満抑制の恩恵を受けるには、短鎖脂肪酸が消化管上部で吸収されないこと、つまり大腸で作られることに意味があります。ビフィズス菌とか、短鎖脂肪酸を作る菌にいっぱい大腸にすみついてもらい、そこに食物繊維を送り込んでやる。これが結果的に、長寿にむすびつく、"短鎖脂肪酸のデリバリーシステム"になるわけです。

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    • 森田英利
    • 森田 英利(もりた・ひでとし)

      岡山大学大学院教授

      1991年岡山大大学院自然科学研究科博士課程修了。米国ミネソタ州立大 Food Science and Nutrition学部博士研究員、麻布大獣医学部教授を経て、2015年より岡山大大学院環境生命科学研究科教授。

    • この連載について / 大腸最前線

      大腸にすむ腸内細菌は、検査法の飛躍的な進歩などにより、私たちの健康増進に役立つさまざまな働きが明らかになってきました。腸内細菌を活用した最新の治療例や、医療現場の動向などを、分かりやすくご紹介します。

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