<連載> 大腸最前線

奄美の長寿者はトップアスリート並み? 運動が腸内フローラを鍛える

長寿島の百寿者調査 岡山大・森田英利教授に聞く(下)

2020.10.09

 

腸内フローラから長寿の秘密を探る奄美の百寿者調査(参照記事へ)では、日本人にはきわめてまれな細菌や、トップアスリートに多くみかける細菌もみつかりました。意外におもえる細菌群の組み合わせは、どう読み解いたらいいのでしょうか。分析にあたった岡山大学の森田英利教授に聞きました。

奄美大島(瀬戸内町からの展望)

ラグビー選手に多い菌、奄美の長寿者にも

―― 奄美の長寿者の腸内フローラには、トップアスリートの腸内フローラでよくみかけるアッカーマンシア属の細菌(バクテリア)も多かったと聞きました。ちょっと意外な感じもします。アスリートの腸内フローラ研究を続けてきた視点から、どうご覧になりますか。

 アイルランドの論文によると、アッカーマンシア属はプロのラグビー選手の腸内フローラから特徴的に多くみつかったそうです。一方、糖尿病などメタボリック症候群の患者さんには、健康な人と比べ、この細菌がとても少ないという比較研究もあります。

 体の炎症を鎮める抗炎症作用があるとする論文もでています。激しくぶつかり合うラグビー選手は、傷んだ体を回復させる力が必要ですから、つじつまがあう。長寿と腸内細菌の関わりをまとめた初期の論文にも、アッカーマンシア属が多かったという指摘がありました。

―― 慢性的な炎症を抑えたり、体を素早く回復させたりできる。そう考えれば、長寿の方々の腸内フローラにいるのも、納得できます。

 アスリートにかぎらず、運動している人と運動していない人では、腸内フローラが違ってきます。腸内フローラを変える主要な要因は食事内容だとされていますが、私自身は、運動もかなり腸内フローラを変える要因になっていると思っています。

森田英利教授
岡山大学教授の森田英利さん (撮影)村上宗一郎

 どう変わっているかというと、やっぱり短鎖脂肪酸を作る細菌が増えるんです。運動すると明らかに増え、前にも指摘したように余計な脂肪吸収も抑えてくれる(インタビュー上を参照)。

 体にいいから運動しなさいというのは、昔からいわれていて、それが実際、知らず知らずの摂理として人間には備わっています。科学はいま、その仕組みを解明しようとし、エビデンスが得られてきている。それをうまく体づくりや体調管理の実践にまわせたらと思います。

日本人にはまれな菌、島の食生活が関連か

―― もうひとつ、奄美の長寿者の特徴としてあがったメタノブレビバクター属ですが、日本人にほとんど見られないのに、この長寿島で見つかった。どう考えたらいいのでしょうか?

 分からないですね。何でだろうと。ひとつ考えられるのは、どんな分析装置にも検出限界があり、今までみつからなかっただけで、普通の日本人の腸内にも検出限界以下のレベルではメタノブレビバクター属がいるのではないかということです。

 ゼロでなければ、食生活を変えれば出てくることもある。もともと腸内フローラの違いは、食生活の違いによるところが大きい。欧米人の食事と共通する部分が、何かあるのかなと思います。島の実際の食生活とのかかわりは、これからの興味深いテーマになります。

―― 大腸というのは排便のため水分を吸収するのが役割かと思っていたら、本当にこの10年余りで、その認識がガラッと変わったと思います。やはり、次世代シーケンサーで、DNAの断片からどのような腸内細菌がいるのかを網羅的にみることができる。その技術革新が質的変化を起こしたといえるのでしょうか。

 腸内フローラに関する研究は『ネイチャー』や『サイエンス』、『セル』などのハイインパクトジャーナル、いわゆる影響力のある科学誌にはなかなか載らないんだよと、以前、先輩の研究者から聞いたことがあります。つまり、投稿原稿の審査(レビュー)の際に、培養できない菌がいっぱいあるのに、培養できた菌だけで論じているところが審査のネックでした。

 それが次世代シーケンサーの登場で、ひとつひとつの菌を培養できなくても存在が分かるようになり、ある意味、サイエンスとしてクリアになった。するとハイインパクトのジャーナルに載る、そうすると優秀な研究者が集まってくるので、その分野の研究が飛躍的に進むということなんですね。

腸内の古細菌、次世代シーケンサーが発見

 じつは、さきほどのメタノブレビバクター属も、次世代シーケンサーで、腸内フローラの中に存在することがわかった古細菌です。

 古細菌というのは極限微生物の代表と理解されており、例えば99℃の熱水の中や圧力のかかった100℃以上の中でも生きている。一方で、高い嫌気性を要求するので、探そうと思わなければ、培養できない。従来のイメージでは古細菌がひとの腸内にいるとは思っていなかったのに、次世代シーケンサーで、メタノブレビバクター属のDNA配列がみつかり、実際に生菌が培養され、存在が確認された。発見されたときは、おおっ! いたんだ! と話題になりました。

―― ひとつの物語ですね。

 もうひとつ、腸内細菌の研究が飛躍した、分かりやすくなったのは無菌マウスを使えるようになったためです。それまでは、すでに菌がいる状態のマウスに、調べたい菌をいれていたので、どうしても上乗せというか、定着性への疑問が生じ、解析結果にもぶれがでる。

 しかし、無菌マウスだと、ヒトのうんち、つまり糞便(ふんべん)を飲ませると、"ヒト型腸内フローラ"を持ったマウスになります。無菌マウスに1菌株だけ口から投与すると、その1株だけの機能性や生体影響も調べられるわけです。

 次世代シーケンサーと無菌マウス、この二つが腸内フローラ研究を飛躍的に進歩させたと思います。

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    • 森田英利
    • 森田 英利(もりた・ひでとし)

      岡山大学大学院教授

      1991年岡山大大学院自然科学研究科博士課程修了。米国ミネソタ州立大 Food Science and Nutrition学部博士研究員、麻布大獣医学部教授を経て、2015年より岡山大大学院環境生命科学研究科教授。

    • この連載について / 大腸最前線

      大腸にすむ腸内細菌は、検査法の飛躍的な進歩などにより、私たちの健康増進に役立つさまざまな働きが明らかになってきました。腸内細菌を活用した最新の治療例や、医療現場の動向などを、分かりやすくご紹介します。

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