<連載> 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

若い頃より今が元気 「ハーブの愛さん」の再出発に学べ

映画「Re:LIFE ~リライフ~」を見て考える あえて過去の栄光を捨てる生き方

2020.10.23

 過去の華々しいキャリアをいったんは横に置き、ゼロから再出発する。なかなかできないことですが、そうするからこそ得られるものがあるのかもしれません。第二の人生をいきいき過ごすため、人材コンサルタントの田中和彦さんと、今回は「あえて過去の栄光を捨てる生き方」について考えてみましょう。

 この連載が掲載されているのは、ご存じ「Reライフ.net」ですが、同名の映画があるのをご存じですか? 今回ご紹介するのは「Re:LIFE ~リライフ~」というアメリカ映画です。

 主人公のキース・マイケルズ(ヒュー・グラント)は脚本家。ハリウッドのプロデューサーに企画を売り込むものの、誰にも相手にされません。実は、彼にはアカデミー脚本賞を受賞したという栄光の過去があったのです。でも、以来15年間はヒット作に恵まれず、周囲からは「一発屋」と見なされていました。生活苦の彼を見かねたエージェントが、救いの手を差し伸べます。勧められたのが、ビンガムトンという田舎町にある大学のシナリオ講師の職。キースは渋々引き受けたものの、着任しても全くやる気を見せません。しかし、学生たちの脚本にかける情熱を目の当たりにするうち、自身が失いかけていた熱い気持ちを取り戻していく、そんなストーリーです。

映画リライフ 劇中写真
主人公のキース・マイケルズを演じるヒュー・グラント ©2014 PROFESSOR PRODUCTIONS, LLC. ALL ROGHTS RESERVED

 人間にとって、過去の栄光を捨て去ることほど難しいものはありません。しかも、別の分野で再スタートすることなど、実績があればあるほどプライドが許さないものです。
 しかし、過去の華々しいキャリアをいったんは横に置き、ゼロからの再出発で成功する人もいます。その一人、小早川愛さん(49)の名を、ご存じの方もおられるのではないでしょうか。
 小早川さんは、二男二女の母親です。かつては夫の理解も得て、ワーキングマザーを続けていました。でも、さすがに子育てと仕事の両立に無理を感じるようになり、当面は子育てに専念しようと決心したのは40歳ちょうどの時でした。

 時は流れ、一番下の子が幼稚園に入ったのを機に、再び小早川さんは、外で仕事をしよう考えます。そして、今から5年前、地元のマザーズハローワークを訪れました。
 窓口の担当者に対して小早川さんは、熱く自己アピールに努めたそうです。
 新卒で入社した映画配給会社で、宣伝や劇場営業などを担当する一方、カンヌ映画祭にも乗り込んで外国映画の買い付け判断に関与し、数多くのヒット作品をものにした実績を紹介。女性誌に大きく取り上げられた過去記事なども持参して、30代前半には営業部長まで登りつめていた華麗な経歴も語りました。
 それを聞いて、担当者は言いにくそうに助言したそうです。
 「面接では、今の100分の1くらいの熱量に抑えてください。ご紹介できるのは、経理の伝票書きのパートですから。時給1000円の仕事で、年収1000万円を目指す面接ではありませんので」
 「育児の経験も、なにかしらプラスに見てもらえると思っていた」のに、いきなりすごろくで振り出しに戻されたような気分だったと、小早川さんは語ります。ただ、後で考えれば、「扱いづらい」と、先方が面接で引いてしまわないようにという、至極まっとうなアドバイスだったと分かったそうです。

 助言に従い、栄光の過去は封印して面接に臨んだ小早川さんは、首尾よく採用を勝ち取ります。
 新しい仕事先は、自宅から徒歩10分で通える場所にありました。スペアミント、ローズマリー、オレガノなどを生産する、ハーブ農場の管理部門の仕事です。
 経理業務も、ハーブも初めてでした。小早川さんは、教えられるままに業務をスタートしました。そして、伝票処理に慣れたころ、意識して隠していた爪がウズきだしたのです。電話で商談する営業マンのやりとりを聞き、横から割り込んで話をまとめたい衝動をぐっと抑える日々が続きました。
 しかし、神様は見逃しません。彼女が、偶然取った電話で顧客と対応するのを聞いた上司から「営業もやってみる?」と声がかかったのです。そこから、快進撃が始まりました。

 事務所を出て、得意先へも一人で行かせてもらえるようになると、みるみる受注数は増えました。新規顧客も次々と開拓。商品企画にも手を広げました。食用フレッシュハーブBOXを通販で売り、インテリアハーブを花屋や雑貨店に卸し、高級スーパーにハーブを使ったお総菜の共同開発を提案に行くなど、アイデアはとめどなくあふれ続け、形になっていきました。
 社長に新規事業の提案までするようになり、認められて役員研修にも参加しました。でも、待遇はパートのままです。とはいえ、時給は1000円から着実に積みあがっていきました。
 今回の新型コロナ禍で外食向けハーブのキャンセルが続き、会社の売り上げは一時、前年比マイナスになってしまいました。でも、巣ごもり需要から、ガーデニング用ハーブ苗の売り上げが前年比52倍になったことを知ると、その事実に「ハーブは免疫力を上げる」というメッセージを添え、テレビ局など100社以上にニュースレターを発送しました。その結果多くのメディアに取り上げられ、新商品はリピーターに支えられて定番化。ハーブレシピの電子本をリリースして話題のなると、この9月には「ハーブ料理コンシェルジュ」「ハーブの愛さん」として、人気テレビ番組「マツコの知らない世界」(TBS系)に出演するに至ったのです。

ハーブの愛さん
ハーブ料理コンシェルジュの小早川愛さん(本人提供)

 昼夜なくモーレツに働いていた20代。出産を4度経験したワーキングマザーとしての30代。そして、4人の子育てに追われた専業主婦時代の40代前半。小早川さんは、そうした過去の日々よりも、50代が見えてきた今が一番元気だと感じているそうです。小早川さんの話を聞いていると、若さやエネルギーというのは、年齢には関係なく、心の持ち方次第なのだと、改めて実感させられます。

今回登場した映画について

  • 映画「リライフ」ジャケ写
  • 「Re:LIFE ~リライフ~」(2014年 アメリカ)
    発売元:キノフィルムズ/木下グループ
    販売元:ハピネット・メディアマーケティング
    ©2014 PROFESSOR PRODUCTIONS, LLC. ALL ROGHTS RESERVED
    Blu-ray:4,800円+税
    DVD:3,900円+税

連載「映画に学ぶ『残された人生の歩き方』」では、取り上げた映画を鑑賞した読者会議メンバーのみなさんからの感想を募集しています。下記「感想を投稿する」ボタンから、指定の投稿フォームにアクセスして投稿してください。
※お寄せいただいた感想は「Reライフ.net」で紹介させていただくことがあります。その際にはお名前、都道府県、年代もあわせて記します。あらかじめご了承ください。

感想を投稿する
  • 田中和彦
  • 田中 和彦(たなか・かずひこ)

    人材コンサルタント/プロデューサー/(株)プラネットファイブ代表取締役

    1958年、大分県生まれ。一橋大社会学部卒業後、リクルートに入社。「週刊ビーイング」「就職ジャーナル」など4情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社ギャガで映画プロデューサー、キネマ旬報社・代表取締役を経て、現職。キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『「定年サバイバル時代」の働き方ルール』(朝日新聞出版社)、『50歳から男振りを上げる人』、『42歳からのルール』(明日香出版社)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

  • この連載について / 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

    映画はこれまで、実に様々な人生を描いてきました。映画の数だけ、違った人生の形があるとも言えます。人生100年時代。第二の人生を、いかに充実したものにしていくか。そんな「残された時間の歩き方」のヒントを、古今東西の映画をお手本にしながら考え、お届けする連載です。

関連記事

あわせて読みたい

おすすめ記事

PAGE TOP