<連載> 大腸最前線

お母さんのおなかの中にいるように、赤ちゃんをケアする

新生児ケアと腸内フローラ(2)新生児集中治療室の現場から

2020.11.02

 小さく生まれた赤ちゃん、とくに1500g未満で生まれた極低出生体重児が、誕生後の数週間をすごすのが新生児集中治療室(NICU)です。医師や看護師らスタッフは「お母さんのおなかの中にいるような」環境づくりに気をくばります。順天堂大学の小児科病棟のNICU看護師長、山口涼子さん、看護主任の岡本小百合さんに聞きました。

赤ちゃんにお母さんが寄り添う

暗くて静かな環境で ストレスを最小にする

―― 早く生まれた赤ちゃん(早産児)や、小さく生まれた赤ちゃん(低出生体重児)、外科的な治療が必要な赤ちゃんたちが、誕生後に入るNICUでは、とくにどんなところに気をつけているのですか。

岡本 赤ちゃんは、基本はお母さんのおなかのなかで40週を過ごします。その途中で生まれてきた早産のお子さんは、その分、40週までの間を自分で成長、発達していかなければいけません。ですので、赤ちゃんにとって、できるだけおなかの中に近い環境になるように気をつけています。

山口 暗くて、静かで、あたたかい。そんな、お母さんのおなかの中の環境に近づけるため、NICUの室内も、基本は、ほの暗くして、昼でも明るくはしません。できるだけ、赤ちゃんが静かに落ち着いて過ごせるように心がけます。

岡本 ある意味、私たちのケアですら、赤ちゃんにとってはストレスになります。一つひとつのケアが最小限で済むように、私たちの手技も、短時間で正確に終われるようにしています。たびたび保育器の中に手を入れるのではなく、計画的に赤ちゃんが必要としているときに看護をする。だいたい3時間おきにミルクをあげて、おむつを替えて、そのタイミングで全身の観察や体温や脈拍などバイタルチェックを一緒にさせてもらっています。

岡本小百合さん
看護主任の岡本小百合さん(撮影:篠田英美) 

山口 あとは重症度に応じて。たとえば点滴が入っていたり、人工呼吸器をつけていたりすれば、そのチェックを、できるだけまとめて、3時間ごとに看護のなかでしていきます。30分ですませて、あと2時間半は赤ちゃんが静かに丸くなってじっとしていられるようにするのです。

―― 静かな、ほの暗くしたNICUですが、夜、寝静まるというわけでもない。

岡本 そこが成人病棟とは大きくちがうところです。成人病棟には就寝時間があり、昼と夜ではスタッフの人数も変わってきますが、NICUでは3時間おきのケアが24時間続きますので、昼も夜も看護師の人数は一般病棟と比べるとそんなに変わらない。基本的には昼が少し多いぐらいでしょうか。

山口 ある程度、急性期を過ぎれば、今度は、母乳を与えていくことになります。腸から栄養を吸収することは、とても大切です。腸を使わないと、免疫力も下がっていってしまうといわれています。腸内フローラにビフィズス菌などの善玉菌を根付かせるためにも、できれば母乳をあげるのがいいんです。

山口涼子さん
看護師長の山口涼子さん

ミルクをあげる前から まずビフィズス菌を

岡本 できるだけ早く口からあげて腸から栄養を吸収していけるようにと考えながら、先生たちも診察・治療をしています。そうできない場合には、母乳を綿棒に浸し赤ちゃんの口の中に塗ってあげます。母乳に含まれる、免疫力を高めるための成分をなるべく早く、あげるためです。

山口 赤ちゃんが早く生まれたとき、お母さんはまだ母乳がだせる状態ではないはずなのに、30週に満たない出産でも、間もなく、母乳がでるようになる。赤ちゃんを育てるために。早産児を産んだお母さんの母乳は、正期産のお母さんよりカロリーが高いともいわれています。

―― 順天堂大のNICUでは、腸内環境を整えるため、ビフィズス菌の投与もしていると聞きました。

岡本 小さい赤ちゃんたちには、急性期を過ぎ、腸で栄養がとれるようになったら、ミルクをあげる前から、まずビフィズス菌を投与するようにしています。基本的には1日1包(1g)。蒸留水4ccに1包を溶かして。4ccを一度にあげられる赤ちゃんには1日1回ですし、すごく小さい赤ちゃんの場合は、0.5ccずつ、1日8回に分けて、ミルクの時間にあわせてあげるようにしています。

山口 便を良い状態に保つことは、早産児にはとても大事なことです。便が出ないと、血流が悪くなり、腸管が壊死(えし)してしまうこともあります。便が詰まって固まってしまい、腸管が破れないようにしなければなりません。早産児がまず、便通を整えなければいけないのはこのためです。

 ここでは、もうずっとビフィズス菌をあげているので、あげていない場合との比較をできないところがあります。ただ、外科手術が必要な赤ちゃんは、手術のときの抗生物質で腸内フローラが乱れてしまい、その後、栄養をとっても、下痢になってしまったり、腸が動かなくなったりします。そうしたときに、腸内細菌の大切さを感じます。このため、外科で入院した赤ちゃんにも腸の機能が回復して栄養を吸収できるようになったら、ビフィズス菌をあげて、できるだけ早く腸内環境が整うように手助けしています。

山口さんと岡本さん

赤ちゃんの「人生の初めて」を一緒になって

―― 赤ちゃんの様子をお母さんたちには、どのように伝えるのですか。

岡本 本当だったら、お母さんと赤ちゃんは24時間一緒にいられるのに、入院しているときは、面会時間も制限されてしまいます。その間、赤ちゃんがどのように過ごしているか、赤ちゃんの成長と発達を一緒に感じられるようにと気をつけています。私たちのところでは、育児ノートといっていますが、赤ちゃんの日々の様子を、担当した看護師がノートに記しています。そこにお母さんが書き込むこともある。その子が大きくなったら、自分でみてもらってもいいかなと思っています。

山口 新生児看護はこれまでの積み重ねのうえに今があります。こういうときはこうする、という、命を救うマニュアルは、医療も看護も整ってきて、いまは障害が残らない医療、看護をどう整えていくかに重点が移っています。生まれてからある程度の月日が過ぎたら、お友達と同じ成長、発達をしていくというところを目標にしています。私たちが未来をつくっていくのだと。

岡本 本当に未来しかないっていうか、すごくちっちゃな赤ちゃんが、たとえば500gで生まれたところからケアをして、退院するときには、3Kgになる。その間に、一人ひとりの赤ちゃんにとっての、人生の初めてを一緒になって見守れる。お母さんと一緒に赤ちゃんの成長や発達を感じ、元気に退院していくところをみることができる。それが私たち自身のやりがいにもつながっています。

【大腸最前線4 新生児ケアと腸内フローラ】

  • 岡本 小百合
  • 岡本 小百合(おかもと・さゆり)

    順天堂医院 NICU/GCU看護主任

    順天堂大学医学部付属の順天堂医院に勤務。新生児集中ケア認定看護師。現在は、お産や新生児の治療・ケアをする周産期センターの新生児集中治療室(NICU)/回復期病床(GCU)の看護主任。

  • 山口 涼子
  • 山口 涼子(やまぐち・りょうこ)

    順天堂医院 NICU/GCU看護師長

    順天堂大学医学部付属の順天堂医院に勤務。皮膚・排泄ケア認定看護師。現在は、お産や新生児の治療・ケアをする周産期センターの新生児集中治療室(NICU)/回復期病床(GCU)の看護師長。

  • この連載について / 大腸最前線

    大腸にすむ腸内細菌は、検査法の飛躍的な進歩などにより、私たちの健康増進に役立つさまざまな働きが明らかになってきました。腸内細菌を活用した最新の治療例や、医療現場の動向などを、分かりやすくご紹介します。

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