「チャンスは前髪でつかめ」という言葉を聞いたことがありませんか? 「チャンスの神様には前髪しかない。なので、やって来ても通り過ぎてしまえばもうつかめない。だから、チャンスが来たなら迷うことなくその前髪をつかめ」。そんな意味だそうです。今回は人材コンサルタントの田中和彦さんと「プロヴァンスの贈り物」という映画を教科書に「リスクを恐れず、チャンスをつかむ生き方」について考えます。
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11月と言えば、ボージョレ・ヌーボー。第3木曜日午前0時の解禁を、心待ちにしている人もおられるでしょう。
ワインを題材にした映画も、探すと色々ありますね。今回は「プロヴァンスの贈り物」(2006年、リドリー・スコット監督。原題「A Good Year」)を紹介しましょう。

ロンドンで金融トレーダーとして超多忙な日々を送るマックス(ラッセル・クロウ)あてに、南仏のプロヴァンス地方でワインを醸造していた叔父の訃報(ふほう)が届きました。その遺産を相続することになったマックスは、少年時代に夏の休暇で毎年過ごしていたぶどう園を再訪します。当初は、土地も屋敷もすべて売却してしまおうと考えていたのですが、改めて触れたプロヴァンスの豊かさに人間本来の生き方を感じ、その気持ちは揺れていきます。果たして彼は、叔父のぶどう園を継ぐのでしょうか・・・。そんな物語です。
トレーダーという金融業界の最前線の仕事から、全く畑違いで経験のないワイン醸造家への転職には、大きな決断が必要だと思われます。ある意味、積極的にリスクを取りに行くような生き方ともいえるでしょう。
私の知り合いにも、そんな転職を果たした人がいます。マーケティング・コンサルタントから、東京・吉祥寺のジャズカフェ&ライブハウスの経営者に転身した柳本信一さん(62)です。
「ねえ、柳本さん、うちのお店を継ぐ気はない?」
3年前、柳本さんは、かねて知り合いだった寺島靖国さん(82)から唐突にそう言われました。寺島さんはジャズ評論家・オーディオ評論家として知られる、吉祥寺のジャズ喫茶「meg(メグ)」のオーナー兼マスターでした。
オーディオ趣味が高じて、リスニングルームまで作っていた柳本さんは、「meg」で定期的に開かれるオーディオマニアの集いに参加するようになり、寺島さんと親交を深めていました。しかし、突然の申し出には正直、面食らったそうです。
「年齢的にそろそろ潮時かと思って」という寺島さんですが「店は畳んでもいいんだけど、店名に娘の名前をつけちゃったからなぁ」と、お店には未練もあったのです。
当然ながら、返事は保留させてもらったのですが、柳本さんの心はザワついていました。
当時、柳本さんは58歳。還暦を前に「平均寿命まであと約20年。健康寿命なら十数年。このまま今の仕事を続けながら、残りの人生を送っていいのかな」と、思っていたのです。
サーフィンが趣味でもある柳本さんは「大きな波が来たら、逆らわずに乗るべし」というポリシーで生きてきました。就職も、住宅購入も結婚も、そして起業も、大きな節目では必ず向こうから大きな波が押し寄せて来て、それを逃すことなく乗ってきたのです。今回も案の定というべきか、2週間後には「やらせてください」と返事をしていました。
決めたからには、すぐに準備を始めます。店では軽食も出すので、料理などしたこともなかった柳本さんは、料理学校にまず通ったそうです。そして、店舗の改装などをして、無事に2年前の4月、「音吉(おときち)!MEG」として新装オープンさせました。

寺島さんのバックアップもあり、多くのメディアからも取り上げられ、スタートは上々でした。しかし、ライブ演奏するアーティストのブッキングから、音響機材のセッティングや音の調整など、初めてのことばかり。当初は、音響トラブルなどに肝を冷やすこともあって、体重はすぐに5キロも落ちたのだとか。初年度は業績的には厳しかったものの、2年目はV字回復で、黒字化のメドもついていました。なのに、今回のコロナショックに見舞われてしまったのです。
今年は、2月ぐらいから徐々に客足が遠のき、3月にはお客さんはもちろん、アーティストも店には来てくれません。4~5月は休業。6月から再開して、やっと8割ほど客が戻ってきてくれたと思ったら、第2波がやってきました。お客さんの密を避けるために、席数を半分にしましたが、当然ながら売り上げも半減。「精神的に相当参りましたね」と柳本さん。
しかし、うれしいこともありました。5月に始めた「店とアーティストを救済するため」のクラウドファンディングにそれなりの資金が集まったのです。ライブの有料ネット配信にも、全国のファンがアクセスしてくれるようになり、希望も見えてきました。
「無我夢中でやってきて、この先もどうなるかわからない状態です。でも、とにかくいい音と、いい音楽を広めたいという気持ちだけは変わりません」。柳本さんは、困難を丸ごとのみ込んで、やりがいに転化しているかのようにも見えました。
そういえば、「プロヴァンスの贈り物」には、こんなシーンがありました。マックスを引き留めようとする金融会社の社長は、彼に共同経営者にならないかと持ちかけます。その時の応接室には、ゴッホの絵が掛かっていました。
「これはレプリカ。本物の絵は銀行の金庫の中にしまってあるんだ」と、自身の資金力を見せつけるかのように語る社長に、マックスはこう言い放つのです。「本物の絵は、一体いつ楽しむんですか?」と。
象徴的なシーンとして、このセリフは私の心に響きました。
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今回登場した映画について
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「プロヴァンスの贈り物」(2006年 アメリカ)© 2006 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved
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この連載について / 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」
映画はこれまで、実に様々な人生を描いてきました。映画の数だけ、違った人生の形があるとも言えます。人生100年時代。第二の人生を、いかに充実したものにしていくか。そんな「残された時間の歩き方」のヒントを、古今東西の映画をお手本にしながら考え、お届けする連載です。
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