<連載> 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

亡父の立場になって気付いた 家族を思う気持ち

映画「アバウト・タイム」を見て考える 大切な人の守り方

2020.11.27

 あなたにも、大切な人がいると思います。伴侶、子ども、老いた親、友人・・・。思い浮かべる相手は、時と場合により様々かもしれません。でも、長い人生にはふとしたことから、その人の大切さに改めて気付き、体を張ってでも守りたいと思う、そんな瞬間があるのではないでしょうか。今回は、2014年公開の映画「アバウト・タイム ~愛(いと)おしい時間について~」を教科書に、人材コンサルタントの田中和彦さんと、大切な人を守りたい気持ちについて考えてみましょう。

 「アバウト・タイム ~愛(いと)おしい時間について~」は、イギリスの作品です。この映画はタイムトラベルものなのですが、全くSF的な雰囲気はなく、ほんわかとした人間ドラマになっています。

映画「アバウト・タイム ~愛おしい時間について~」劇中写真
主人公のティムを演じるドーナル・グリーソン(写真右)と、メアリー役のレイチェル・マクアダムス  ©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

 イギリスの南西端のコーンワル地方に住むティムは、自分に自信がなく、恋人がいないのが悩みでした。21歳の誕生日に、父から「一家の男たちには代々、タイムトラベルの能力がある。ただし自分の過去にしか行くことはできない。その力は金もうけのためではなく、理想の人生を送るために使え」と告げられます。早速、ティムはその力を恋愛成就のために使うのですが、思い通りにはいきません。
 その後、ロンドンに移り住んで弁護士として働きだしたティムは、ある夜、偶然出会ったメアリーという純朴な女性に恋をします。タイムトラベル能力は、うまくいったり、いかなかったりでしたが、ふたりの恋は進展して結婚、子供も授かり、理想の人生を歩むかに見えました。しかし、そんなティム一家に、困難な問題が降りかかって・・・、という物語です。
 この作品の素晴らしいところは、恋愛をテーマに始まりながら、途中からそれが「家族への愛」へと広がるところです。ティムも父親になると、見える世界が違ってきて、両親への思いや我が子への思いなど、鼻の奥がツンとくるような話が展開されます。
 人は、自身が置かれる状況が変わると、見える世界も変わってくると言います。たとえば、自分に子供が生まれると分かった瞬間から、やたらと妊婦さんが目についたり、小さな子供が気になったりするのです。つまり、人間は、日常の中で見たいものだけを見ていて、言い換えれば、関心がないものは視界に入っていても意識がそこに向かないということです。

 「目に入るものが、別の意味を持って見えてくることがある」と、私に面白いエピソードを伝えくれた人がいました。Rさん(62)です。
 Rさんの実家は、田舎にあります。子供の頃は、両親と父方の祖父母、兄と姉の7人で暮らしていました。何度か増築した、広い一軒家で。
 両親の寝室には、なぜか木刀がありました。壁の長押(なげし)に沿って設けられたフックにのせる形で、横に飾られていたのです。修学旅行生が京都などで土産に買うような、あの木刀です。幼い頃、子供心に不思議に感じていたRさんは、なぜ木刀があるのか母に尋ねたそうです。すると「あれは、お守りなんだよ」との返事。その時は「ふーん」で、話は終わりました。
 大学に入って実家を離れたRさんが帰省した時にも、木刀が目に入りました。今度は父に聞いてみると「ほかに仕舞う場所がないからな」。その時も、はぐらかされたような返答でした。Rさんは内心「部屋に木刀を飾るなんて、趣味が悪い」と思いながらも、そのまま意識の外に、流してしまったということでした。
 Rさんが、その木刀の存在理由について、ある確信を持ったのは、もっと後になってから。年老いた父が亡くなった後のことだそうです。Rさんは、40代後半になっていました。
 お盆休みに帰省したRさん一家4人(妻と子供2人)は、かつて両親が寝ていた部屋に布団を敷き、休むことになりました。
 そして、まだ幼かった子供たちの寝顔を見ながら、決して戸締まりがいいとは言えない古い屋敷のことを考えた時、「もしものことがあったら・・・」と、思わざるを得ない自分に気づいたのです。Rさんが、部屋の長押の方を見上げると、木刀は以前と同じように飾られていました。
 自分が幼い頃の父の立場を考えれば、木刀は紛れもなく、7人家族の家長として「何かあった時に家族を守るためのもの」だったに違いありません。Rさんは、かつて父の趣味の悪さを内心笑ったことを恥じたそうです。そして「守るべきものを持って、初めてわかることもあるのだな」と、実感したのだそうです。

映画「アバウト・タイム ~愛おしい時間について~」劇中写真
©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

 さて、映画「アバウト・タイム ~愛おしい時間について~」に話を戻しましょう。タイムトラベル能力を、恋愛のため、愛する家族のために使っていたティムも、やがて3人の子供をもうけて気づきます。どんなに時を戻したとしても、変わらない事実があることに。そして、今というこの時を生きる大切さを知ってある決断を下すのです。
 おっと、その内容については、実際に映画をご覧になって確かめていただければと思います。

今回登場した映画について

  • 映画「アバウト・タイム ~愛おしい時間について~」ジャケ写 ©2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
  • 「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」(2014年 イギリス)
    ©  2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
    Blu-ray: ¥ 1,886 +税 / DVD: 1,429 円+税
    発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

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  • 田中和彦
  • 田中 和彦(たなか・かずひこ)

    人材コンサルタント/プロデューサー/(株)プラネットファイブ代表取締役

    1958年、大分県生まれ。一橋大社会学部卒業後、リクルートに入社。「週刊ビーイング」「就職ジャーナル」など4情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社ギャガで映画プロデューサー、キネマ旬報社・代表取締役を経て、現職。キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『「定年サバイバル時代」の働き方ルール』(朝日新聞出版社)、『50歳から男振りを上げる人』、『42歳からのルール』(明日香出版社)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

  • この連載について / 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

    映画はこれまで、実に様々な人生を描いてきました。映画の数だけ、違った人生の形があるとも言えます。人生100年時代。第二の人生を、いかに充実したものにしていくか。そんな「残された時間の歩き方」のヒントを、古今東西の映画をお手本にしながら考え、お届けする連載です。

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