60〜70代で発症することが多い脳卒中は、早期対応が非常に大切な病気です。もしも、心配な症状があったら、コロナ禍での受診はどうしたらいいのでしょうか。日本脳卒中学会の理事で、日々、脳卒中の治療に取り組む坂井信幸先生、日本脳卒中協会の常務理事として、脳卒中の予防と患者さんや家族の支援に取り組む橋本洋一郎先生(※)、日本脳卒中学会のCOVID-19対策プロジェクトチーム座長である平野照之先生をお迎えし、2013年に脳梗塞(こうそく)発症後、療養を経て復帰、現在もフリーアナウンサーとして活躍されている大橋未歩さんが、脳卒中の前触れとなるサインや、発症後の措置、ふだんの生活での心がけなどを聞きました。
※橋本先生は熊本からリモートで参加いただきました。

毎年29万人が発症、死因4位で後遺症も
大橋 まずは脳卒中とはどのような病気なのか、どんな症状が現れるのか教えてください。
橋本 脳卒中は脳の血管に起きる病気です。血管が詰まる脳梗塞、脳の内部の血管が破れる脳出血、表面の血管が破れるくも膜下出血の三つがあります。脳卒中は日本人の死因の第4位で、生存者にもしばしば重篤な後遺症が残ります。要介護5の寝たきりになる原因の第1位で、認知症の原因の3~4割を占めます。毎年、推計29万人が発症しており、高齢化にともない今後も増加が予想されます。
坂井 脳卒中の症状は様々ですが、共通しているのは突然、障害が起きることです。脳梗塞と脳出血の場合は顔や手足の片側の麻痺(まひ)、しびれ、言語障害や視覚障害などが起きます。くも膜下出血の場合は、それまで経験したことがないような激しい頭痛に襲われます。
大橋 実は私も、軽い脳梗塞を発症したことがあるんです。寝る前に顔を洗っていたら左手の感覚がなくなって洗顔クリームを落とし、拾おうと思ったら倒れてしまったんです。家族によると、その時の私の顔の左側はゆがんでいたそうです。
坂井 若い女性の発症は珍しいですね。とはいえ若い方でも様々な要因から脳卒中になることがあるので注意が必要です。
コロナを気にせず、救急車で病院へ
大橋 コロナウイルスが脳卒中の原因になるようなことはあるのでしょうか。
平野 今のところコロナ感染が直接、脳卒中を起こしたという事例はありません。ただコロナのような重症感染症になると、血液が固まりやすくなります。よってコロナ感染が原因で血栓症を引き起こし、脳卒中になったという報告はあります。
大橋 コロナ禍の今は脳卒中を疑っても、救急車を呼んでいいのか悩む人もいそうです。
橋本 悩む必要はありません。脳卒中は早く治療すればしただけ、治るチャンスが高まり、後遺症も少なくなります。「なにかおかしい」と思ったらACT FASTでチェックし、該当すれば迷わず救急車を呼んでいただきたいですね。

坂井 第1波の頃はみなさん病院に来ることを怖がり、脳梗塞の診断や治療が遅れ、残念ながら後遺症が残ってしまった人もおられます。今後そのようなことがないよう、一刻も早く病院に来ていただきたいですね。
大橋 医療崩壊も心配されるなか、病院では通常通りの脳卒中診療を受けられるのでしょうか。
平野 緊急事態宣言が出た4月、5月は脳卒中の治療件数や入院数は減少しましたが、今は回復しています。日本脳卒中学会では感染対策を徹底して診療を行うための指針を、全国の脳卒中センターに周知しています。今では従来通り診断・治療ができますので安心してください。

橋本 今はコロナの影響で健康診断を受ける方も減っています。コロナ患者を受け入れている病院や救急病院に不安を感じている方もいるようです。でも実はそのような病院のほうが、むしろコロナ対策は徹底しています。
まずは予防が大事、医療の進歩にも期待
大橋 脳卒中を予防するうえで大切なことを教えてください。
橋本 脳卒中の要因は食生活の欧米化や運動不足、お酒の飲み過ぎ、喫煙などの生活習慣、高血圧や糖尿病、脂質異常症やメタボ、心房細動などです。まずは毎日血圧を測り、場合によっては降圧薬を服用しましょう。脳卒中予防のためには禁煙が必要です。日本脳卒中協会がHPで公表している「脳卒中予防十か条」を参考に、ぜひしっかり予防していただきたいですね。
大橋 万が一、脳卒中になってしまった場合はどのような治療法があるのでしょうか。
坂井 脳梗塞の場合、発症から4時間半以内なら点滴によるrt-PA療法が有効です。24時間、365日この治療を提供できる974の病院が公表されており、救急隊も脳卒中を疑えばすぐそこへ運んでくれます。rt-PA療法で対応できない方にはカテーテルによる治療法もあります。脳出血やくも膜下出血の治療も年々、進歩しています。そのため脳卒中を発症しても、早期のリハビリをして社会復帰できる人が増えています。再生医療の研究・開発も進んでいるので、半身不随の方も長生きすれば、再び歩けるようになる時代が来るかもしれません。
大橋 私自身、脳梗塞の治療を受けた時、日進月歩の医療の進歩を本当にありがたいと思いました。最後に一言ずつ、読者へメッセージをお願いします。
橋本 脳卒中は健康寿命を縮める一番の病気です。何歳になっても自分の足で歩き、自分の口で食べ、人生を楽しみ続けられるよう、まずは予防をしっかりしていただきたいと思います。
平野 脳梗塞を発症した場合は、4時間半以内にrt-PA療法を受けられるかどうかが鍵です。ただ最近は4時間半を過ぎても治療できる場合が多いので、とにかく一刻も早く救急車で病院に来ていただきたいですね。
坂井 一人暮らしの方は、自分で救急車を呼べないこともあります。田舎で一人暮らしをしている親御さんなどに対しては、見守りの体制やいざという時の対応の仕方を事前に考えておいたほうが良いでしょう。
大橋 先生方からお話を伺い、コロナ禍でも今まで通り脳卒中の診断・治療ができることに安心しました。とにかく症状を感じたら、ためらわずに救急車を呼ぶ。そのことを日頃から、心に留めておきたいと思います。
(企画制作:朝日新聞社メディアビジネス局)
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坂井 信幸 先生(さかい・のぶゆき)神戸市立医療センター中央市民病院副院長、脳神経外科部長、臨床研究推進センター長
関西医科大学大学院医学研究科博士課程修了。京都大学医学部助手、国立循環器病センター医長を経て、現職。京都大学臨床教授、兵庫医科大学特別招聘(しょうへい)教授、関西医科大学臨床教授、愛媛大学客員教授などを兼務。日本脳卒中学会理事・専門医。2020年に「美原賞」を受賞。
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橋本 洋一郎 先生(はしもと・よういちろう)日本脳卒中協会常務理事、熊本市民病院神経内科・地域医療連携部、リハビリテーション部首席診療部長
鹿児島大学医学部卒業。熊本大学医学部第一内科、国立循環器病センター内科脳血管部門、熊本大学医学部第一内科助手、熊本市立熊本市民病院神経内科医長、同診療部長、同首席診療部長を経て現職。日本脳卒中学会理事・専門医。
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平野 照之 先生(ひらの・てるゆき)日本脳卒中学会COVID-19対策プロジェクトチーム座長、杏林大学医学部付属病院脳卒中センター長
熊本大学医学部卒業。熊本労災病院内科副部長、熊本大学医学部附属病院医員、熊本大学講師、大分大学医学部附属病院神経内科診療教授を経て現職。専門は神経内科学、脳卒中学。日本脳卒中学会理事・専門医。1995年に日本心臓財団「草野賞」を受賞。
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大橋 未歩(おおはし・みほ)フリーアナンサー
上智大学卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士取得。2002年テレビ東京に入社し、スポーツ、バラエティー、情報番組を中心に多くのレギュラー番組で活躍。2017年からフリーに。脳梗塞を発症した経験から、パラスポーツの魅力を伝える活動にも力を入れている。
協力:
日本脳卒中学会
https://www.jsts.gr.jp/
日本脳卒中協会
http://www.jsa-web.org/
提供:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
https://www.jnj.co.jp/
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