目、口、鼻や、腸などの粘膜から、ウイルスや病原菌の侵入を防ぐ「粘膜免疫」(記事・上を参照)。その免疫力を最大限に生かすには、マスクや手洗いで外敵の流入量を減らことが欠かせないと、東大教授の新藏礼子さんは強調します。なぜなのでしょう。

「前衛隊」が素早く対応、敵情報を「後衛隊」に
外敵から体を守る免疫機構は、「自然免疫」と「獲得免疫」という二重の備えを敷いています。
自然免疫は、生まれたときから備わった防衛機構です。未知の異物の侵入を、素早く感知し、敵をのみこみ、動けないようにしたり、分解したりして処理します。「どんな相手に対しても手持ちのヤリを持って駆けつける前衛隊的な存在です」と新藏さん。闘いながら、敵の情報を後方に伝えることも重要な任務のひとつです。
一方、獲得免疫は生まれてから発達していく防衛機構。自然免疫の前衛隊から送られてきた情報をもとに、敵(抗原)の弱点をつく武器(抗体)を準備し、一斉攻撃をしかけます。粘膜免疫の主役として働く「IgA抗体」も、この獲得免疫のひとつです。
未知の敵、大量侵入してきた時は・・・
こうした二段構えの免疫機構は、とてもよくできたシステムですが、未知の敵が大量にやってきたとき、問題が生じます。
自然免疫は、素早いけれど、実はそれほど強くない。敵が少ない場合は対応できても、一度に大量の敵に攻めかかられると、持ちこたえられません。後衛隊に情報を伝えきる前に、守りを破られてしまうことがあります。一方、獲得免疫がつくりだす武器は強力ですが、ぴったりの武器をつくるのに「最低でも2週間かかります」。

どうしたらいいか。まずは攻撃してくる敵の量を、できるだけ減らすこと。マスクや手洗い、うがいは、免疫まかせにせず、自分たちでできる対策というわけです。
ワクチンで、抗体作りを人工サポート
新型コロナウイルスの感染拡大阻止にむけ、欧米ではじまったワクチン接種も、二段構えの免疫システムを念頭においています。
まず新型コロナの特徴を見つけ出し、その情報を盛り込んだワクチンをつくります。接種したワクチンに、自然免疫の前衛隊が立ち向かい、ウイルスの特徴を獲得免疫に伝え、新型コロナ向けの武器となる抗体を体内でつくってもらう。ふだんは免疫機構がやっている抗体づくりのための情報提供を人工的にサポートするわけです。
体内の免疫機構やワクチンが有効に働くかどうか、もうひとつのポイントは、獲得免疫が強い武器(抗体)を生み出せる免疫力をもっているかどうかです。

抗体の強さ・弱さ、ワクチンの効きを左右
粘膜免疫の主役となる「IgA抗体」とコレラの毒素を使ったマウスの実験で、新藏さんは、IgAの強さ弱さと、体の抵抗力の関係を調べてみたことがあります。病原体の特徴に応じた強いIgAを作れる通常のマウスと、IgAの作りかえができないようにしたマウスとでは、コロナ毒素に対する抵抗力も、ワクチンの効きも大きな違いが現れました。

腸内細菌とIgAの関係もおなじです。腸内フローラのなかから「悪玉菌」を見つけ出し、善玉菌優勢の腸内環境を整える。そんなIgAの能力は、悪玉菌とどれだけ強く結びつく力があるかどうかで左右される、と新藏さん。加齢によってIgAと悪玉菌との結びつきかたが弱くなることなどもわかってきました。

いまのところ、ビフィズス菌などがだす短鎖脂肪酸でIgAの産出量が増えることはわかっていますが、質のよい強いIgAを体内でつくらせるメカニズムはみつかっていません。ただ、マウスの実験を通じて、腸の粘膜から結合力の強いIgA抗体を見つけ出せるようになってきました。
今後、強いIgA抗体を効率的に増やせるようになれば、新しい抗体医薬の開発につながっていくかもしれません。たとえば加齢や病気などでIgAが弱くなったひとに、目的に応じたIgAを投与して、免疫力の強化や腸内環境の改善につなげていく。将来、そんな広がりがでることが期待されています。
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