ドラマに映画に活躍する俳優の松重豊さん。今月58歳を迎えたReライフ世代です。昨年、初の著書「空洞のなかみ」を出版、新たに「小説家」という顔が加わりました。年齢を重ね、ますます活動の幅を広げる「松重流」の人生後半の楽しみ方とは。初回はコロナ禍で挑んだ小説について聞きました。

ひとつの人生、俳優だけではもったいない
著書「空洞のなかみ」は、書き下ろし12編の短編小説「愚者譫言(ぐしゃのうわごと)」と週刊誌連載エッセー「演者戯言(えんじゃのざれごと)」からなる一冊。初の小説は、くすりと笑える軽妙な筆致で、主人公である役者の心象風景が描かれている。
――俳優である松重さんが、なぜ小説を書こうと思ったのでしょうか。
役者という仕事を長いことやって、自分でもよくわからなくなってきたことがあります。俳優だけにしがみついてきたけれど、音楽が好きで、ラジオ番組のパーソナリティーを始め、星野源くんみたいなマルチに活躍する若い人と交流が生まれると、「そういう人生もあったのかもしれない」と思うようになりました。
俳優で生計を立てるのが人生の目標でしたが、とりあえず生計を立てられるところまできて、子どもも成人して送り出せた。言ってみれば、「余生」みたいなところがあるんです。諸先輩方は「俳優の仕事は死ぬまで謎だ」とかおっしゃるけど、いつまでもわからない答えを追い求め続けるのは、ひとつの人生の中ではちょっともったいないという気がして。「ほかの問いも解いてみたい」って思うことが増えたんです。
何ができるかなと思っていた昨年4月、エッセーを書いていた週刊誌の編集者から、誰かとの対談を加えて1冊の本に仕上げることを提案されました。でも新型コロナで非常事態宣言が出た。家にいることしかできなかったときに何ができるか、物語を書くことだったらできるかなっていうのが小説の出発点です。
物語を書いていくうちに、今まで俳優として生きてきたことが書きやすいテーマになるし、そこに関して書き始めると、止めどなく書きたい欲望が出てきた。全然違う世界で遊ぼうと思ったんですが、どうあがいても俳優だった人生と表裏一体のものにしかならない。そこは自分でも痛しかゆしという感じです。

演技も小説も「最小限」の表現が面白い
――軽妙でリズム感のいい「松重ワールド」に引き込まれました。
台詞(せりふ)を覚える時間を含めると、年300日ぐらいは他人の書いた言葉に向き合っています。書き言葉として成立していても口に出すことが難しいとか、言葉に対しての感覚は人より敏感になっている。だから書くときも、「しゃべり言葉」として、自分で違和感がないリズム感や語感を選びました。
僕ら役者の最大の楽しみは、最小限の表現でお客さんの想像力を働かせ楽しませることです。でも残念なことに、テレビの表現は説明過多じゃないですか。俳句や短歌のように、最小限の情報量で世界を切り取って、いかに想像を広げられるか。そこに日本語の力があると思うんです。
僕らの世代ってコピーライターが脚光を浴びて、糸井重里さんや仲畑貴志さんが、日本語を洗練された形で切り取った。雑誌「ビックリハウス」の言葉遊びやパロディーもそう。すごく短い言葉で何か伝えることに、憧れというかエネルギーを燃やしていた。筒井康隆さんの寸鉄のようなショートショートも好きで、読者の想像にゆだねるところに面白みがあるし、読者は想像して楽しさをどんどん増幅させていく。それを自分もやってみたかった。

自由に書ける小説にはすごい特権がある
――「空洞のなかみ」で書きたかったこととは。
結果的に、俳優を目指してこの世界に足を踏み入れようとする人へ、こういう入門書があってもいいと思いました。マイケル・ケインというイギリスの俳優さんは、「映画の演技」という本で、ぶっちゃけた俳優論を書いています。僕も、俳優の夢や希望にあふれた若い人たちへ、そんなにきれいな世界じゃないし、輝かしい現場でもないし、大変だけど、でも面白いかもしれないよ、という思いを書きました。
エッセーは、ノンフィクションなので噓(うそ)は書けない。対して小説はフィクションなので、辛らつなことを書いても、「そんなの俺は思ってないよ」といえる。同じフィクションでも、テレビドラマや映画はコンプライアンスなど、いろいろと難しい問題があって自由が利かない。その点、物を書くということに関しては、まだまだ自由が残っていて、大きな可能性があります。「ハリソン・フォード」って書くだけで本に出演してもらえるわけで、それに対して誰からもクレームがくるわけじゃない。すごい特権だと思いました。
(聞き手・松田智子、撮影・伊藤菜々子)
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この連載について / 私のReライフ
第二の人生を自分らしく充実した時間を過ごしている方々をご紹介します。地域ボランティアや趣味の活動、介護や終活、仕事探し、終の住まい選びやリフォーム体験談など、Reライフ読者会議メンバーから届いた活動リポートのほか、第二の人生で新たな挑戦に取り込む著名人にもインタビュー。
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