<連載> 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

コロナだからとあきらめるな 今だからできる意外な楽しみとは

映画「男はつらいよ」で考える 自分の帰るべき場所

2021.02.12

 コロナ禍による外出自粛で、旅や帰省もままならなくなりました。でも、そんな不自由な今も工夫次第で、遠く離れた親兄弟との心の旅が可能だとしたら、試したくはありませんか? 今回は、人材コンサルタントの田中和彦さんと、映画「男はつらいよ」を通して、自分の「帰るべき場所」について考えます。

 私は、コロナ禍によるステイホームの間は「こんな時だからこそ、普段はやれないことをしたい」と考え、昨年は色々挑戦しました。そのひとつが、映画「男はつらいよ」シリーズの一挙鑑賞。第1作から順に、全部見たのです。映画の配信サービスが普及した今だからこそできるチャレンジですね。過去に、おそらく7割くらいの作品は見ているはずですが、通しで見ると、改めて色々な発見がありました。
 例えば、2代目おいちゃん役だった松村達雄さん。3代目の下條正巳さんに交代した後も、ゲストとして毎回いろんな役で登場していました。マドンナ役として出演回数最多の浅丘ルリ子さんは、一貫して歌手のリリーを演じているのに対して、彼女に次いで出演の多い竹下景子さんは3回とも別の役柄で、全く異なったキャラクターを演じていました。初登場の時は10歳だった満男役の吉岡秀隆さんが、第50作の「男はつらいよ お帰り 寅さん」では49歳になっていたことには、ただただびっくり。渥美清さんが演じ続けた寅さんも、最初の頃は型破りで人騒がせな人物だったのに、最後の方では、まるで達観した哲学者のようなたたずまいに見えてきました。

映画「男はつらいよ」ジャケ写
©松竹株式会社

 なぜ、多くの人たちの心を「男はつらいよ」シリーズが引きつけてきたのか。その理由もわかった気がしました。観客は、葛飾柴又の地と「とらや」一家に、「何かあっても戻ることのできる場所と家族」を投影させていたのではないでしょうか。独り放浪する寅さんの心境と重ね合わせれば、誰もが実家のある田舎や家族のことを思い出さずにはいられないことに気付いたのです。長年にわたり年に2作品、お盆と正月のタイミングで公開されていたのもうなずける話です。

 さて、コロナの影響から実家に帰ることが難しくなっている状況で、帰省する代わりに遠くの家族とうまくコミュニケーションを図っている人がいます。コロナ禍を機に、インターネットを使ったオンライン旅行を楽しむようになった都内在住のNさん(52)です。
 きっかけは「コロナで旅行が出来ないからこそ、普段でもなかなか行けないところを見てみようよ」という、奥さんのひと言でした。オンラインで楽しむ海外ツアーに申し込もうと言うのです。行き先は、インドのガンジス川。
 Nさんは当初「テレビの旅行番組と何が違うんだよ」と、否定的な考えでした。しかし、いざ夫婦で参加してみると、想像していたよりもはるかに楽しい体験ができたのだそうです。
 オンライン旅行は、インターネット上で「ZOOM」というコミュニケーションツールを使って行われます。あらかじめ指定された日時に、パソコンで接続し参加。多くの場合、所要時間は大体1~2時間程度です。
 ガンジス川ツアーは約1時間で、ツアー代金は1端末あたり3000円。「夫婦で参加しても、1台のパソコンなら一人1500円なので、成田空港に行くまでの電車賃以下ですよ(笑)」とのこと。この金額で、ヒンドゥー教徒の巡礼地として有名なバラナシの街から、現地の日本語ガイドが、ガンジス川での水浴風景や迷路のような旧市街地の路地の売店などを案内してくれるというのです。
 テレビの旅行番組と決定的に違うのは、ライブだということ。「時差もあるし、画像が乱れるなど思わぬハプニングもあります。何よりガイドの人に質問するなど、直接会話できることが最大の魅力」なのだそうだ。
 このツアーには、イギリスに住む友人夫婦と同時に参加したそうで「旅を共にする感覚で、彼らとの会話も久しぶりに楽しむことができました」と、Nさんの方が見事にはまってしまった感じなのです。

 それから、Nさん夫婦は毎週のように色々なオンラインツアーに申し込んでは、パソコン上で世界の観光地の旅を続け、まるで世界一周を楽しんでいるかのようでした。受験を控えている娘さんも、時々息抜きに参加するなど、家族の会話も弾むようになりました。
 一度だけ失敗したのは、北陸に住む両親を誘った時のこと。パソコンの操作は同居している兄の家族に依頼。世界遺産で有名なマチュピチュへの旅に誘ったのだそうです。年老いた両親には、オンラインツアーの何たるかもわからず、マチュピチュがどこにあるかも知らず、さっぱり要領を得ないまま「何が面白いのかわからん」と、途中でリタイア。時差の関係で夜のツアーだったこともあり、早々に寝てしまったのだとか。親孝行のつもりが、この時ばかりは残念な結果に終わりました。
 そのリベンジを果たそうとNさんは、今度は両親を国内のオンラインツアーに誘ったのだそうです。行き先は、両親が新婚旅行で訪れたことのある宮崎にしました。しかも、参加者の少ないツアーを狙ったら、結果的に他の客はおらず、両親と兄一家に加えて、新たに誘った大阪の妹一家まで参加。現地の宮崎と4元中継で結んだ半日のプライベートツアーになったそうです。この企画は大成功。「事前に地元の名産物や食材、お酒がそれぞれの家に送られてきて、飲みながら食べながら、まるで親族が集まって宴会をしているような感覚でした」。足腰が弱って旅行どころではなかった両親も、孫たちと一緒に旅した気分になれたのがこの上なくうれしかったと見え「次はいつどこに行くの?」と、催促してくるようになったのだとか。

 もちろんリアルな旅行には負けると思います。でも、コロナのおかげでフーテンの寅さんのようにふらりと出掛けられなくなった人たちにとってはこのオンラインツアー、非常に価値のあるイベントだと感じました。
 このコロナ禍の状況もとで旅行ができない方、田舎に帰省できず親孝行もままならない方はたくさんおられるでしょう。でも、今回紹介したNさんのように、考えようによっては新しいスタイルの旅や親孝行も、可能な時代になってきました。ぜひみなさんも、外出自粛のご時世だからとあきらめず、自分なりの親兄弟とのつながり方を考えてみてはいかがでしょうか。

 さて、私に帰るべき土地や家族の存在を思い出させてくれた「男はつらいよ」。国民的作品とも呼ばれたシリーズですが、改めて見たくなった方もいるのではないでしょうか。昭和から平成の時代を経て令和の世となった今、見たことがないという人も増えているでしょうし、ぜひこの機会にご覧いただくことをお勧めいたします。私のように、第1作から順に見る必要はありません。好きなマドンナの出演作をピックアップしてもいいでしょうし、寅さんが旅する地域から選ぶのも楽しいと思います。
 シリーズのどの作品を見ても、誰もが家族という存在のありがたみを感じるでしょうし、自分の故郷のことを思い、そのかけがえのなさに気付くはずです。

今回登場した映画について

  • 映画「男はつらいよ」ブルーレイジャケ写 ©松竹株式会社
  • 「男はつらいよ」(1969年 日本)
    © 松竹株式会社
    Blu-ray(4Kデジタル修復版):3,080円(税込)
    DVD(HDリマスター版):1,944円(税込)

    全50作ブルーレイボックス:148,500円(税込)
    全50作DVDボックス:85,800円(税込)
    公式サイト
    発売・販売元:松竹
  • 田中和彦
  • 田中 和彦(たなか・かずひこ)

    人材コンサルタント/プロデューサー/(株)プラネットファイブ代表取締役

    1958年、大分県生まれ。一橋大社会学部卒業後、リクルートに入社。「週刊ビーイング」「就職ジャーナル」など4情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社ギャガで映画プロデューサー、キネマ旬報社・代表取締役を経て、現職。キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『「定年サバイバル時代」の働き方ルール』(朝日新聞出版社)、『50歳から男振りを上げる人』、『42歳からのルール』(明日香出版社)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

  • この連載について / 映画に学ぶ「残された時間の歩き方」

    映画はこれまで、実に様々な人生を描いてきました。映画の数だけ、違った人生の形があるとも言えます。人生100年時代。第二の人生を、いかに充実したものにしていくか。そんな「残された時間の歩き方」のヒントを、古今東西の映画をお手本にしながら考え、お届けする連載です。

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