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家族まかせの介護をこえて 社会に溶け込み 世代をまたいで

直木賞作家・姫野カオルコさんインタビュー(下)

2021.02.26

 家族が介護につきっきりにならないためには、様々な支え合いの仕組みが必要です。20代から5人の介護に関わった直木賞作家の姫野カオルコさんは、つらい気持ちになったとき、一番救われたひと言があったといいます。その体験から浮かんだのが、親の世話を互いに交代するアイデア。世代をまたいだ支え合いも広がってほしいと考えています。

姫野カオルコさん3
姫野カオルコさん

「他人やからできるの」そのひと言に救われた

 私の介護体験は恵まれた方だったと言いましたが、それでもつらくなることは少なからずありました。そんな時に一番、救われたのは、母へのケアにお礼を申し上げた際、グループホームの方がおっしゃった、「他人やからできるの。他人やから簡単やの。私も自分の親は施設に預けてんの」というひと言でした。

 「ああ、そうや。それでいいんや」とすごく救われました。

 決して他人やからどうでもいいという意味でおっしゃったのではないんです。介護が必要になる前の状態を知らない他人やから、たとえばトイレ以外で排尿してしまっていても、「あ、おしっこしてしまったから拭いてあげよう」と、純粋に人道的な反応をしてお世話ができると思うんです。

 ところが、それが肉親となると、以前はどのような人物だったかを知っているから、「昔はこうではなかったのに、どうしてこんなことに」という気持ちがどうしても出てきてしまう。その情けなさが、介護するつらさに覆いかぶさり、つらさが倍増してしまうのだと思うんです。

他の人と親の世話を交代する仕組みがあれば

 ですから介護は肉親任せではなく、第三者の手をできる限り借りた方がいいと思います。ただし、介護を、高齢者施設や介護職員の方たちだけにお任せして世間から隔てた存在にするのではなく、もっと社会の中に溶け込むような形のサービスや高齢者施設が増えるといいなと思います。

 たとえば他人と親の世話を交代するシステムはどうでしょう。デイサービスに一緒にいって、その間は、自分の親ではなく、ほかのひとの親の相手をする。同じ介護でも、肉親の世話をするときのつらさはない。人手不足の緩和にもなるかもしれません。

 高齢者施設と学童保育を併設したり、大学などの学校施設と併設したりする試みももっと広げていけないでしょうか。入居者や介護者以外の第三者が関わる場、とくに異世代交流のできるような場を増やしていくのです。

学童保育や大学と併設すれば異世代がつながる

 母の最初に入ったグループホームには学童保育が併設されていました。庭で遊ぶ子どもたちとおばあさんたちが言葉を交わすなどして交流していました。とてもいい光景でした。

 グループホームの場合、入居している高齢者は比較的、要介護度の低い方が多いですし、身体的には介護が必要でも認知症ではない方もおられます。算数や英語の得意な入居者がいらっしゃる場合には、学童保育の子どもたちに教える機会を設けるのも一案ではないかと思います。

姫野カオルコさん4

 大学を運営する学校法人には、ぜひ高齢者施設の併設を進めてほしい。たとえば高齢者施設は、入居者の移動などを考慮して建物の1、2階といった低層階に、3階以上に教室などの学校施設を入れます。そして、学生さんのなかで希望者には、ヘルパーさんの仕事のうちの簡単な仕事について研修を受けてもらい、試験もして、資格ありと認められた学生さんに、認定された範囲内で、高齢者への支援や介護をしてもらうのです。

 活動時間に応じて学費を免除する仕組みをつくってもいい。福祉学科などの学生さんに限る必要もないと思います。体育会系の部に所属している、体格がよく、体力のある学生さんも向いているのではないでしょうか。

 大学と高齢者施設の併設のメリットは、単に介護施設や介護職員の不足を補うだけにとどまりません。高齢者の方たちにとって、若者との交流はとても大きな刺激になるはずです。大学生にとっては、とくに都市部を中心に核家族が多くなっている昨今、祖父母世代の高齢者の現状を理解することの意味も大きいと思います。

しわくちゃになっても書けるうちは書きたい

 私自身は、若いころから介護に関わってきたので、加齢に伴う変化には敏感です。負の側面を感じるのは身体的な活動においてです。とくに20代後半から続けているジャズダンスでは、若いころには何の苦労もせずに覚えられた振り付けが覚えられなくなったり、頭では理解できても身体の動きが伴わなかったりして、老化という現実に向き合わざるを得ません。

 精神面では、認知症になった家族をみてきた経験から、自分自身が今までと同じ人格でいられるのはあとどれぐらいだろうか、という不安は常に持っています。

 一方で、精神面では、年をとってよかったと思える側面もあります。私はしばらく前から谷崎潤一郎の作品にはまっています。若いころも読んでいましたが、名作を勉強するようなスタンスでした。でも最近は、かぶりつくようにたのしんでいます。

次作は70歳直前の、自分と全然ちがう女性の一生

 そんな変化の根底には、年を重ねるにつれて、人々の感情変化の機微の面白さが理解できるようになった点があると思います。谷崎作品の多くでは、大した出来事は起きないんです。ある意味で、とてもささいな日常の出来事と、それに対する、登場人物の感情の微妙な変化が描かれているだけです。

 それが、さすがは大文豪! 登場人物の感情が読者にとてもよくわかるように描かれています。にもかかわらず、若い時にはストーリー展開が平坦(へいたん)な作品だとがつんと来なかった。いまは、登場人物の日常生活のなかでの、ちょっとした感情変化が、がつんがつん来て、面白くて仕方なくなりました。

 年齢を重ねるにつれ、文学作品だけではなく、私自身や他の人のわずかな感情の変化も本当に面白いと思えるようになりました。この面白さ、楽しさを知ってからは、しわくちゃになってもずっと生きていてやろう、と思うようになりました。書けるうちに書かなければ、という気持ちも強くあります。次作では、70歳直前の、自分とは全然ちがう女性の一生を描こうと構想を練っている最中です。

(構成・大岩ゆり、写真・篠田英美)

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    • 姫野 カオルコ
    • 姫野 カオルコ(ひめの・かおるこ)

      小説家

      1958年、滋賀県生まれ。青山学院大学文学部卒業後、90年に『ひと呼んでミツコ』で単行本デビュー。介護をテーマにした掌編小説集に『風のささやき~介護する人への13の話』がある。2014年に『昭和の犬』で直木賞受賞。19年、『彼女は頭が悪いから』で柴田錬三郎賞受賞。最新作は自伝的要素の強い『青春とは、』(20年)

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